きみとのはる。

『きみがとなりにいた。~音羽美和~』創作ショートショート

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これは、lithiumのよる音声作品『きみがとなりにいた。~音羽美和~』のトラック「きみとのはる。」をベースにした創作ショートショートです。
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ただしこれは、あくまでGIRL/Fri.eNDの恵世実雨として書いた、「二次創作」です。
セリフこそ、同梱した台本と同じですが、その行間で「あなた」が感じたこと、または台本を読まずに聞いてくれたときの「あなた」の言葉こそが、この物語を紡ぐ「オリジナル」だと思っています。

一応、脚本を書いた私が書いたものではありますが、これはあり得た可能性としての「俺」の想いで、「オリジナル」ではありません。

そしてnoteで読むには酷な文章量ですが、いずれ読みやすいかたちでの発表も考えております。
(きみとのふゆ。はまだ書いてませんし、その間の物語も……ね。)

ちなみに、途中までリアルタイム執筆に挑戦してみました。
書きっぱなしで推敲前ですので、この文章とは細部がことなります。
よかったらのぞいてみてください。

→バーチャル売り子しながら、リアルタイム執筆してみた!

それでは、14000文字くらいあるので、ごゆっくりマイペースでお楽しみください。
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きみとのはる。

 眠い目をこすりながら、履き潰したローファーにつま先を突っ込む。何度も母親から、新学期なんだから新しいものをと言われたけれど、どうせ今年で履かなくなるのだかと突っぱねていた。とはいえ、これがもう一年持つとも思えない。思春期、反抗期、という言葉が頭をよぎり、ため息をつく。
 受験勉強で、遊ぶ時間の一つもなかった春休み明けの朝。
なんなら憂鬱全開のはずなのに。玄関のドアを開く瞬間、なんとなく予感がした。それは、悪いものではなかった気がする。
……というのは、後からその瞬間を振り返ったときの、都合のいい書き換えなのだろうか。

「先輩! おはようございます!」

 扉を開けた玄関の少し先、小首をかしげて元気に声をかけてくる少女。
 ブレザー姿でスクールバックを肩から掛けた、ショートカットの女の子。一瞬誰なのかわからず、記憶を辿って辿り着いたのは、同じ中学校の二歳年下の後輩。
比較的近所に住んでいるので、卒業以来会っていないということはないにせよ、最後に会ったのは……たしか、初詣だった気がする。
 中学生のくせに、わざわざ振り袖を着て、まるで誰を待つように境内をうろうろしていた、俺を見るなり、聞いてもないのに合格祈願に来たと笑っていた彼女、その名前は――
 音羽美和。
 何故か、彼女は我が家の前に立っていた。

「え、なに?」
「なにって……とりあえず言うことありますよね!」

 さっきまで笑顔を浮かべていた美和の表情は、突然不機嫌に染まる。
 なんでいるの、という言葉をいくらなんでも失礼かと飲み込み、自分の置かれた状況を考えて、最も最適解をはじき出す。

「あ、おはよう」
「お・は・よ・う・ご・ざ・い・ま・す! それだけですか!?」

 一言一言をしっかり区切るように挨拶を返したあと、尚も不満そうに美和は俺をにらんでくる。どうやら最適解ではなかったらしい。
彼女が一体何について不満を言っているのか、まだ想像もついていない俺は、首をかしげるしかない。
昔からこういう奴だった。だから今日も彼女のノリはよくわからない。脳はそうやって思考停止していた。もとより連日の受験勉強で、俺のそれはまだ覚醒していなかった。
だから俺は、「え、なに?」と素直な疑問を返すことしかできない。

「私、今日入学式なんですけど!!」

 なるほど、と納得する。自分が三年になるということは、この間まで中学生だった彼女が高校に入学するということだ。
 それはそれは、申し訳ないことをしたと素直に頷く。この場合の最適解は、朝の挨拶ではない、祝辞の言葉。そりゃそうか。

「ああ。そっかそっか、おめでとう。」
「ありがとうございます!」

美和は、先ほどまでの不機嫌さはどこへやら、思い切り笑って見せる。
感情がジェットコースターみたいなやつだ。昔から変わらない。
俺はなんだかミッションを達成したような気になって、少し胸が晴れた。
だが、なんだか釈然としていない。

「からのー?」

やっぱりだ。何かずれているらしい。そこまでは考えが及び始める。
眠っていた脳が屈伸をし始めたのを感じながら、まだ本当に彼女の意図に検討もついていないから、一体何を期待されて、話を振られているのか問う以外に、返事のしようがない。
とりあえず時間を稼ごうかと言葉を探して思案顔の俺を、信じられないという顔で美和は見つめる。

「……ホントに気づいてません? わざと?」

 俺は戸惑うしかない。
そもそもまだ脳が覚醒していないというのに。コイツは朝から何を言っているのだ。そんなイライラが膨れ始める。
美和の言い方から推測するに、俺の反応の「こうあるべき」は本来当たり前のことのようだ。だからいっそ、わからなくなる。
美和は、とうとう俺が何かに気づくことを諦めて、声を荒げる。

「せ・い・ふ・く!! 私の制服の感想!! 今日はじめて見ましたよね!?」
「ああ、そういうこと?」

美和のブレザー姿。それは少し前まで着ていたセーラー服とは違う。
だが俺にとっては馴染みも馴染みのある……しいて言えばリボンの色は違うが、俺の通う高校のものだったのだ。
確かに。気づかないほうがおかしいという彼女の理屈は正しい。どうして気付かなかったのだろうと、自分でも思う。
よっぽど昨日の夜ふかしが堪えたか、何か、他のことに気でも取られていたのだろうか。

「納得してないで、何か言ってくださいよ~!!」
「いい感じじゃん」
「ん~~~! それだけですか!? はぁ、もういいですそれで。ありがとうございます。」

 俺の適当な返事に小さな口を三角にして、ひたすら不満そうな美和。
ぞんざいになってしまったのは、俺はどうして、彼女が新しい制服に身を包んでいることに気が回らなかったのか考えていたからだ。
俺が、彼女の制服姿よりも気を取られてしまった何か。その疑問。
それは至って、シンプルなものだった。

「ってか、なんでいんの?」

 そうなのだ。玄関の扉を開けたら、いるはずのない人物がいた。その瞬間から「なんで?」が、俺の頭を支配していたらしい。
 朝から回っていない頭に不意打ちを食らい、呆気にとられてしまったのだろう。

「え? なんでって、それ聞きます?」

 美和は、急にニヤニヤし始める。さっきの不機嫌はどこにいったのだろう。
 忙しいやつだ、と思いながらの回答は、精彩を欠く。

「制服、見せに来た……?」

 美和の性格を考えるとあり得る。明らかに、新しい制服でテンションが上がっていることは伝わってくる。そのままの足で、比較的近所のうちの前まで来たに違いない。
 とまで思って、そこまで残念な奴ではなかった気もする。

「制服は見せたかったですけど! それだけじゃないです!」

 やっぱり残念な奴だったかもしれないと断定しかけたが、他にある理由が真っ当か確認するまで判断は一旦保留する。
溢れんばかりのドヤ顔が、残念な結末を予感させるけれど、考えても仕方がないので先を促すことにする。

「……ほかに理由があると」
「あります! メインは! 登校!! 学校、一緒行きましょ!」

 美和はびしっと人差し指を立てて、笑顔を弾けさせた。
そして、いらずらっぽく、わざとらしく上目遣いで俺を見上げ、許可を仰ぐ。
もとい、限りなく押し付けに近い確認を。

「いいですよね?」

 ふう、と一つため息をつく。
ダメだと言っても目的地は一緒なのだ、どうせついてくるのは目に見えている。
端からの負け戦にげんなりしながら、こちらの予定を考慮してくれていない点については文句を言ってもおかしくないだろう。

「いいけど、連絡くれればよかったのに。」

 最低限の批判をして、俺は歩き出す。
一緒に行くと決まれば、これ以上話しても仕方ない。別に難しいミッションでもないし、それなりに気心が知れた相手もである。
さっさと相手の目的を果たしてしまおうと割り切って登校を開始する俺を追いかけるように、小走りでついてきた美和が隣に並ぶ。

「連絡しても良かったですけど……。それじゃサプライズにならないでしょ。」

 にんまりと笑う美和。心底あきれる俺。

「する必要なくね?」
「ある! 制服の新鮮な反応がほしかったの! ……期待してたのと違ったけど。」

 思わず敬語も忘れて美和はムキになる。初めこそ勢いがあったけれど、それは徐々にしりすぼみになり、隣でうつむいている気配を感じる。
 昔からこうやって軽口をぶつけ合っているから、ふと忘れそうになるけれど、相手が女の子だったことを急に思い出して、しまったと思う……程度には、美和のことは女の子扱いしているつもりだ。

「なんか、ごめん」
「悪いなーって思うなら、言ってくださいよ!」
「え、何を?」

 さすがに悪いと思って気にかけたつもりが、美和はすぐにつけ込んでくる。
 落ち込んでいるかと思えば、それほどでもなかったようで、俺の善意が一瞬で交渉材料にされてしまったことにムッとする。
思わず立ち止まった俺の前に回り込んだ美和は笑う。

「もう一回! 制服の感想!」

 そう言って小首をかしげ、期待した視線を俺の言葉を美和は待っている。
やり直しを要求された俺だが、ここでの振る舞いは心得ているつもりだ。
付き合いが長くて、すぐにこうして茶化してくる美和を適当にあしらうすべはいくつも持っているつもりだけれど。
ここでそうするほど、俺も意地悪くはない。

「……似合ってるよ、すごく。」

 なるべく素直に、ありのままの事実を伝えようと答える。そっけなくなりすぎないように、かと言って調子に乗られないよう大袈裟にもせず。
しかし美和は、俺のそんな気も知らないで、思いきりうれしそうに、返事を噛みしめるようにじんわりと笑った。
力加減を間違えたらしい。いや、俺の発言を咀嚼するときに思いっきり称賛成分を勝手に盛っているとしか思えない。

「ありがとうございます~! それ! それ最初から言ってほしかったんですよ~!」

 美和は、立てた人差し指をぶんぶんと振りながら「それ」を強調する。
察しが悪くてすまんとは思うけれど、いきなり押しかけてくるなよ、という不満も湧いて出る。
多分、そのまま顔に出ていたと思うが、そんなことは気にせず美和は、俺の腕に突然抱きついてきた。

「惚れ直しました…?」

 俺の顔を覗き込むようにして声のトーンを落とし、ささやくように言ってくる美和。
一気に俺の中のそっち系パラメータがぐっと上がった気がして、合わせて腕を振りほどく。

「最初から惚れてない!」
「え~、もしかして照れてます?」

 先ほどまでの反撃のつもりなのか、してやったりという顔でうれしそうに、意地悪そうに笑う美和を見て、頭に血が昇るのを感じる。
俺は返事もせずに、歩き始める。そのスピードは、完全に美和を無視したものだ。

「わ、待ってくださいよ~!」

 当然、置いていかれた美和の声が後ろから追いかけてくるが、構わずに前を睨んで進んでいく。美和が駆けてくる音が聞こえるが、尚もスピードは緩めない。大人げないなと、少し思う。

「待ってってばーー! もう!」

 すぐに追いついて、再び横に並ぶ美和。
そちらをちらりとも見ずに俺は不満を漏らす。

「お前がくだらないこと言うからだよ。」

 そうだ、健全な高校生男子をからかうものではない。ましてや後輩のくせに。という感情が、子供じみているというのは理解してはいる。が、感情が理性に追いつかないのは、やはり自分がまだ子供という証明にしかならない。今年卒業なんだが……。

「そうですよね、先輩は今さら私に抱きつかれたりしてもドキドキしないんですもんね?」
「当たり前だろ。」
「えーーそんなハッキリ言うー? ショック!!」
「じゃあちょっとはドキドキするわ。」
「じゃあってなんですかー。しかも、ちょっとって。適当すぎ! ひどい!」

 まったく脳を使わない、反射的な軽口のやり取り。何度も繰り返してきた、いつもの俺と美和の会話。慣れているつもりだからこそ、小さな変化にも気づいてしまう。
直前のこともあって、割とあしらいモードの俺に対して、食いつき方がいつもと違う。端的に言うと、そう――

「お前……朝からテンション高いな……」

 そうなのだ、勢いが違う。明らかに元気がいい。声がでかい。ちょっと相手していて疲れるノリだ。……いや、疲れるのはいつものことだった。

「先輩、今日なんの日かわかってます? 入学式ですよ!
人生で一回だけなんですよ? テンション高くなるでしょ!」

 何をそんなに力んでるんだ、というくらい力を入れて言う美和。
気合が入っているのはいいが、付き合わされるこちらの身にもなってもらいたいものだ。意地悪の一つもいいたくなる。
 
「もう一回受験したらいいじゃん。」
「あーもーすぐにそういうウザいこと言うー!
せっかく頑張って入ったのに、他の学校行くわけないでしょ!」

 俺がそういう態度になるのは、お前のウザ絡みのせいなのだが、という言葉は飲み込んで、思考は別のことに移っていく。
そういえば、美和はどうしてうちの高校に来たんだろう。
それは俺にとっては、少し納得がいきづらいことだった。

「そういやお前、なんで進学校来たの? 高校出たら就職するんだろ?」

 美和は、自宅から歩いて行ける圏内に住んでいて、中学校の頃からの顔見知りだ。だから彼女の家族のことも知っているし、それがどんな人たちなのかも把握している。
美和の親は、彼女が地元から離れることにとても抵抗感を持っていて、「どうせ私は就職するんで」というセリフを、昔、美和の口から何度も聞いていた。
 それが彼女にとって、あまりしたい話でないことくらいわかっていたつもりだったのだが、つい口がすべった。聞いてしまった。
 しまった、と思ったがもう遅かった。美和は心なしかうつむいて、すぐには返事をしてくれなかった。

「どうですかね。急に気が変わって大学行きたくなるかもだし。」

 意外な答えに、思わずさっきの「しまった」を忘れて聞いてしまう。
 それくらい、意外な反応だったから。

「お前の親、地元から出してくれないだろ。」

 もっと言い方が、と思ったがそれも、もう遅かった。
ただ、俺が感情的になる理由だってあるのだ。だってそれは、何度も、聞いてきたし、見てきたことだ。
 美和がいつも、どんな顔をしていたかも思い出せる。
 だからそれが簡単でないことは、よくわかっている。俺が首を突っ込むことではないのも、わかってる。けれど。

「まー、たしかに。親とは戦争しないと大学なんて行けないでしょうねー。
それでも、この高校が良かったんです!」

 美和は俺の追求を否定しなかった。でも、それでもと、真剣に言う。
 先ほどまでの軽口とはまったく違う、素の彼女の言葉に、俺は思わず言葉を失う。

「……なんで?」
「なんでー? わかってるくせに。」
「いや、わからん。」

 一体何を動揺していたのかはわからないけれど、俺はまた失敗した、と思う。
 みるみるうちに、美和の顔に失望が広がっていく。
 どうやらこれは、俺が知っているはずの、知っているべきことだったらしい。
 とはいえ、ピンと来ていない時点で、美和がこんな顔をした時点で、もうどうしようもないので、情けないながら謝る準備だけはしておく。

「なんでわかんないのーむしろ!!
先輩と、同じ高校に通いたいって、ずっと言ってたじゃん、私。」

 軽口のやり取りとは違う。本気で拗ねて、怒っている空気が伝わってくる。これに関しては、完全に自分に日があるとわかっているから、何も言えない。
 確かに美和は、そう言っていた。それをいつもの軽口だと思っていたから、記憶にしっかり留めておけなかったんだろう。
 あのときの美和の顔が思い出せない。俺は、本当に聞き流してしまっていたんだろうか。

「あ……そっか。そうだったけな……。」

 謝る準備はどこへやら。肝心な言葉は出てこなくて、俺は口ごもることしかできない。
 素直に非を認められないのは、普段の関係値のせいもある。
だからと言って、ここでごめんの一つも言えないのは、本当はよくないのだとわかってはいる。
 そんな俺の情けない葛藤は、すぐに美和に伝わった。

「え、急にだまんないでくださいよ! なんか気まずいじゃないですか!」
「お前がいきなりしんみりするからだろ。」
 
 明らかに美和が助け舟を出してくれたのを良いことに、まるで彼女が悪いかのように言葉を返す俺。正直情けないと思う。

「別に変なことは言ってませんし! ホントのことだし!」

 口をとがらせる美和から、この話はこれで終わり、という風が流れてくる。
 話を変えるタイミングなのを悟って、俺は申し訳なさを引っ込めた。
 この前まで中学生だった女の子を前に、一体俺は何をしているのか。

「まあなんにせよ、無事受かってよかったな。」

 もっと素直に、祝福してやれればいいのだろうけれど、それはなかなか難しい。
 それは、俺と美和がこれまで過ごしてきた時間がそうさせるのだから。
 ……そう思うのは、俺の言い訳なんだろうか。
 最も、そんな俺の感傷は、次の一言でぶち壊されることになる。

「はい! これで晴れて、先輩と登校できますから!」

 思考停止した脳に、だんだんその意味が浸透していくにつれて、今朝、美和が玄関で俺を待っていたことの本当の意味が浮かび上がってくる。
 嫌な予感がありありと浮かぶ俺の表情に気づいていないのか、気にしていないのか、美和は能天気に聞いてくる。

「どうしました?」
「もしかして、毎日俺と登校する気?」

 美和が、俺の質問ににんまり笑顔を返す。
 答えを聞かずとも、それはもう、肯定でしかないのだが、美和はあえていやらしい返事で俺の神経を逆なでにかかる。

「あ、気づいちゃいました~?」

 そして、ここぞとばかりに美和は顔を近づけ、わざと小声でささやくのだ。

「はい、もちろん、毎日お迎えに上がります!」

 俺の頭の中で、これから一年の朝のイメージが一瞬で流れていく。
 そのあと、まじかよ、という呻きがこぼれていた。

「あー! 思いっきり嫌そうな顔した! 傷つく!!」
「いや、俺の都合ガン無視じゃん!」

 それ以上、言い合いは続かなかった。
 そんなの知りません、と言わんばかりの美和の笑顔を見て、俺は敗北を悟った。
 これ以上言っても無駄なのだ。ならばもう、運命に身を任せてしまった方がいい。そのほうが面倒くさくない。
 立ち止まって睨み合っていた、もとい、睨んでいる男子高校生と、満面の笑みの女子高生は、再び歩き出す。
 肩を落とす俺に、横を歩く美和の視線が刺さる。
 おそらく、勝ち誇った顔で、にやにやと俺の様子を見ているのだろうが、腹が立つので確認しない。

「先輩好きでしょ? 
 可愛い幼馴染が毎日迎えに来てくれるようなシチュのゲーム!」

 俺が視線を合わせようとしないので、横から覗き込むように美和は聞いてくる。
 アドバンテージが自分にあるの自覚してか、美和の煽りは止まる気配がない。
 なんだか言い返す気力も足りなくて

「嫌いじゃないけど……」

 とあいまいに返すと、案の定、調子に乗った美和が畳みかけてくる。

「ほら、じゃあいいじゃん!」
「幼馴染じゃない」

 そこは大変重要な点であり、絶対に譲ることはできない。
 美和は比較的近所に住む中学時代からの後輩ではあるが、幼馴染ではない。
 大事なことは何とやらである。

「幼馴染と後輩の違いくらいは、脳内変換でなんとかしてくださいよ、得意でしょ?」
「今、馬鹿にしてるよな?」

 調子に乗り続ける美和に腹を立てているうちに、俺にも勢いが戻ってくる。
 先程は悪いことをしたと本気で思っていたのだが、ちょっと甘いところを見せたらこれだ。どこまでも乗っかってくる。そろそろ反撃の狼煙を上げたいところ。
 なんて言い返してやろうと頭をフル回転させる俺に、美和は卑怯にも意外な変化球を投げ込んでくる。

「あ、お弁当も作ってあげましょうか!」
「まじで?」
「え、意外! 私のお弁当食べたいんです~?」

 まんまとトラップにかかったことを自覚する。
当の美和もまさか引っかかると思ってはいなかったらしく、大げさに驚いた反応の後に、笑顔で煽ってくる。
 何とか一矢報いたくて、俺はなるべく美和がダメージを受けそうな言葉を考える。

「いや、購買代浮くなって思って。」

 俺の渾身の反撃に、さっきまで優勢だった美和の表情が一気に曇り、彼女の感情が沸騰するのが手に取るようにわかった。

「ひどい!! なに節約に私の愛妻弁当利用しようとしているんですか!?」
「いつから愛妻になったんだよ……!」

 明らかに本気で言っているトーンの愛妻発言で、一気に反撃する気力を奪われる。
 残念な奴を見える目で若干引いている俺の顔を無視して、美和は畳み掛けてくる。
 
「あ・な・た……」

 次の瞬間、俺の耳を美和の吐息がくすぐっていた。
 腕には温かい感覚。またもや抱きつく美和がいる。
 顔面の表面温度が一気に上るのを感じて、俺は思わず叫んでいた。

「おい!」
「あはははは!!」

 また俺から一本取ったのが面白くてたまらないふうに、美和は爆笑している。
 強く言い返してやりたいのに、動揺が俺の声を上ずらせる。
 そして通学路を慌てて見渡す。幸いこの時間、道を歩いている人間はほとんどいない。

「誰かに見られたらどうすんだよ!」
「私は別に困らないですけど? 先輩困るんです?」
「いじられるだろうが! 友達に!」

 完全に手玉に取られている。
 強烈なカウンターを入れて黙らせてやりたいのに、俺の口は上滑りし続ける。
 お陰で、訴える被害の「可能性」があまりに情けなく、サーブ権は美和の手元のまま。当然、美和が攻勢を緩めるわけもなく、煽りは続く。

「友達? 彼女じゃなくて?」
「うっせ、いねーよ!」

 友達と言ってしまった以上、この展開は予想がついている。将棋で、打った瞬間に飛車角が無防備になっていることに気づいてしまったような感覚だ。
 もうこうなると、声を荒げるくらいしかやることがない。

「あ、いないんですね? 高校デビュー失敗したんです?」
「うるせーよ!!」
「あははは!」
「腹立つわー……」

 せいぜい自分も同じ過ちを犯さないようにな、と言ってやりたいが、それはありえない。美和の性格とコミュ力は、残念ながら嫌というほどわかっている。そもそもデビュー済みな気がする。
 ちなみに否定しておくが、俺は別にクラスで孤立もしてなければ、スクールカースト上位種におびえてもいない、ごく普通の高校生活を満喫している。彼女はいないが。
 そんなことを悶々と考えていたからか、美和のつぶやきを聞き逃してしまった。

「……そっか、彼女いないんだ……!」
「ん?」
「なんでもないです!」

 やけに、にやついて取り繕う美和を見て、何か本音混じりのぼやきだったのもしれないと思い、それ以上追求はしない。地味な本音とかで、無駄なダメージを負いたくない。
 美和は、俺にそのぼやきが聞こえている可能性を考慮してか、話題を変えようと声の調子を変える。

「あ、お友達に『俺の嫁だ』って言ってくれていいんですよ?」
「いわねーよ。」

 言ってたまるか、というニュアンスを込めて強く返す。
 そもそも、どうして俺のキャラクターが若干ヲタク文脈で語られるのが気に食わない。ごく普通の高校生男児である。
 すると美和は、先程の話を再び持ち出して、少し不満げに口をすぼめる。

「えー、お弁当いらないんですか?」
「それはほしい。」

 それとこれは話が別だ。いい出したのは美和だし、もらえるものはもらう所存。というのもあるが、そろそろ反撃したい気持ちのほうが強かったりもする。
 思惑通り、美和は俺の釣り針にパクっと食いつく。

「お弁当だけほしいとか、めっちゃ現金!! 私のお弁当目当てだったんですね!」
「体目当てみたいに言うなよ」
「え、体目立てだったんですか!?」

 美和は、またもや俺の発言に隙を見つけたとばかりに口元を歪ませる。
 だがそうそう何度も攻め込ませるわけにはいかない。
 俺は、小さじ程度の悪意を込めて言い放つ。

「うるせーよまな板」
「まな板じゃないもーん! Bあるし!!」
「ないじゃん」

 本気でぷりぷりとし始める美和の反応を見て、やっと反撃に成功したことを確信して、胸がすっとするのを感じる。
 あ、Bあるんだ、と少し膨らんだ薄着の美和の胸元を想像したことは、悟れないようにする。

「これだから二次元好きはーー! 
 どうせDカップ以下は人権ないとか思ってるんでしょ!!」
「二次元好き言うな!」

 軽口の木刀での果し合いに、コンプレックスという真剣を持ち出してしまったことを公開する。相手のコンプレックスを攻撃するとき、自分のコンプレッスクを攻撃される覚悟を持たなくてはいけない。
 しかし、はっきりヲタク、と言われなかったことで、とっさのところで峰打ちにされた感じがして、より敗北感が漂う。
 そんな俺を睨みながら、美和は声のトーンを落とす。

「いいんですか? そんな態度で!」
「何が。」

 追撃を警戒していた俺としては、意外な牽制をされて先が読めなくなる。
 後悔するぞ、と美和の顔にはっきり書いてある。一体どんなカードを切ってくるのかと身構えていると……。

「私、これからFカップになる予定なんですけど。」
「そうなったら態度改めるわ」

 俺は反射神経的に即答していた。それは仕方ない。男の性である。
 本来であれば、敵陣で真っ裸になったも同然の隙だったのだが、それにトドメを刺すでもなく、からかうことも忘れて美和は憤る。

「ろこつーー! 露骨な体目当て!! ひどすぎる!!」
「男なんてそんなもんだろ。」
「世の中の男全員道連れにするのやめてもらっていいです?
 そうじゃない人もいると思いますよ?」
「どうだろうな。」

 明らかにべたべたとくっついてきて俺を誘惑してくるくせに、こいつは何を言っているんだろうと思う。俺が「そうじゃない人」なのかどうか確かめるために試練を与えてくる悪魔か何かなのだろうか。
 でも実際、俺はどっちなんだろうか。
 美和は、「そうじゃない人」のほうが、好みなんだろうか。
 一瞬、そんな思考に耽ってしまったことで、俺は美和が冷静になる時間を作ってしまうというミスを犯した。
 
「ってか先輩、触ったことあるんですか? ないでしょ?」

 悔しくて、肯定も否定もしたくなかった。
 言っておくが、そう簡単に触れるものではない。そもそも俺は彼女がいないわけであって、そうでない女が触らせてくれるはずがまずないし、別の次元でよく発生するラッキーなんとやらが現実世界で起こることなんてもっとない。
 そりゃ触れるものなら触りたい。それは全世界の男子の総意だろう。
 だが、それはままならないことなのだ。こと日本においては若者の恋愛離れが囁かれ、カップルの数が減っているらしいじゃないか。俺も間違いなくその数にカウントされているわけで、個人の努力はあれど、これは社会現象なのでもあって、俺が胸を触ったことがないというのは、単に俺の意志と可能性とはまた別の理由があると言っても過言では

「無言は肯定って本に書いてましたよ?」

 バレていた。
 俺にできることは、負け惜しみを言うくらい……って俺、負け惜しみしかいってなくないか。

「お前がしょっちゅう押し付けてくるだろ、ナイチチ。」
「は!? ナイチチじゃないし!!」

 俺と美和の言い合いにおいて、暗黙のルールがあるとすれば、本気のディスは避けること、だろうと思う。
 だから、こんな言い方は禁じ手なのだが、つい口に出してしまう。
 さっき、コンプレックスに触れるというタブーを犯した時点で、泥沼化は避けられなかったとは言え、さすがに美和が本気で怒るのも無理はない。
 気まずい雰囲気が流れ……という展開を予想していた俺は、突如首と背中に迫る圧迫感に混乱する。
 まさかの、実力行使!?

「これでもないって言えますか~!」
「お、おい!」

 美和は俺の首に抱きつき、ぐいぐいとBカップとやらを俺に押し付け始める。
 締まる首、首筋に触れる美和の柔らかい髪の感触、耳裏に掛る吐息、いい匂い。
そして、背中に感じる感触。
 押し寄せる情報に、いっぱいいっぱいだ。

「あるって言え! 柔らかいって言え~!」
「わかったって! 柔らかい! すごい柔らかい!」

 実際、柔らかかった。俺の中で、Bカップの情報が上書きされる。
 いやいや、本当に? 俺の想像とはだいぶ剥離がある。あれ、もっとない? Cとか、そういうあれなんじゃないの?
 完全に思考が持っていかれ、またもや丸腰になっていることに気が回らない俺の耳元へ、またもや美和が忍び寄っていた。

「先輩のえっち。」

 俺はそれに対して、不満の声を上げたつもりだったが、またも情けなく裏返るだけだった。
 そんな俺の敗北を、美和は豪快に笑い飛ばすのだった。

「あはははは! でもホントに柔らかかったでしょ?」
「……」
「無言は肯定ですよ?」
「お前な~!」

 さっきまでの逡巡が答えなのだから、言い返すことはできない。
 美和が中学生の時代から、よく抱きつかれてはいたはずなのに。俺の情報が古くて、美和の身体スペックがアップデートされているということなのか。
 何でもいいのだが、猛烈な恥ずかしさが消えないから、この話題はもう避けたいところ。
 だが、美和は追撃の手を緩めてはくれないのだった。

「まあ、触ってみたくなったら相談してくださいよ。先輩のために熟慮するので。」

 一体、何をどうやって熟慮して、何をしてくれるというのか。
 想像しながらも、自分で口走ってこれ以上、墓穴を掘りたくない。
 だから「熟慮」という妙な言い回しに突っ込むことで、湧き上がってくる妄想に蓋をする。

「なんだよ熟慮って。」
「そう簡単に触らせるわけないでしょ! 私、軽い女じゃないので。
でも先輩の頼みだったら考えるので、熟慮です。」

 それは全然説得力のある発言とはいい難い。
 だからこうして反撃してみるけれど、実は美和の言っていることは本当だというのも、わかってしまっている。わかった上で、それでも俺は減らず口の反撃を試みる。

「こんなに抱きつく女が軽くないって。」
「誰にでも抱きつくわけじゃないですよ? 先輩だからですけど。
 私、人前で抱きついたことないですよね? 
 そんな節操なしじゃないでーす。」
「どの口が……」

 結局、次の瞬間、答え合わせをされてしまい、口ごもってしまうのだった。もう半分観念して、あ、と何かを思いついたらしい美和の次の言葉を待つ。
 せめてダメージを少なくしようと、受け身の準備くらいはしておく。

「じゃあ、人前じゃなきゃいいんですよね?」
「あのなぁ……」
 
 俺の反応は、一人納得して笑う美和の発言を嗜めるような、呆れるような、一見そんな響きに聞こえたかもしれない。
 だが、それだけではない。それは言うなよ頼むから、というニュアンスがないかと言えば嘘になる。
 何度も言うが、俺は健全な高校三年男児である。体裁は死ぬほど気にするが、反面抗いがたい、いわゆる、男の子な部分もある。相手が慣れきったつもりの相手であっても、そんなに悪くも思っていない相手なら。
 いいか悪いかで言ったら、別に悪いとは言い切れない性というものがあるわけで、しかしそれを認めると今後の自分の沽券に――

「あーー、まんざらでもなさそうな顔してる! やっぱりエッチだ!」
「おい!」

 もう怒鳴るくらいしか手が残されていない俺から、小学生が「ばっちぃ」とでも言うように遠ざかりながら美和はからかいの言葉を投げつけてくる。

「先輩のエッチーーーー!! あはははは!!」

 無言で立ち止まる俺と、大股で三歩ぐらい先で俺を見つめる美和。
 しばしの無言。

「先輩、怒ってます?」

 無言は肯定、というさっきの美和の発言を思い出す。今の俺はまさにそれに違いない。
 本音を言えば、単純な怒りかと言うと複雑なのだが、俺から発言したくない気分であることは確かだった。

「ごめんなさい。」

 多分、俺が欲しかっただろう言葉を美和はあっさりと口にした。声のトーンに、ふざけた感じはなかった。さすがの美和も、この場面で俺を茶化すほどではない。
 引き際は弁えている。それが俺と美和の過ごした時間の長さでもあると、思ったりする。

「いいよ別に。」
「ふふふ……!」

 美和が引いたのならば、俺はそれ以上追求する必要がない。これが暗黙の了解というやつだろうか。なんだかわかり合っている二人みたいで、だんだん癪になってきたけれど、俺の手打ち宣言を引き取った美和の笑い声に、その考えは中断される。

「せーんぱい!」

 気づけば美和は、さっきよりもずっと強く、ずっと近く俺の腕を抱きながら体を寄せていた。くっついていた。外から見たら、それはもう、確定的な距離感で。

「このまま登校したら、付き合ってるって思われるかな?」
「あんなぁ……」
「入学式からカップルで登校ってヤバくないですか?
 怖い先輩に目、つけられちゃうかな。」
「いじめられるかもなー。」
「そしたら、先輩守ってくれる?」
「お前の自業自得だよな?」
「えー、そこは、俺が守るよ、じゃないのー?」
「知らん。」
「でも目をつけられるときは先輩も一緒ですよ?」
「俺はハメられたと主張する。」
「ひどい! 私を売る気ですね!」

 腕を振りほどく気力はもう俺にはなく、もう美和が腕にぶら下がっていることを気にするのは止めた。
 ……というのは、さすがにカッコつけすぎなんだろう。振りほどく理由がないから、そのままにしておいた。そうだ、今はこれが俺の正しい感情。今は、この言い方で手を打ってほしい。
 一体誰に対して言っているんだろうな、俺は。そんな自嘲も、美和をそのままにしておく理由も、突如として終わりを迎える。

「はいはい。あの角曲がったら、校門だからな」
「ちぇー、ここまでかー。はーい。」

 不満げにつぶやきつつ、美和はあっさり俺の腕から離れる。引き際は弁えてる、のだ。そう、いつだってそうだった。
 まったく、と迷惑そうにつぶやいた俺の言葉には、果たしてそのニュアンスが乗っていたのかは、正直自信がない。

「確認なんですけど。明日から迎えに行ってもいいんですよね?」

 まるでさっきまでのことが既成事実であるかのように、美和は目を輝かせて俺に確認する。次に溢れる言葉を確信したような自信がそこにはあった。
 それをそのまま認めるほど素直にいられないのは、この際勘弁してほしい。

「はぁー……」
「めっちゃため息デカイんですけど!」
「いいよ。」
「え、ホントに!?」

 期待を裏切られそうな反応に陰った彼女の瞳孔が、意外さで開く。
 さっきまでの自信はなんだったんだよ、と吹き出しそうになる。あんなにグイグイ来ておいて、そんなに不安がるなよ、変なやつ。まあ、それも知っているのだが。

「ダメって言っても来るだろお前。」

 精一杯の面倒臭さを込めて吐き出す。
 いい加減認めよう。お前が、その制服を着た瞬間から、残念ながらこの未来は決まっていたんだろうから。

「やったーー!! あ、お弁当は?」
「ほしい。」
「素直でよろしいー! あ、節約した購買代で私に貢いでくれてもいいんですよ?」
「貢ぐかよ!」
「あははは!! あー、楽しみだなー高校生活!!」

 それ以降はいつもの軽口で。意味などない。意味などないけれど、悪くはない。
 笑う美和の顔は、本当に晴れ晴れとしていて……。
 一瞬、次の言葉がうまく出てこなくて、いや、言語化できなくて。俺はこう結論づける。
 この前まで中坊のクソガキだったくせに。なんだ、ちょっと大人になりやがって。
 だから、これくらいはちゃんと伝えておこう。

「とりあえず、あれだ。」
「ん、なんですか?」

 振り返る美和の顔は、とても素直な笑顔で。俺をからかってやろうなんて気配は一ミリもなかった。だから、俺も素直に。

「入学おめでとう。これからまたよろしく。」
「――――!!」

 大きく目を見張り、息を飲み込む美和。
 不意打ちを食らったみたいに、ほんの一瞬、時が止まったような。
 そしてすぐに、今日一番の可愛い笑顔を、咲かせた。

「はい、ありがとうございます……。こちらこそ、よろしくお願いします!
……あ、私、受付あるんで、先に行きますね!」

さっきまでの余裕はどこへやら。
美和は短くお辞儀をすると、駆けていった。
……照れ隠し、というのは、さすがに意地悪かな。

「入学式、寝ないでくださいねー!」

 最後まで俺をからかおうとするスタンスは保ったまま、後ろ姿は見えなくなる……。
 かと思った美和は、何かを思い出したように立ち止まり、再び駆け寄ってくる。

「そうだ、先輩!」

 何の忘れ物だろう。一体、何を言うつもりだろう。そんな想像をしている自分の胸が、なんだか温かい気がするのを無視して、俺は思い切り面倒くさそうな顔を作る。
 その顔に、遠慮なくおでこを寄せながら、美和はささやく。

「今日、一緒に帰りましょうね!」

 ふふふ、と笑う美和。
俺が息をするのを忘れているうちに、美和はもう随分先を駆けていた。
 今朝は、何敗だったんだろうなとぼんやり考えながら、今度こそ、その背中を見送る。

「じゃあ、また放課後――!!」

 俺の返事も聞かないまま、勝手に彼女の中では確定した約束を胸に。
今日から美和は、俺の後輩になる。 


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