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恐怖と向き合う

2014年4月12日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 毎年春のスキーキャンプでは、スキーに加えて、子供たちに最近僕が行った冒険の報告をしている。今年、選んだ話は先ごろ出演したNHKの「課外授業ようこそ先輩」という番組だ。
 「課外授業ようこそ先輩」は著名人が母校を訪れ後輩たちに授業をする番組である。自分がこれまでやってきたことで子供達に伝えられるのは何かと悩んだ末、スキーのジャンプをテーマとして「恐怖」への向き合い方を教えることにした。

 札幌の盤渓小学校は日本で最もスキー授業の日数が多い。後輩達のスキーの腕前は相当なもの。少々のスキージャンプくらいでは驚かない。そのため僕が作ったのは、急斜面に大人の高さほどのジャンプ台で、モーグルのA級大会サイズに相当する。
 ジャンプ台を目にした子供達から「怖い」「やばい」の声が。単なるジャンプ台ではなく斜面とジャンプ角度変化が急激で、普通には飛べない。もとめられるのは無謀な「勇気」ではなく、まず自分が何に対して怖がっているかを理解する必要がある。
 後輩に近くによってもらい、ジャンプ台をしっかりと見てもらう。彼らが怖がっているのは「ジャンプ台の角度」であったり「ジャンプ台の先が見えない」といったりしたものだった。
 「恐怖」に支配されている限り体は動かない。最初に自分で飛べそうなサイズのジャンプ台を一緒に作る。そして自分たちの手で着地にチョップ(雪を掘り返して柔らかくする)を入れて安全を確認する。理性で理解して恐怖の反応を軽減するのだ。
 そして実際に飛ぶときは「自分から踏み切る」ことが重要だと伝えた。最初は怖さのあまり、自分から踏み切ることができずにいた子供も2回目、3回目となると飛ぶのが楽しくなり、笑顔が見え始める。

 自分から主導権を握り「恐怖」を克服した時、その先には克服した達成感と楽しさが生まれる。「勇気」は最初の一歩を踏み出すときに重要だが、それだけですべてを押し切ってしまったら、怖さから自分を知る機会を失ってしまう。
 そのため「恐怖は自分自身が先生だ」と言う言葉を番組の締めの言葉とした。恐怖と向き合うことによって継続的に「勇気」を発揮できる。同じ授業をキャンプでも子供達からせがまれ、キャンプ後半はみんなでジャンプを飛んだ。

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