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やがて王国を追放される貴族の僕の英雄物語 第18話 僕とメイドと女神様は冒険者ギルドへ行く

  *

 それから、しばらくして気持ちを落ち着かせたところで今後のことについて話し合うことにした。

 まず初めに確認しておきたいことがあると言ってきたのはソフィアさんからだった。

「ゴーシュさんとメイさんは、これから、どうするのですか?」

 その問いかけに対して僕は素直に答えることにした。

「とりあえず、冒険者ギルドに言って報告します」

 そう告げると今度はメイが口を開いた。

「わたしはご主人様と一緒ならどこまでもお供しますよ」

 そう言って腕に抱きついてきたので頭を撫でてあげると嬉しそうに笑った。

 そんな二人のやり取りを見ていたソフィアさんが尋ねてきた。

「ちなみに、どのような内容の報告をするおつもりなんですか?」

「洞窟にある祭壇のことを報告しようかと」

「それだけは、やめてください」

 僕の答えを聞いて即座に反対してきた。

 予想外の反応だったので驚いていると彼女が続けて言った。

「実は先ほども言いましたが、私がここにやってきたのはあなたを監視するためでもあるのです」

「監視って……なんでそんなことをする必要があるんですか?」

 疑問をぶつけてみるとソフィアさんは真剣な表情で答えた。

「それはもちろん魔王を倒すために必要だと思ったからです」

 彼女の言葉を聞いた僕は思わず黙り込んでしまった。

(それって、つまり僕を利用するつもりだったってことなのかな……?)

 そう考えた瞬間、背筋がゾッとした。

 何故なら目の前にいる女性が敵か味方かわからない以上、迂闊な行動はできないからだ。

 もし機嫌を損ねるようなことがあれば何をされるのかわかったものではないからである。

「とにかく、祭壇のことは秘密にしてください。ほかの人間に知られることは避けたいのです」

「……わかりました」

 悩んだ末に了承した僕はメイの方に視線を向けると小さく頷いたのが見えた。

 それを見た僕も同じように頷き返すと再びソフィアさんに話しかけた。

「それでなんですけど、これからはどうするつもりなんですか?」

 彼女は一瞬だけ考える素振りを見せた後で僕に話しかけてきた。

「そのことですが、魔王を倒すであろう勇者であるあなたを成長させなければいけません。その役割が私にはあります」

 それを聞いた僕は少しだけ考えてから答えた。

「承知しました。それならしばらくの間は行動をともにすることにしましょう」

 そう言うとソフィアさんが微笑んだ後で言った。

「ありがとうございます。それと私のことは気軽に呼び捨てで呼んでもらって構いませんよ?」

 そう言われて最初は戸惑ったものの、本人がいいと言っているのだから、それに従うことにした。

「……わかりま……いや、わかったよ、ソフィア」

「ふふっ、よろしいです」

 満足そうな笑みを浮かべる彼女につられて僕も笑みを浮かべたのだった――。

  *

「――ここが帝都だよ」

 そう言いながら目の前にそびえ立つ巨大な城を指差す。

 それに釣られるようにして目を向けたソフィアが小さく呟くように言った。

「随分と大きな建物ですね……」

 その言葉に同意するように頷くと隣にいるメイが笑顔で声をかけてきた。

「ご主人様、冒険者ギルドに行きましょう!」

 待ちきれないとばかりに僕の手を引っ張ってくる彼女を見ていると自然と笑みが浮かんだ。

 そんな僕たちの様子を黙って見ていたソフィアだったが、やがて何かを思いついたらしく小さく頷いてみせると、突然顔を近づけてきたかと思うと耳元で囁いた。

「今夜は期待していてくださいね……」

 その言葉に思わずドキッとした。

 だがすぐに冷静さを取り戻すと小声で返した。

「……うん」

 すると彼女は満足した様子で微笑むとゆっくりと離れていった。

(やっぱり、この子には敵わないな……)

 そんなことを考えながら苦笑いを浮かべるのだった――。

  *

 しばらく歩いた後で目的地である冒険者ギルドに到着した僕たちは早速中に入ったのだが、その瞬間、一斉に注目を浴びるのがわかった。

 それもそうだろう。

 何しろいきなり見知らぬ少女が一緒にいるのだ。注目されないはずがない。

 そんなことを考えながら受付に向かうとそこにいた職員の女性に声をかけた。

「すみません、ちょっといいですか?」

「はい、なんでしょうか?」

 声をかけると営業スマイルを浮かべながら対応してくれたので要件を伝えることにした。

「実は僕たち、しばらく冒険に出ていて、そこで採取した素材をギルドに預けたいのですが、大丈夫でしょうか? きっと簡単な依頼の素材であれば、十分に揃っていると思うので、その簡単な依頼と照合して依頼を完了させたいのです。よろしくお願いします」

「わかりました」

 僕の提案を聞いた彼女は頷きながら承諾してくれた。

 それを確認した僕は早速本題に入ることにした。

「それではまずはこれを見てもらえますか?」

 言いながら収納魔法を使って中から大量の薬草を取り出した。

 それを見ていた周囲の冒険者たちが驚いた表情を浮かべていたが、気にせず続けた。

「これはポーションの材料になる薬草なんですが、これだけあれば足りますよね?」

 尋ねると女性は笑みを浮かべながら言った。

「ええ、十分すぎるほどですよ! それにしても、すごい量ですが、これだけの数をどうやって集めたのですか?」

 その問いかけにどう答えるべきか悩んでいると、不意に袖口を引っ張られたので振り返ると、そこには頬を膨らませたメイの姿があった。

 どうしたのかと首を傾げていると、彼女は不満そうな声で言った。

「ご主人様、わたしも頑張ったんですよ?」

 どうやら自分だけが褒められていることが気に食わないようだ。

 そんな彼女の姿に癒されながらも頭を撫でることで機嫌を取りつつ、女性に答えた。

「それは、ちょっと遠くまで採取していた、ということでお願いします」

「なるほど……わかりました、これ以上は何も聞きませんし、詮索もしません」

 受付の女性は現在、存在する依頼と照合して監禁する作業をしていく。

「――これが換金したお金になりますね」

 そう言って差し出された袋を受け取ると中身を確かめてみたところしっかりと金貨が入っていたのでホッとした。

(これで当面の間は大丈夫だろう)

 そう考えながら顔を上げると女性に向かって問いかけた。

「このあとすぐに依頼を受けようと思っているんですが、何かおすすめの依頼とかありますか?」

 すると少し考え込んだあとで答えてくれた。

「そうですね……ゴーシュさんのランクでしたら討伐系のクエストを受けるのがいいと思いますよ」

「そうですか、ありがとうございます」

 お礼を言ってその場を離れると掲示板に向かった。

 しばらくして良さそうなクエストを見つけたので手続きを済ませてから外に出ると待っていたメイに話しかけた。

「それじゃあ行こうか」

 そう告げると少女は嬉しそうな笑みを浮かべてから頷いた。

 そんな彼女の様子を見ながら歩き出そうとしたところで不意に後ろから声をかけられた。

「――おい、待てよ!」

 その声に反応して振り向くとそこにいたのは数人の男たちだった。

「お前がゴーシュ・ジーン・サマーか。王国を追放された元貴族様っていうのはお前だな?」

 その中の一人がニヤニヤと笑いながら問いかけてきたので答えることにした。

「だったらどうしたっていうんだ?」

 挑発的な態度で問いかけると相手はさらに笑みを深くしてから言った。

「なに、大したことじゃないさ。ただ噂の貴族様に一目会ってみたくてな」

 そう言った後で僕ではなくメイの方に視線を向けたかと思うと続けて言ってきた。

「なあ、嬢ちゃん。そんな奴と一緒にいるよりも俺たちと一緒にいた方が楽しいぜ?」

 そう言って手を伸ばしてきた男に対して反射的に動こうかと思ったが寸前で思い留まった。

(ここで問題を起こすわけにはいかない……)

 そんなことを考えていると不意に隣からメイの声が聞こえてきた。

「あなたたちみたいな下衆な人間なんてこちらから願い下げです」

 その言葉を聞いた男たちは顔を真っ赤にしながら怒鳴った。

「なんだと!? もういっぺん言ってみろ!!」

 男たちが怒鳴り散らしても少女の態度が変わることはなかった。それどころか鋭い目つきのまま睨みつけている。

(マズい……!)

 そう思った次の瞬間――ついに男が動いた。

「ふざけやがって……!」

 怒りの形相で殴りかかってきた男の拳がメイの顔に……――。

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