林檎のかけら


七夕の光りもわずかちりぢりに地上の愛を手放すふたり

ベゴニアの苗木がゆれる 風の日に陽当たりながらわれを慰む

だれかしら心喪うものがゐて舟一艘に眠りて待てり

ゆうぐれの並木通りに愛を待つ わずかなりたることばのすえに

天使降りる土地の主人をまざまざと照らす光臨あざけりやまず

車座の僧侶の群れが笑いだす回転式の御堂の昏さ

知ってゐたぼくがひとりでゐるわけを いまは果敢ない林檎のかけら

燕麦の滾る昼餉よ猫舌の最後のひとり匙を投げたり

たしかさがわれらをわかつ夏の夜の燃ゆる竈に本を棄てたり

涕あれ たとえわずかな愛さえも頬を濡らさず終わるものかと

ゆくたびにちがった顔がわれとなる やがて消えゆくわれの星蝕

時雨てはわが妹の半身を濡らす神あり 呪わば奪え

妹の髪が逆巻く夏の夜 水汲みながらお伽を伝う

妹の枕話よ永久というまがいものなど滅ぼしたりぬ

生きて猶やさしくなれぬゆえにいま水疱瘡のおもいで語る

遠き日の姉の再婚・金色の沼をば欲すわれの愛憎

暮れる陽をもてあましたり一日は囃子のごとく過ぎてゆきたり

ともにゆくつれあいあらず独身の発芽物質を持ち歩くなり

「炎える母」宗左近の詩を読みし青年の日をわれは羨む

茗荷刻む 夜は暑さのなかにありやがて心に固着するかな

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