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ポイント解説・金商法 #20:持株会の範囲拡大(拠出金上限額を100万円未満から200万円未満に拡大する等)

令和6年9月13日、金融庁は、①持株会の1回当たりの拠出金額を100万円未満から200万円未満に引き上げること、②拡大持株会における「関係会社」を形式基準(議決権保有基準)ではなく実質基準(影響力基準)とすること、③拡大持株会として発行会社の関係会社の役員を会員の対象とすること等を含む金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令(以下「定義府令」といいます。)等の改正(以下「本改正」といいます。)を同年9月13日に公布し(令和6年内閣府令第79号)、令和7年1月1日から施行することを公表しました。

「金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令」等の改正(案)に対するパブリックコメントの結果等について:金融庁 (fsa.go.jp)

本稿では、本改正の概要と影響をポイント解説します。


1.持株会の範囲拡大

本改正により、持株会の1回当たりの拠出金額が100万円未満から200万円未満となる他、持株会の会員の範囲が次のとおり拡大します。

具合的には、発行会社の関係会社に関する持株会(いわゆる「拡大持株会」)については、「関係会社」の従業員のみが対象でしたが、本改正の施行日以後は、「関係会社」の役員も加入が可能となります。

また、「子会社」については、令和2年9月18日公布(令和3年1月1日施行)の定義府令の改正により、発行会社が議決権の50%超を保有する会社(形式基準)から、会社法2条3号に規定する子会社(実質基準)に変更されていましたが、本改正により、「関係会社」についても、発行会社が議決権の25%以上を保有する会社(形式基準)から、会社計算規則2条3項21号に規定する関連会社(実質基準)となります。

なお、本改正において、持投資口会についても、持株会と同様の拠出金額の増額に加え、発行者の資産運用会社またはその特定関係法人(当該法人の子会社を含みます。)の役員、特定関係法人の子会社の従業員を会員の対象とすることとされています。

2.本改正の影響

持株会が法令で定める要件を満たす場合、以下のとおり、一定の規制や報告が免除されます。

①持株会の出資勧誘と持株会による株式取得等の運用行為について金融商品取引業(第二種金融商品取引業と投資運用業)の登録が不要となる

②発行会社の役員又は従業員の持株会による買付けは公開買付規制における買付けには該当せず(ただし、発行会社の役員持株会による買付けは、別途買付けに該当し、公開買付期間中に買付けを行うことはできない)、理事長も大量保有者とならない

③役員・主要株主の売買報告書の提出が不要となり、インサイダー取引規制の除外要件を満たすこととなる

そのため、持株会が法令で定める要件を満たすことは重要な意味を持ちますが、持株会の奨励金を増額して役職員の自社株式取得を支援しようとしても、1回の拠出金額が100万円未満となっていたため、奨励金をあまり増額することができず、奨励金によるインセンティブ効果・リテンション効果が低下していました。また、上場会社の持株会は、持合解消の受け皿(例えば、従業員持株会による保有株式は、東京証券取引所の定める上場維持基準における流通株式数に含まれます。)、自己株式の活用先、安定株主として同意なき買収への対策としての効果も期待することができます。

本改正により、1回当たりの拠出金額が2倍まで引き上げられたことや、通常は月例拠出と第三者割当に伴う拠出は別個の拠出と評価されるものであり、拠出日が同一であるか否かに関わらず、それぞれの拠出金額毎に「1回当たりの拠出金額」を判断する旨が本改正に係るパブリックコメント結果により示されたこと(令和6年9月13日金融庁公表)などから、奨励金の増加や、月例拠出とは別に従業員に特別奨励金に係る金銭債権を付与した上で持株会を割当先とする譲渡制限付株式報酬(いわゆる「持株会RS」)の導入などを検討することも考えられます。

なお、累積投資契約による買付けについても、本改正において、持株会の拠出金額と同様に、1月当たりの拠出金額(こちらは持株会と異なり、「1月当たり」とされています。)が100万円未満から200万円未満に引き上げられています。

Author

弁護士 峯岸 健太郎(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2001年一橋大学法学部卒業、2002年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)、一種証券外務員資格。19年1月から現職。06年から07年にかけては金融庁総務企画局企業開示課(現 企画市場局企業開示課)に出向(専門官)し、金融商品取引法制の企画立案に従事。ALB Japan Law Awards 2023においてM&A Deal of the Year (Midsize)を受賞、IFLR1000のIFLR1000 2022-2024においてCorporate and M&A分野のHighly regarded lawyersに選出。
『ポイント解説実務担当者のための金融商品取引法〔第2版〕』(商事法務、2022年〔共著〕)、『実務問答金商法』(商事法務、2022年〔共著〕)、『金融商品取引法コンメンタール1―定義・開示制度〔第2版〕』(商事法務、2018年〔共著〕)、『一問一答金融商品取引法〔改訂版〕』(商事法務、2008年〔共著〕)等、著書・論文多数。

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