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科学と思想

 科学は事実なのですが、科学者という媒体を通じるため、科学的事実の取捨選択や仮説をたてるプロセスにおいて思想が大きくかかわっています。

優生学

 ダーウィンのいとこ、サー・フランシス・ゴルトンは、知能の遺伝を研究していました。ゴルトンは犯罪と貧困が広がる社会の中で、政府側の適切な計画によって高い知能や優れた品性を有する人々を鼓舞することができると信じ、その計画を「優生学」と呼びました。
 

 また、ローランド・キャンベル・マッカフィは「戦争によって男性は注意深く結婚相手を選ぶようになる。この淘汰プロセスによって、好戦的民族はその健康と美を向上させた。」と主張しました。
 

 チャールズ・ダベンポートは進化論を援用しながら、知能をメンデル学説で説明した。そして、反社会的行為を行った者の生殖的行為を禁じることを奨励しました。
 

 これらは統計的・計量的に導き出された結論(ダベンポートもゴルトンの弟子のカール・ピアソンも統計学を使用し、IQなど定量的手段も編み出した)でしたが、教育や社会状況などを無視して理由を全て遺伝に結び付ける論理は今からみると滑稽に見えます。

人種衛生学

 アメリカの先住民を奴隷化することの是非の議論の中で、アルチュール・ドゥ・ゴビノーは、「人種は生まれつき不平等であり、白人種、とりわけアーリア人種は、人種階層のピラミッドの最高位に位置する」としました。
 

 その後ダーウィンの影響を受けた優生学者アルフレート・プレッツは、不適当な人間が適者や才能のあるものよりも迅速に増大することを恐れ、「逆淘汰が退化を導く」と唱え、「人種衛生学」を打ち立てました。彼は「黒人種が白人種よりも物覚えが悪いことは周知の事実だ」ともいいました。  
 

 プレッツに影響を受けたハンス・フリードリヒ・ギュンターは、「アーリア人種が戦うことをいとわず戦死していった反面、ユダヤ人は体格がやわであったため戦争の最前線に立つことはなく、被害が少なく済んだ」と主張しました。それを受けてヒトラーは「あらゆる戦争は、不釣り合いなほど社会の最適者の人間を代表するものによってなされるため、戦争の犠牲者も不釣り合いなほどでる。ゆえに戦争は最適者の自然淘汰に反する。」とし、人種淘汰を求めるナチズムを「深く哲学的で平和に対して忠実だった」と主張しています。

 今も根強い人種衛生学と優生学

 人種衛生学と優生学はいまも根強いと言われています。DNAの二重らせん構造の発見者の一人であるジェームズ・ワトソンは、アフリカに対する社会政策のすべては“アフリカ人の知性は我々と同等である”という前提で行われているが、それは間違いである」「黒人従業員の雇用者であれば、容易にそれを納得できるだろう」と語り、黒人は人種的に劣等だと主張しました。また、2016年に障がい者施設で入所者19人を刺殺した犯人も、動機の一つに優生学を挙げています。

 優秀さとは?

 優生学が正しいかどうかを科学的につきつめると、「優秀さとは何か」という問題になります。狩猟民族においてはそれは獲物を捕まえる能力でしょう。農耕民族においては、みんなの意見をとりまとめ、ルールを作る能力かもしれません。そして今現在における優秀さとは何でしょうか?知能が高いことでしょうか?体力があることでしょうか?恐らく簡単には言うことはできないでしょう。このように、優秀さとは、その民族のバックボーンや時代によって変わり、一意に定めることができないものなのです。
 

 優生学の誤りは皮肉にも優生学者が利用した自然淘汰によって証明されます。自然淘汰に残る形質はどのようなものか分かりません。そこで人間は、社会を作り、少しでも多くの形質を残すという戦略をとりました。優生学は人間が高度に成長し、そのような人間本来の本能を捨て去ろうとした結果生まれたものなのかもしれません。

参考文献

ヒトラーと科学者たち ジョン・コーンウェル 作品社


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大学4年生 Nサロン2期 LGBTと科学について書くことが多いです XgenderAlly facebook https://www.facebook.com/miurakenshin9879 twitter https://twitter.com/kenshin980709

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