1. はじめに
AIは企業価値を高めるツールである一方でさまざまなリスクや課題もあるところ、投資者の投資判断におけるAI関連情報の重要性が高まっていることに伴い、有価証券報告書の「事業等のリスク」においてAIに関連するリスクや課題に言及する日本企業も見られるようになってきています。
AIに関連する主なリスクとしてはオペレーショナルリスクや競争上のリスクがありますが、このほかにも規制上のリスクがあり、具体的には、2024年8月に発効した欧州におけるAIに関する包括的な法規制であるArtificial Intelligence Act(「欧州AI法」)を含むAI規制法の遵守コストやAI規制の不確実性などがあります。
この点、欧州AI法はEU域外の企業に対しても適用があり得るところ(詳細は「M&P LEGAL NEWS ALERT #18:M&A契約におけるAIに関する表明保証②」をご参照ください)、テクノロジー企業やソフトウェア企業、ヘルスケア企業などの米国企業の開示では欧州AI法を含むAI規制法に関するリスクに言及するものが増えてきています。
そこで、今後、日本企業がAI規制法に関するリスクを有価証券報告書の「事業等のリスク」に記載する際の参考として、米国企業が2024年下期に提出したForm 10-KとForm 10-Q(日本における有価証券報告書と四半期報告書に相当)における開示内容をご紹介します。
2. 米国企業の開示例
AI規制法に関するリスクとしては以下の類型の開示が見られます。
これらの内容の詳細は以下のとおりです。
3. 有価証券報告書の「事業等のリスク」
有価証券報告書の「事業等のリスク」の開示においては、企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況等に重要な影響を与える可能性があると経営者が認識している主要なリスクについて、当該リスクが顕在化する可能性の程度や時期、当該リスクが顕在化した場合に経営成績等の状況に与える影響の内容、当該リスクへの対応策を記載するなど、具体的に記載することが求められています(*1)。
そのため、例えば、自社やグループ会社が欧州AI法の適用があり得る事業を行っており、規制を遵守する負荷が大きい高リスクのAIシステムを運用しているといった場合には、投資判断に重要な影響を及ぼす事業リスクと位置づけ、上記の米国企業の開示も参考に、AI規制法に関するリスクを有価証券報告書の「事業等のリスク」に記載することが考えられます。
Author
弁護士 関本 正樹(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2007年東京大学法学部卒業、2008年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)、ニューヨーク州弁護士。21年7月から現職。18年から20年にかけては株式会社東京証券取引所 上場部企画グループに出向し、上場制度の企画・設計に携わる。『ポイント解説 実務担当者のための金融商品取引法〔第2版〕』(商事法務、2022年〔共著〕)、『対話で読み解く サステナビリティ・ESGの法務』(中央経済社、2022年)等、著書・論文多数