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家出という名の10歳の冒険。

3日目にして少し落ち着いたので、忘れないうちに記しておこうと思う。

金曜日の夕方、仕事から帰ると息子が不在だった。お友達の家に遊びに行ったとは聞いていたので、そのうち帰ってくるだろうと思い、夕飯の支度をしながら息子が帰ってくるであろう方向を何度か眺めた。この時、18時。夕飯の支度が出来て、下の子(娘)と一緒に食べながら、遅いなぁ、まだかなぁと待った。19時過ぎこんなに遅いのはおかしい、どんどん暗くなる・・・と近所に住む実家に連絡。実家近所のお友達の家を覗いてきてもらうようにお願いする。娘をお風呂に入れる時間になったけれどそれどころじゃない。正直、娘とまともな会話をする余裕もない。彼女の相手をする余裕が全くないのでとりあえすipadを渡してアイスを食べさせて誤魔化す。

娘を連れて探しに出るべきか・・・でも、私が出てしまったら、帰宅した息子が家に入れない。19時半、心配で心配で吐きそう。最悪のケースを想像する。分かる範囲で近所のお友達の家をまわっていた母から連絡、息子はいない。今日は遊びに行っていない。最悪のケースを想像する。

20時前、警察に届ける。話す自分の声が震えているのが分かる。娘がアイスをもう1つ食べるという、普段はアイスは1日1個も食べないが今日はそんなことを言ってる余裕はない、自分を冷静に保つためには娘には悪いが彼女には一人で静かにしていて欲しい。アイスを冷凍庫から出して渡す。ちょうど仕事が終わって帰宅する夫に連絡。最悪のケースを想像する。恐ろしくて声には出せない。でも言葉にしなくても、私の心を読んだ夫が「大丈夫。きっと見つかるよ。きっとお友達の家でゲームでもやってて夢中で時間を忘れてるんだよ」と声を掛けてくれる。

20時半過ぎ、近くの派出所の警察の方が来てくれて詳細を話す。当初、警察署へ来て下さいと言われたが、娘がいること&大人は私一人であることを説明したら警官が来て下さった。警察が我が家に来て大興奮の娘、私と警官の会話に参加したくて仕方ない。私と警察官のやりとりを聞いてほしくないので、冷凍庫からもう1つアイスを出してリビングにいるようにお願いする。小さな娘にはなんでお兄ちゃんが帰っていないのかは分からない。

21時過ぎ、駅周辺の公園やコンビニなどを息子のことを捜しながら夫が帰宅する。夫の顔を見たらずっと我慢していた涙がポロポロと出た。最悪のケースを想像する。だけど恐ろしくて想像の中身については発言できない・・・ただ何度もwhat if(もし)という言葉だけが空回りする。正式な手続き、息子の写真などを提出する為に、夫と娘を家に残して警察署へ向かう。一緒についてくるという娘を説得するためにアイスをもう一つ与える。

警察署では個室へ案内された。3人の警察官にこれまでの状況を説明する。「行方不明の子が女の子だったら正式な行方不明届けを出して、県下全ての警察へ指令をだす」というが、男の子なのでもう少し待ってみてもいいでしょう、とのこと。息子が徒歩であること、お金を持っていると言っても少額なことから、そんなに遠くには行っていないだろう、という判断。正式な行方不明届けを出さなくても、捜索願ですでにたくさんの警察官の方たちが探してくださっている。この時点では伝えなかったが、海外暮らしの長い私は男の子でもいたずら目的の犯罪は存在するので、男の子だから安心とは思えなかった。

22時過ぎ。息子の行方不明について届けをしてあった小学校から電話。目撃情報があったという電話が学校に入ったという電話。「お母さん、すぐに現場に向かって下さい」と言われる。息子だという確信はないが目撃情報という一筋のひかりに、警察署全体がざわつくのが分かった。現場に直行したいという私に警察が「自分たちが行ってきます」と署を飛び出していった。パトカーのサイレンがすぐ外で聞こえたかと思うとどんどん遠ざかった。緊急車両の音をこんな想いで聞くことははじめて。不安や心配で押しつぶされそうだったけどとても心強かった。警察ってこういう時のためにいるんだね。

数分後、無事に発見されたことを電話で知る。胸の重しがふわっと軽くなる。夫に電話をする。実家に電話をする。どちらも言葉を発するたびに涙が出る。

10~15分後、警察官に連れられて息子が警察署に到着。ちょうど酷い雨が降っていた時間帯だったのでずぶ濡れの息子。息子をただただ抱きしめる。

I am so glad you are here. You know how important you are to me. I care about you so much and I was really really worried about you. I love you. I love you. I love you...... Thank god you are here. I love you, I love you, I love you.... ということなことを伝える。息子の目からもポロポロと大粒の涙。 I am sorry mummy. I love you, tooと息子。抱きしめても抱きしめても足りない。この後、彼が出会った人が良い人でどんなにラッキーだったか、一歩間違えていたらもう二度と会えなかったかもしれないということも話した。ほんとによかった。

警察の方たちは息子の家出の原因を知りたくていろいろと質問をした。そして息子の返事に半分苦笑されていた。ある意味、物おじせずに警察と会話ができる10歳児に感心もされていた。息子は説明の中で「家出」という言葉を使ってみるも、その意味がいまいち理解できていないのが分かる。彼にとってはまさに「家を出る」ことが「家出」であり、それってAdventureでありExploreなのだ。しばらく息子の話を聞いた警察の方が言った「家出という名の冒険だったんですね」と。

5時間ふらふらと歩き回ったから足がめっちゃ疲れた~。喉乾いた~と息子。警察署の帰り道、コンビニに寄った。息子はジュースを、私はビールを。長い夜だった。

無事でよかった。ほんとによかった。

帰宅してシャワーを浴びて眠りに就く前に、息子が再度私たち夫婦のところへやってきてI am very sorry. I love you. と声をかけて眠りに行った。(この時、夜中の12時くらい)

この晩は私はよく眠れなかった。1時間おきくらいに息子の部屋に彼の寝顔を見に行った。そして、世の中には最悪の想像をしたまま、安心できずに我が子を探している親御さんがたくさんいることを考えて眠れなかった。3日たった今でも、我が子が行方不明のままの親御さんのことをよく考える。

我が家はハッピーエンドだったけど、そうではない場合だって山のようにある。そういったことに想いを馳せると胸に重しがのった気持ちになる。息子が無事に保護されたことはとても嬉しい、でも手放しで喜んでいいのだろうかという気持ちになる。私はたった5時間強の経験だったけど、これを5日も、5週間も、中には5年も、中には50年も続けている親御さんも世の中にはいる。

その後、息子とはきちんと向き合って話をした。(この時の話はまた近いうちに書こうと思う)私がばか親なのかもしれないが、家に不満があっての家出ではなく、大人の目の届かないところで冒険するという好奇心だったと思う。警察で再会し、息子が警察の方と話しているときに彼の写真を撮った。さっきまで私と抱き合って泣いていたので涙目になってるけど、とてもわくわくした表情で警察官と話す彼が写ってる。

私は彼のこの表情を一生忘れないと思う。

今回の出来事で、彼がどんなに愛されている存在であったかを身に染みて感じてくれたらいいなと思ってる。私にとっても彼にとっても成長の出来事だったと思う。もちろん親として最悪のケースを想像して吐き気を感じるなんて経験しなくてもよい経験値ではあったけど…。

彼の母親になって10年。

親になるってホント日々が感情のジェットコースター。10年やっても全然慣れない。親であるからこその感情に振り回されっぱなし。

これは間違いなくこの先も続くのだと思う。我が身を振り返って、自分の親にこんな想いをさせてきたのかと思うと本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。(リュックひとつで世界を放浪していたから余計にね…大きな事故や怪我もしてるし…)

今日は大変お世話になった警察の方と息子を保護して下さった方に御礼の手紙を出した。彼らがいなければこの結末はなかったかもしれない・・・そう思うと感謝の意を伝えても伝えても伝えきれない。

これまであまり警察の方と接点がなかったが、彼らがどんなに尊い仕事をしているかをホント身に持って知った。

世知辛い世の中で嫌なニュースが溢れているけれど、こんな時間に小学生がおかしいよね、と声をかけ保護してくれるやさしい人がいることも身をもって知った。

私は常日頃、世の中はGive and Takeでまわってると公言しているし、そう思って日々行動している。私も息子も今回の件でとてつもなく大きなTakeをしたのだと思う。その恩返しとしてどんどんGiveをまわしていきたい。

愛しくて愛しくてたまらない冒険家の息子と一緒に。



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