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頂上=目標 大先輩の教え

2010年11月13日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 先週、僕は8人の友人とアフリカ大陸最高峰、キリマンジャロに登ってきた。

 11歳の時以来、実に30年ぶりの登頂だ。この山の難しいところは、アプローチが長く、さらに途中の宿泊地がそれぞれ標高差千㍍もあることだ。通常、高所登山では1日の高低差を500㍍以内にとどめているのだが、キリマンジャロは最短3日間で標高5895㍍(ウフルピーク)の高度を登る。
 この過酷な条件に耐えるために、参加者は事前にミウラ・ドルフィズにある低酸素室で高所順応訓練を行い、さらに富士山を含めた国内の山々でトレーニングを重ねた。
 ともに登ったメンバーは社会的にも成功をおさめ、冒険と挑戦の価値に共感と理解を持っている。彼らは真剣にキリマンジャロという高山に向き合い、忙しい中でも訓練の時間を優先して割り当てた。登山経験こそ乏しいが、目的意識は非常に高かった。

 キリマンジャロの語源は一般にスワヒリ語のキリマ(山)とンジャロ(輝ける)という意味で「輝ける山」だといわれているが、実はもう一つ説がある。マウエンジーの麓に住むチャガ族はスワヒリ語同様、キリマ(山、丘)としているが、ンジャロは「寒い悪魔」だと訳される。つまり寒い悪魔が住む山というわけで、30年前に登った自分の経験からは、こちらの方がぴったりだと思う。
 山頂アタックの日、夜半に出発したときは雨が降っていて思いのほか暖かいと感じたのもつかの間、すぐに横殴りの雪に変わった。低酸素に加え、寒さ、暗闇が襲い掛かる。この悪条件の中で、8人のうち2人は残念ながら下山したが、残りの6人は自らのペースを守り、見事登頂した。

 僕の冒険の原点となった頂に再び戻ってきた。11歳の時は無我夢中だった。今、初挑戦の友人たちを見て思うのは、山頂に達した達成感はもちろんだが、それ以上に成功、失敗を問わず、頂上を中心に物事を考え行動することこそが大切だということだ。登山では素人でも、人生でも社会でも大先輩である彼らから、頂上=目標を常に中心にぶれずに置けば進むべき道を見失うことなく、今、必要とされていることがわかると教えてもらった。
 登山での得難い体験を仕事に生かして成功している登山家もいるが、逆もまたしかりなのだ。

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