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Stones alive complex (Libyan Desert Glass)

本社ビルの地下にあるドラブーン駐車場のアプローチを社有ドラブーンの背にまたがり出口から飛び上がったところで、手網をさばく。
ドラブーンのやたら長い首を、愛想良く左右に振らせた。

最上階の社長室からこの出撃シーンを見ててくれてるかもしれない美人秘書の型番キメラ・ヤンデレ・ンーロク・デンナ・Eグレード嬢、略してキャンディちゃんが窓越しに(がんばって♡)って、メッセージをくれるかもしれないと期待したからであったが、代わりに社長が窓越しにこちらを睨んでおり拳を突き出し(事態は冷静に恐れよ!)という社訓を口パクでつぶやいていた。

ハートウォーミング系のテンションがだだ下がる。
だが、しかし。
ハードボイルド系のテンションは爆上げされた。

サンキュー社長。いちおうの敬礼を返す。

社のビルを螺旋で旋回し、急上昇する。

振り返り望遠ゴーグルで見下ろせば、1階にテナントで入っているパン屋は混み合っていた。あそこはデバッグプロセスチーズパンが人気だ。いつかはランチに食いに行きたいとは思ってはいるが、1階までエレベーターの往復に3時間強かかってしまう。
店の表へ延々と伸びてる行列の最後尾に、密かに思いを寄せてるくだんのキャンディちゃんが、じっと並んでるのを発見した。

なにしとんねんマイハニー!
必死に手を振るが、気がつかない。

218階に間借りしてるネオマトリックス旅行社の前を飛ぶ。
社員たちはウインドーの飾り付けに忙しそうだった。行楽シーズンをひかえ、新作の仮想現実世界へ数万人規模のツアーを組んでいるらしい。いっつも募集は数ナノセカンドでソールドアウトになるが、いつかはキャンディちゃんをペアチケットで誘うのが夢だ。
窓ガラスへつま先立ちで、宣伝の垂れ幕を貼ってるキャンディちゃんがいた。

なにしとんねんマイスイートハート!
必死に手を振るが、気がつかない。

フリースカイウエイをはさみ、本社の向かい側にあるダブルフェイスホテルの屋上を眺める。
そこには不法宿泊者たちが建立した共有主義の国家があり、今まさに大統領を含む国民全員参加のデモが行われていた。
何者かに向かって『ルームサービス!』と書かれたプラカードを掲げ、全員で権利を主張している。
数人の男女が屋上の手すりから身を乗り出し、こっちにも何かを叫んできたが、素早くスマホカメラで撮影してTikTokへ投稿しといてあげた。
その数人の中にも、数人のキャンディちゃんがいた。

なにしとんねんマイベイベーズ!
必死に手を振るまでもなく、あっちらが必死の形相で手を振ってくる。
それには気がつかぬふりで、顔をそむけた。

ドラブーンが長い首をこちらへぐるりと曲げ、低く唸った。
そうだな、相棒。
油を売るのはガソリンスタンドだけでいい。
我々もさっさと聖戦へ向かおう。
ウォーミングアップも万全だ。

手強いダーモンたちが高温多湿環境に弱いならば、肉体の内部もメンタル内部も高温多湿の環境にすればいい。
最も効果があるのは、自らの運命プログラムも高温多湿にすることだ。

具体的で有効な対策案が現時点で無い場合は、確率論的な対策しか講じる手だてがない。
それを踏まえるなら。
確率論に加えて、運命論的な対策をも講じれば生存確率はかなり増す。
つまり。
運命プログラムに巣食ったダーモンを、アルゴリズム的な高温多湿状態にさらしてやれば無力化できるのだ。

我社のこのドラブーンが!
発汗性ハーブティー多弾頭アルゴリズム弾を、ダーモンどもの胃袋へ隕石のごとく、おもてなしする。

雲を衝く本社ビルを背にして、相棒のドラブーンは羽ばたきの勢いを強めた。

見事にこの戦いに勝利し帰還できたのなら、
クローン抗体増殖されたキャンディちゃんのひとりくらいならば(頑張ったわねダーリン!)ていう気持ちのハグで、高温多湿に出迎えてくれる気がする。

(おわり)

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