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Stones alive complex (Libyan Desert Glass)


日の出から降りて来た男が、言う。
電離層のイオンを引きずってきた翼をたたみ彼は、飛び石のようにビルの屋上をゲタで跳ね、合流地点の電波塔へ向かっていた。

「うん。
今でもやっぱり、この計画を立案した彼女が最終的にどうしたいのかは、わからんまんまだな」

カんラ、カんラ、と笑い。
酸素呼吸は必要としてないのに深く吸い、胸郭を膨らませる。
そして、何に笑ってるのかわからんまんま、再度でかく哄笑。
その振る舞いは流星や彗星の姿が狗(犬)に似ているところから、『天の狗』と呼ばれることもある。

「そりゃあ、まあ・・・
我よりも、彼女が凄い力を見せてたのは認める。
我を日本神話キャラ扱いして、人々の認識の裏側へ押し込めた。
あれ以来我は、表舞台とろくに話もできなくなったし、うまくグローバルへは喋れもしなくなった。
何をやっても昔みたいにはいかなくなった。
確かに彼女は計画立案者だろうが、それもそろそろ着地点を提示してもらわんとな」

高次の自己は超未来にいる自己と、同義。
ならば、近未来の自己である彼と超未来の自己である彼女は、冷徹に激しくエキサイトマッチすることになる。

「おそらく時流に抵抗してる連中は、彼女と我の中の切なすぎる自己矛盾の身代わりだな。投影なのだな。石器時代へ逆戻りとは言わないまでも、計画のとおりにはみ出した者として、記録だけは残されるだろう。
これにて今日は、パラダイム連鎖の輝かしいひとつの区切りとなるぞ、彼女の絶頂期みたいに。彼女が世界のあれこれと動植物のみんなを、認識できる次元へ引っ張り出した時みたいに・・・」

彼が跳びながら扇へ叩いたのは、昔風に言えばテレホンナンバー、今風に言えばテレパシーのアドレスコード。

「もしもーし!
今どこにいんの?」

ようやく高尚な神話の拘束から解放される。
切なすぎる境界の季節を、甘酸っぱい秋して縛鎖を壊したい。

「来たわね、要点!
こっちは、とっくに着いてるわ」

答えたのは、日暮れから現れた女。
下界生まれの有翼で、正論の真逆方面から来た論客っぽいというか、反論物質っぽい女性である。
電波塔の電波へと広げた翼で、現代の語彙と概念を充電している最中だ。

その姿に、彼はフォーカスする。
君が本物の天使だったらいいのに。
迷わずに、張り裂けそうな胸の痛みにも割れそうな腰の痛みにもフォーカスするのに。我のメンタルとボディの願望が一致する機会は、そうそうあるもんじゃないのに。

翼と同じカーブの背で、彼女は語り始める。

「こうして、『信じれば叶う』の時代は、大したものだったと語り継がれるでしょう。
派手さでは、私たちが表舞台を取って代わられる前以上だった。
前の頃の物語は太陽語でリビアングラスに刻まれていて、どこか遠い深い海の底へ落下してるらしいわ。それを読解できるタコは今、三匹しかいないの。
他にも記憶に残る素晴らしい時代があった。
『生贄を捧げれば叶う』とか、『執着しなければ叶う』とか、その結果は期待してたものと大きくズレがあった。
今どきな、『信じていれば叶う』理論では。
信じてたのに叶わなかったケースと、
信じてなかったのに叶っちゃったケースを、まったく論理的に説明できないのね。
信じる信じない以前のとこのある要点は、共通して持っているのだけど・・・
この理論ももう、昨今の世界情勢で終わりかけてる。
私個人は終わって良かったって思うけど。
要点が、さらに近づいてきたからよ」

「むしろ。
今叶っている願いは何か?から逆算して、
要点をよおく理解すべしだな」

「正解よ、要点。
じゃ。
一緒に飛び跳ねましょうか」

新しい朝がくる。
朝とは毎回、新しいのだけれど。

うろたえて要点がまとまらない話になるのは、
いつもの夏が来ないまま夏が終わるせい。

(おわり)

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