インドネシア最新法令UPDATE Vol.19:P2Pレンディング新規則
2022年7月4日、P2Pレンディングに関する新規則として金融庁規則2022年10号が公布されました。同規則は公布日から施行されています。
P2Pレンディングに関する新規則は、意見募集稿が公表されており、その内容は以前の記事で紹介していた通りです(インドネシア最新法令UPDATE Vol.7)。この意見募集稿には、P2Pレンディング事業に関する重要な改正案が含まれており、P2Pプレーヤーの間で大きな注目を集めていました。
今回、意見募集プロセスを経てP2Pレンディングに関する新規則が正式に制定されました。制定版新規則では、意見募集稿から大きく変更されているところもあります。本記事ではP2Pレンディング新規則の制定版につき、以前紹介した意見募集稿からの変更点を中心に説明します。
1. 概要
意見募集稿では、外国株主は金融セクターの事業を行うものでなければならないとされ、商社などが株主となれなくなることが懸念されていましたが、制定版ではこのような限定は削除されています(外国株主につき特段の条件は付されていません)。
制定版ではP2Pオペレーターの株主の変更だけではなく、オペレーターの株主の変更についても金融庁に承諾されることが必要となりました。例えば、P2Pオペレーターの株主がシンガポールSPCであり、実質的な株主はシンガポールSPCの株主である場合に、制定版新規則ではシンガポールSPCの株主の変更についても金融庁の承諾が必要となる場合があります。一方で、株主の変更につき、株式譲渡だけではなく必ず新株発行を伴うものでなければならないという条件が意見募集稿には含まれていましたが、制定版からは削除されています。
意見募集稿で記載のあった貸付先のポートフォリオについての規制(プロダクティブセクターやジャワ島以外への貸付を一定割合行わなければならないという規制)は制定版では削除されています。
意見募集稿では、最低払込資本金がライセンス時に150億ルピア(約1億3,384万円)とされていましたが、制定版では設立時に250億ルピア(約2億2,312万円)を保有している必要があると変更されました。エクイティーとしての必要な金額も増加しています。
意見募集稿より制定版では、取締役・コミサリスの兼業に関する規定が緩和されていますが、制定版ではP2Pオペレーターにおける外国法人の持分比率が25%以上でなければ外国人を取締役・コミサリスとして選任することができないとされています(意見募集稿では外国株主が存在していれば足り「25%」という制限はありませんでした)。また制定版では、取締役・コミサリスに居住要件が厳格化され(全ての取締役にインドネシア居住義務が課され、最低半数のコミサリスにインドネシア居住義務が課されています)、外国取締役・外国コミサリスの定住許可(ITAP)保有義務が新たに課されています(意見募集稿ではそのような制約はありませんでした)。
意見募集稿で記載のなかったシングルプレゼンスポリシー(シャーリアP2Pオペレーター、一般P2Pオペレーターそれぞれ1社までしか支配株主になれない)が制定版で導入され、複数のP2Pオペレーターを同じ株主が支配することができなくなりました。
意見募集稿で記載のなかった主要株主の直接責任(一定の条件下でP2Pオペレーターの損失を主要株主が追うこと)が制定版では導入され、主要株主の責任が重くなりました。
2. 旧規則、意見募集稿、制定版の比較
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Author
弁護士 井上 諒一(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2014年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2015~2020年3月森・濱田松本法律事務所。2017年同事務所北京オフィスに駐在。2018~2020年3月同事務所ジャカルタデスクに常駐。2020年4月に三浦法律事務所参画。2021年1月から現職。英語のほか、インドネシア語と中国語が堪能。主要著書に『オムニバス法対応 インドネシアビジネス法務ガイド』(中央経済社、2022年)など
樽田 貫人(M&Pアジア株式会社 COO)
PROFILE:2カ国(カンボジア、インドネシア)で、複数の法人立上げ経験を有する。直近の業務としては、インドネシア法人の立上げ責任者として3年間ジャカルタに駐在。東証一部、インドネシア証券取引所上場の企業とのJV設立・運営にも携わる。インドネシア語が堪能。