三浦法律事務所/Miura & Partners
税務UPDATE Vol.6:IPと税務~特許権侵害に係る損害賠償と消費税~
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税務UPDATE Vol.6:IPと税務~特許権侵害に係る損害賠償と消費税~

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1. はじめに

特許権侵害による損害については、不法行為による損害として民法の不法行為の一般規定である709条に基づく損害賠償の請求が可能ですが、民法に基づく損害賠償請求の場合、侵害行為と損害との因果関係や損害額の立証等を権利者である原告が行うことが必要となります。

しかし、特許権侵害事案においては、侵害行為と損害との因果関係および損害額が必ずしも明確ではなく、損害の立証が困難になりかねないことから、特許法102条各項において、民法709条の特則として損害額の推定規定が定められており、実務上も同条各項に基づき損害額の算定が行われることが一般的となっています。

今回の税務アップデートでは、特許法102条各項に基づいて損害賠償請求を行う場合において、損害額に消費税を含めて請求すべきかという点と、損害賠償請求が認められ、損害賠償金を受け取った場合に当該損害賠償金の消費税処理をどのようにすべきかという点をテーマに取り上げます 。

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2. 損害額に消費税を含めるべきか

(1)特許法102条各項の定め

特許法102条各項においては、以下の金額を損害額と推定することが規定されています。

(a)逸失利益額の推定(同1項)
①販売数量の減少による逸失利益(権利者の単位数量当たりの利益の額に、侵害者の譲渡数量のうち実施相応数量(権利者の実施の能力に応じた数量)を超えない部分から特定数量(権利者が販売することができないとする事情に相応する数量)を控除した数量を乗じた額、同項1号)と、②ライセンス機会の喪失による逸失利益(譲渡数量のうち実施相応数量を超える数量又は特定数量がある場合において、特許権者又は専用実施権者が当該特許権者の特許権についての専用実施権の設定若しくは通常実施権の許諾又は当該専用実施権者の専用実施権についての通常実施権の許諾をし得たと認められない場合を除き、これらの数量に応じた実施に対し受けるべき金銭の額、同項2号)の合計額。

本項では従前は主に販売数量減少に伴う逸失利益(上記①の部分)のみを規定していましたが、令和元年の改正によってライセンス機会の喪失による逸失利益部分(上記②の部分)が追加されました。

(b)侵害者利益(同2項)
侵害者の侵害行為による利益の額

(c)相当実施料額(同3項)
当該特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額

なお、平成10年の特許法改正前の規定文言およびこれに基づく裁判例は「通常」のライセンス料相場に基づいて損害額を算定していましたが、上記改正により、その後の裁判例ではライセンス料相場に比して高額な損害額を算出する傾向にあります。

(2)問題の所在

本稿にいう、損害額に消費税を含めるかどうかという議論は、上記各項の「利益の額」、または「実施に対し受けるべき金銭の額」(実施料相当額)に販売した場合またはライセンスをした場合に受け取るべき消費税相当額を含めるかどうかという議論となります。具体的には、「利益の額」に関しては、権利者または侵害者の消費税込みの売上げをベースに利益の額を算定することの適否が、実施料相当額については消費税込みの実施料を損害額とすることの適否が問題となります。

(3)裁判例の状況

消費税相当額を含めた金額を損害として認めている裁判例もあり、他方で消費税相当額を含めないとしている裁判例もあります。同じ特許法102条2項に関する知財高裁の裁判例をみても、令和2年6月18日判決(令和元年(ネ)10067号、「令和2年判決」)では消費税相当額の損害を認めているのに対し、平成30年8月29日判決(平成29年(ネ)10094号/平成30年(ネ)10003号、「平成30年判決」)では消費税相当額の損害を認めていません。

計算過程が伏せられている部分があるため判決のみからは判然としない部分もありますが、令和2年判決及び平成30年判決はいずれも権利者が算出された利益の額に消費税相当額の8%を加算した額を損害額とすべき旨を主張しているところ、平成30年判決では、侵害者が利益の額とは「別途に消費税相当額につき利益を受けたことを裏付けるに足りる証拠はない」として消費税相当額の加算を認めていません。

これに対して令和2年判決の原審においては、下記に述べる消費税法基本通達5-2-5の規定から、特許権を侵害された者が特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償金を侵害者から受領した場合、その損害賠償金も消費税の課税対象となることを推察した上で、「特許権者が特許権侵害による損害のてん補を受けるためには、課税されるであろう消費税額相当分についても損害として受領し得る必要がある」として消費税込みの売上額をもとに利益の額を算定すべきであるとしており、令和2年判決もこれを維持しています。

平成30年判決では侵害者が消費税相当額の利益を受けた証拠がないとしているのに対し、令和2年判決では侵害者が消費税相当額の支払いを受けたという推認を前提していることからすると、侵害者が現実に利益額とは別途消費税相当額の支払いを受けたかどうか、その証拠があるのかどうかがメルクマールとなっている可能性もありますが、基準が明確となっているとは言えない状況にあるように思われます。

なお、直近の裁判例では、消費税法基本通達5-2-5を根拠として消費税相当額を加算した額を損害額とするものが複数あり(特許法102条2項および3項について東京地判令和2年12月1日(事件番号・平成29年(ワ)28541号)、同2項について大阪地判令和3年2月18日(事件番号・平成29年(ワ)10716号)、令和2年判決と同様の判断傾向が定着してきているようにも思われます。

3. 損害賠償金の消費税の処理をどうするべきか

(1)問題の所在

本稿にいう、損害賠償金の消費税の処理をどうするべきかという問題は、上記2の議論とは異なり、実際に損害賠償として認められた金額についてどの範囲で消費税の課税対象とすべきかという問題です。

消費税の課税対象は「国内において事業者が行つた資産の譲渡等」(消費税法4条1項)とされており、国内において事業者間で発生した特許権侵害事案において支払われた損害賠償金を念頭に置くと、ここにいう「資産の譲渡等」に該当すると消費税の課税対象となることとなります。

(2)通達の定め

この点、損害賠償金の消費税上の取扱いについては、消費税法基本通達の5-2-5(損害賠償金)に定めがあり、以下のように規定されています。

5-2-5 損害賠償金のうち、心身又は資産につき加えられた損害の発生に伴い受けるものは、資産の譲渡等の対価に該当しないが、例えば、次に掲げる損害賠償金のように、その実質が資産の譲渡等の対価に該当すると認められるものは資産の譲渡等の対価に該当することに留意する。
(1)損害を受けた棚卸資産等が加害者(加害者に代わって損害賠償金を支払う者を含む。以下5-2-5において同じ。)に引き渡される場合で、当該棚卸資産等がそのまま又は軽微な修理を加えることにより使用できるときに当該加害者から当該棚卸資産等を所有する者が収受する損害賠償金
(2)無体財産権の侵害を受けた場合に加害者から当該無体財産権の権利者が収受する損害賠償金
(3)不動産等の明渡しの遅滞により加害者から賃貸人が収受する損害賠償金

特許権侵害事案における損害賠償金は上記(2)に該当しますが、通達の逐条解説において(2)に該当する場合に「資産の譲渡等の対価の額とされる損害賠償金の額については、その損害賠償金の算定方法等を総合勘案して決定することになる」(濱田正義編『平成30年版 消費税法基本通達逐条解説』218頁(大蔵財務協会、2018))とされています。

(3)検討

そもそも特許法102条に基づき計算された損害賠償金は消費税の課税対象とはならないという見解もありますが、通達の文言および上記のとおり裁判例の傾向としても損害賠償金が課税対象となるとされていることからすれば、いずれの項に基づく損害賠償金であっても、課税庁の立場からすれば課税の対象とするであろうと考えておいた方が良いように思われます。

他方で損害賠償金のうち課税対象となる範囲については、損害賠償金の算定方法等を総合勘案するとされているため、消費税相当額が損害賠償金に含まれていればこれを除く等、どの範囲で「実質が資産の譲渡等の対価」に該当するのかについては慎重に検討する必要があります。

4. 実務上の留意点

特許権侵害事案において損害賠償請求を行う場合には、上記2でご紹介したとおり、現在の裁判例の傾向として消費税額を含めた請求が認められていますので、請求する場合には損害賠償額に消費税額を含めて請求することが適切であり、かつ利益額や実施料相当額として現実に消費税相当額の授受があることも立証しておくべきであると考えます。

次に、実際に受領した損害賠償額の消費税処理をどのようにするかという点については、少なくとも消費税相当額以外の利益額や実施料相当額については課税の対象と考えておくことが保守的な対応ではあります。

また、注意すべき点として、特許権侵害事案において和解した場合に和解金の消費税をどのように処理するかという問題もあります。和解の場面においては支払われる金額の性質等については言及せず「解決金」、「和解金」等の名目で支払いが行われる例もままあり、この解決金や和解金を不課税で処理してしまうと実質損害賠償金である等として課税処分の対象となりかねません。どのような趣旨の「解決金」、「和解金」であるのかを整理した上で処理すべきことを留意する必要があります。

本稿のうち意見にわたる部分は著者の個人的見解であり、著者の現在所属し、又は過去に所属した団体の見解ではないことを申し添えます。なお、この問題に関する先行研究として、知的財産権侵害に係る損害賠償と消費税(1)(金子敏哉ほか『法律論叢第90巻4・5合併号』29-80頁(明治大学法律研究所、2018年))、損害賠償金と消費税~特許法102条3項における実施料相当額の算定における消費税の位置付け(占部裕典ほか『税経通信71巻14号』143-150頁(2016年))、知的財産権の侵害に伴う実施料相当額の算定における消費税の位置づけ(占部裕典ほか『同志社法学68巻7号』2243-2288頁(2017年))があり、本稿の執筆にあたり参考とさせていただきました。

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Author

弁護士 山口 亮子(三浦法律事務所 パートナー)
Profile:2005年弁護士登録(2020年再登録、第二東京弁護士会所属)、18年~20年東京国税局調査第一部調査審理課において国際調査審理官(任期付職員)として勤務。20年7月から現職。

弁護士 松田 誠司(三浦法律事務所 パートナー)
Profile:2010年弁護士登録 (2017年より第二東京弁護士会所属)、15~17年特許庁法制専門官として特許法等改正(職務発明制度の見直し及びTPP関連法案等)等に関与。19年2月から現職。

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