労働法UPDATE Vol.16:2024年育児介護休業法の改正①
2024年5月24日、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び次世代育成支援対策推進法の一部を改正する法律案」(以下「本改正法」といいます。)が可決・成立し、同年9月11日、省令(育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律施行規則)および告示(子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置等に関する指針)(以下「指針」といいます。)の改正が公表されました。本改正法は、男女ともに仕事と育児・介護を両立できるようにするため、子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充、育児休業の取得状況の公表義務の対象拡大や次世代育成支援対策の推進・強化、介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化等の措置を講ずる内容となっています。
以下、本改正法の内容について、2部立てでご紹介していきます。
1. 本改正法の背景
本改正は、近年、女性の年齢層別正規雇用比率が25~29歳のピーク後に減少する「L字カーブ」が見られていることや、育児休業取得率及び短時間勤務制度の利用率の差が男女で大きく、女性に家事・育児の負担が偏っている傾向にあること等が問題視されたことを背景として、男女ともに仕事と育児を両立できるようにすることを目的として行われました。
また、介護の面では、高齢者人口の増加とともに介護保険制度上の要支援・要介護認定者数が増加することが見込まれる今日、働き盛り世代で企業の中核を担う年代の労働者が家族の介護を理由に仕事を辞める、いわゆる介護離職をすることを問題視し、介護と仕事の両立を目的としています。
2. 本改正法の3つのポイント
本改正法のポイントは、以下の3つです。
(※②の次世代育成支援対策の推進・強化については、次世代育成支援対策推進法の改正による変更を含みますが、本noteでは同法の説明は割愛し、同法の省令が公表された際に別途ご紹介します。)
3. ポイント①:子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充
本改正法では、子の年齢に応じて、フルタイムで残業をしない等、柔軟な働き方を希望する労働者の割合が高くなっていくことをふまえ、男女ともに希望に応じて仕事・キャリア形成と育児を両立できるようにするためのさまざまな改正がなされました。
この改正に係るイメージ図は以下のとおりです。
(1)働き方の選択肢を増やすための環境構築を行う義務【施行日:2025年10月1日】
本改正の施行により、企業は、柔軟な働き方を実現するための措置として、3歳以上の小学校就学前の子を養育する労働者に対し、以下の5つの制度のうちから2つ以上の制度を選択して、講じなければなりません。対象の労働者は、企業が講じた措置の中から1つを選択して利用することができます。なお、引き続き雇用された期間が1年に満たない労働者、日々雇用の労働者、1週間の所定労働日数が2日以下の労働者については労使協定により対象外とすることが可能です。
なお、指針によって、以下の事項も定められています。
企業は、上記の選択肢の中からどの措置を選択するかを検討する際には、職場のニーズを把握するため、過半数代表者からの意見聴取の機会を設けなければなりません。
そして、会社は、子が3歳に達するまでの適切な時期(1歳11カ月の誕生日の翌日から2歳11カ月の誕生日まで)の子を持つ労働者に対し、面談や書面交付、電子メールのいずれかによって、当該措置に関する個別の周知と制度利用の意向確認を行う必要があります。なお、指針により、最初の利用時以降にも定期的な面談等を実施することが望ましいとされています。
業種や企業の規模により、どの選択肢が可能かはそれぞれ異なると思われますが、本改正まで1年も切っているところですので、上記①~⑤から2つの適切な制度の検討を現時点からでも進めることがよいでしょう。
(2)残業免除の対象となる労働者の範囲の拡大【施行日:2025年4月1日】
現行法では、所定外労働の制限(いわゆる残業免除)の請求が可能な労働者は、3歳に満たない子を養育する労働者とされていました。
本改正法により、2025年4月1日から、かかる残業免除の適用対象者が小学校就学前の子を養育する労働者まで拡大されることとなりました。
(3)子の看護休暇の見直し・適用範囲の拡大【施行日:2025年4月1日】
現行法では、子の看護休暇の取得事由として、病気やケガ、予防接種、健康診断が取得事由とされていました。
本改正法では、これらに加え、感染症に伴う学級閉鎖や、入学式・卒業式その他これに準ずる式典への参加が加えられ、子の看護休暇の取得事由が拡大します(かかる拡大に伴い、法令上の「看護休暇」の定義は、「看護等休暇」に変更されます。)。なお、入学式や卒業式に準ずる式典とは、「入園」「卒園」「入学」といった名称ではないものの、これらと同性質の式典が想定されており、運動会やお遊戯会、発表会、授業参観等の行事は「その他これに準ずる式典」に含まれないということに注意が必要です。
また、子の看護等休暇が請求できる期間も、小学校就学前から小学校3年生終了時まで拡大されました。
子の看護等休暇の取得は、企業が業務の都合等を理由に当該希望日での取得を拒むことができない強い権利であり、本改正法での看護等休暇の拡大は、育児と仕事の両立を目的とする大きな変更点です。
企業としては、このような強い権利の行使範囲の拡大に伴い、子育て中以外の労働者に不公平さや不満を感じさせないよう、本改正法に応じたさまざまな措置を充実させ、子育てをしていない労働者に対しても十分な周知・理解を図ることが必要といえます。
また、これまでは、勤続6カ月未満の労働者に対する看護休暇付与は、労使協定によって除外することが可能とされていましたが、かかる制度は本改正に伴い廃止となり、勤続6カ月未満の労働者に対しても、子の看護等休暇制度が必ず保障されるようになります。
(4)テレワーク導入の努力義務化【施行日:2025年4月1日】
本改正法によって、2025年4月1日から、3歳に満たない子を養育する労働者がテレワークを選択できるように措置を講ずることが、企業の努力義務となりました。
また、本改正法において、3歳に満たない子を養育する労働者に対して、短時間勤務制度を講じないこととした場合の代替措置の1つとしてテレワークが追加されました。
(5)仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮の義務化 【施行日:2025年10月1日】
本改正法によって、妊娠・出産の申出時や子が3歳になる前に、企業が労働者の仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮をすることが義務付けられました。
個別の意向聴取の方法は、面談、書面、(労働者が希望する場合に)FAX、メールのいずれかによることとされており、意向聴取において確認すべき内容は以下のとおりです。
ここにおける「配慮」の事項としては、指針において、始業及び終業の時刻、就業の場所、業務量、育児休業等の両立支援制度の利用期間、労働条件の見直しが挙げられています。
加えて、指針において、労働者の子に障害がある場合や医療的ケアが必要な場合で、労働者が希望するときには、短時間勤務制度や子の看護等休暇の利用可能期間を延長することや、労働者がひとり親家庭の親である場合であって、労働者が希望するときは、子の看護等休暇の付与日数に配慮することが望ましいとされています。
4. ポイント②:育児休業の取得状況の公表義務 【施行日:2025年4月1日】
二つ目の改正ポイントとしては、「男女ともに」育児と仕事を両立できる職場を目指す点にあります。これまでは、男性の育児休暇取得率を公表する義務のある企業を、常時雇用する労働者数が1000人超の企業としていましたが、本改正法では、これを300人超の企業に変更し、公表義務対象企業を大幅に拡大しました。
本改正法により、多くの企業が公表義務の対象となります。
公表義務の対象となる企業におかれては、公表の概要について(厚生労働省のリーフレット)をご参照の上、準備することがよいでしょう。
本noteでは、「育児と仕事の両立」という面でのさまざまな改正点についてご紹介しました。
次の「労働法UPDATE Vol.17:2024年育児介護休業法の改正②」では、本改正法の3点目のポイントを挙げつつ、「介護と仕事の両立」の面からの改正内容をご紹介し、最後に実務上の対応について述べることとします。
Authors
弁護士 菅原 裕人(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2016年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)。
高井・岡芹法律事務所(~2020年8月)を経て、2020年9月から現職(2023年1月パートナー就任)。経営法曹会議会員(2020年~)。日々の人事労務問題、就業規則等の社内規程の整備、労基署、労働局等の行政対応、労働組合への対応(団体交渉等)、紛争対応(労働審判、訴訟、労働委員会等)、企業再編に伴う人事施策、人事労務に関する研修の実施等、使用者側として人事労務に関する業務を中心に、企業法務全般を取り扱う。
弁護士 越場 真琴(三浦法律事務所 アソシエイト)
PROFILE:2022年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)
2023年〜日本医事法学会 会員。2024年~慶應義塾大学法科大学院 助教。使用者側として人事労務に関する業務を中心に、M&A、紛争、ヘルスケア、国際法務等、広く企業法務全般を取り扱う。