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中国最新法令UPDATE Vol.6:外商投資法施行後の中国新規進出時の手続・留意点(前編)~2022年版市場参入ネガティブリスト、市場主体登記管理条例、市場主体登記管理条例実施細則の公布を契機として~

1. 概要

直近で、日本企業の中国新規進出に影響する法令改正が複数生じています。

中国新規進出においては、①許認可フェーズと、②会社設立登記フェーズに分けて考えると分かりやすいです。

このフェーズ分けに沿って今回の法改正を整理すると、以下のようになります。

①許認可フェーズ
・2022年版市場参入ネガティブリスト(2022年3月12日施行)

②会社設立登記フェーズ
・市場主体登記管理条例(2022年3月1日施行)
 ⇒これにより会社登記管理条例(2016年改正)は廃止
・市場主体登記管理条例実施細則(2022年3月1日施行)

2. 外商投資法施行後の中国新規進出のフレームワーク

2020 年1月1日の外商投資法施行後、中国の新規進出のフレームワークは大きく変わりました。

(1)許認可フェーズ

外商投資法の施行以前は、中国において外商投資企業を設立するためには必ず中央の商務部または地方商務部門の許認可が必要でした(外資企業法6条、外資企業法実施細則7条、等参照)。

これに対し、外商投資法や外商投資法実施条例においては、①外商投資企業の新設につき一律に許認可を要求するのではなく、2つの「リスト」や2つの「目録」に該当する場合等にのみ許認可が必要という形に改正され、②許認可の主体は商務部ではなく各業種の監督官庁に変更されています(外商投資法実施条例33~36条)。

今回、この事前の許認可フェーズに関係するものとして、2022年版市場参入ネガティブリストが施行されています(2022年3月12日公布、同日施行)。

(2)会社設立登記フェーズ

会社設立登記は、国家市場監督管理総局が管轄権を有します(外商投資法施行条例37条)。

会社設立登記に関しては、従前は、会社登記管理条例(2016年改正)において定められていました。2021年7月27日、市場主体登記管理条例(以下「条例」といいます)が公布されました(条例は2022年3月1日から施行されています)。この条例により、会社登記管理条例は廃止されました。また、2022年3月1日に、条例の実施細則として、市場主体登記管理条例実施細則(以下「実施細則」といいます)が公布され、同日より施行されています。

(3)本記事の狙い

これらの法改正により、日本企業の中国新規進出に関連する法令が改正されています。本記事では、上記各新法令の制定を契機として、外商投資法施行後の中国進出法制を概観します。記事前編では許認可フェーズを説明します。記事後編では、会社設立登記フェーズについて説明します。

3. 許認可フェーズ(2022年版市場参入ネガティブリスト公布)

(1)概要

中国においては、各事業につき外資規制の適用があるか、許認可を取得する必要があるかにつき規定したものとして、2つの「リスト」と2つの「目録」があります。これらを個別に確認することは骨の折れる作業であるため、中国政府は、「経営範囲規範叙述目録」や「経営範囲規範記載検索システム(試用版)」を導入し、各事業につきどのような外資規制・許認可規制がかかるかを一元的に管理するための試みを進めています。

以下では、①2つの「リスト」と2つの「目録」の内容を説明したうえで、②「経営範囲規範叙述目録」や「経営範囲規範記載検索システム(試用版)」につき説明します。

(2)2つの「リスト」と2つの「目録」

上記の通り、外商投資法施行後は、各ネガティブリストに該当する場合や投資プロジェクト審査が要求されている場合にのみ、許認可が必要となります。中国法上、許認可が必要となるのは、以下の2つの「リスト」及び2つの「目録」のいずれかに該当する場合です。「リスト」や「目録」がいくつも出てきて混乱しやすいので、中国新規進出を検討するにあたっては、これらの意義や関係性をよく理解しておくことが重要となります。

詳細は後述しますが、最初にこの2つの「リスト」と2つの「目録」の関係性を図で表すと、以下のようになります。

a. 外商投資参入ネガティブリスト
外商投資参入ネガティブリストは、外資企業にのみ適用される制限です。いわゆる狭義の外資規制に該当します。現状の最新版は、「外商投資参入特別管理措置(ネガティブリスト)(2021年版)」(2021年12月27日公布、2022年1月1日施行)に規定されています。

b.  市場参入ネガティブリスト

  • 2022年3月12日に、新たに2022年版の市場参入ネガティブリストが公布されています。市場参入ネガティブリストは、特別な許認可を取得する必要のある事業を列挙したものです。市場参入ネガティブリストは、内資・外資に等しく適用されます。

  • 市場参入ネガティブリストのイメージとしては、業法上の許認可を取得する必要がある業種を列挙したものというイメージです。中国においては、原則として会社を設立すれば定款に定められた事業を実施できるのに対し、業種によっては例外的に業法上の許認可が必要となる場合があります。市場参入ネガティブリストは、業法上の許認可が必要となる業種を列挙したものといえます。

  • 2022年版の市場参入ネガティブリストにおいては、禁止類が6項目、許可類が111項目挙げられています。2020年版と比べると、禁止類に1項目追加され、許可類が7項目減少されています。

  • ただし、減少した7項目の許可類については、2022年版市場参入ネガティブリストの他の項目に統合されているものもあるため、留意が必要です。2022年版市場参入ネガティブリストにおいて削除されたもの(他の項目に統合されたものは除く)には、例えば以下のものがあります。「インターネット金融情報サービス」が削除されており、中国でフィンテック事業を営む日本企業にとっては注目に値します

c. 政府が承認を行う投資プロジェクト目録

  • 政府が承認を行う投資プロジェクト目録(2016年版)(2016年12月12日公布、同日施行)に記載されています。

  • 政府が承認を行う投資プロジェクト目録は、固定資産への投資を伴うプロジェクトのうち、一定の要件を満たすものについては、政府の事前に認可を要求するものです(政府が承認を行う投資プロジェクトリスト1条)。

  •  2022年市場参入ネガティブリストの第二(十九)において、政府が承認を行う投資プロジェクト目録(2016年版)に記載のプロジェクトが列挙されています。その意味で、政府が承認を行う投資プロジェクト目録は、市場参入ネガティブリストに取り込まれているといえます。

d. 産業構造調整指導目録

  • 産業構造調整指導目録は、各産業につき奨励するか(奨励類)、制限するか(制限類)、淘汰するか(淘汰類)について、政府の政策を示すものです。

  • 2022年版市場参入ネガティブリスト第一項目2において、「産業構造調整指導目録」のうち、淘汰類に分類されているプロジェクトについては投資を禁止するとされ、制限類に分類されているプロジェクトは新規のプロジェクトを禁止するとされています。このように、産業構造調整指導目録は、2022年版市場参入ネガティブリストに取り込まれているといえます。

(3)経営範囲規範叙述目録と経営範囲規範叙述検索システム(試用版)

これらのリストや目録に該当するかを個別に確認することが骨の折れる作業です。中国政府は、実施予定の事業につきどのような外資規制や許認可規制が適用されるかを一元的に把握できるようにする試みを進めています。

2019年10月30日に、国家市場監督管理総局は、「証照分離改革促進、市場主体経営範囲登記規範化業務に関する通知(意見募集稿)」を発表し、その中で、「経営範囲規範叙述目録」が添付されています。「経営範囲規範叙述目録」においては、「国民経済産業分類」をベースに新たな事業分類番号を構築し、各事業分類ごとに許認可の要否が記載されています。この「経営範囲規範叙述目録」をシステムに落とし込んだものとして、経営範囲規範記載検索システム(試用版)が試験的に運用されています。このシステム上で、実施予定の事業を検索すれば、外資規制や必要な許認可等が一覧できる仕組みとなっています。

経営範囲規範記載検索システム(試用版)

なお、同意見募集稿によれば、経営範囲規範叙述目録は「動態管理」され、常に更新されていくことが前提とされています。実際に「経営範囲規範叙述目録」の最新版として、2021年3月15日、市場監督管理総局は2021年版の経営範囲規範叙述目録の意見募集稿を公表しています。


Authors

弁護士 井上 諒一(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2014年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2015~2020年3月森・濱田松本法律事務所。2017年同事務所北京オフィスに駐在。2018~2020年3月同事務所ジャカルタデスクに常駐。2020年4月に三浦法律事務所参画。2021年1月から現職。英語のほか、インドネシア語と中国語が堪能。主要著書に『オムニバス法対応 インドネシアビジネス法務ガイド』(中央経済社、2022年)など

弁護士 趙 唯佳(三浦法律事務所 カウンセル)
PROFILE:2007年中国律師資格取得。2007~2019年森・濱田松本法律事務所。2019年4月から現職

袁 智妤(三浦法律事務所 中国パラリーガル)
PROFILE:2018年中国法律職業資格取得。2018年中国華東政法大学卒業、2021年慶應義塾大学大学院法学研究科修士課程修了。2021年7月から現職。


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