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Stones alive complex (Rainbow moonstone)


「貴殿が、声高に叫ぶ『愛』とはなんぞや?!」

「自分のことよりも相手のことを思いやる心よ!
それこそが本物の愛なのよ!」

「自分のことよりも相手の心を思いやったその相手には、なんらも見返りを望んでないというのだなっ?」

「当然よ!
でもその人が、私が愛するにふさわしい人ならきっと、同じように自分のことよりも相手のこと、つまり私のことを自分のことより思いやってくれるはずだわ!」

「それって・・・
愛と名付けてはいるが、期待値の先払いなんじゃ・・・?
これも偽装された整合性なのかっ!」

見つからない。
大手百貨店のフロアで喫煙場所を探すくらいに。
もしかすると正しく整合がとれてる整合性はもう、別のマトリックスへと退散してしまったのだろうか?

結び目がほどけた風船じゃあるまいし、整合性が見切りをつけて立ち去るスピードときたら助走のフォームも追えない。
なにが正しくてなにが間違いなのか?の一貫性なんて、時と場所と判断する人間の価値観とそいつの満腹度と睡眠時間と交友関係の社会的ステイタスと年収と今の虫の居所次第じゃないか。
正しい整合性はもはや喫煙者と同じ、絶滅危惧種なんだ。
風雨が吹きさらしの屋上喫煙コーナーで、湿りきったシガーがくすぶり、渋みが舌下に染みる。

「こうなったら!
これ以上、偽装された整合性どもがやって来ないように、ソーシャルディスタンスの半径に五芒星のホウ酸ダンゴを撒いておく!」

「ホウ酸ダンゴよりもおすすめなのは、このマトリックスを忍び足で脱獄するか、それとも接待ディナーだと折り合いをつけ保釈金を積むか、ね」

オリオン柄のコスチュームが付着直前の雨粒をはじく、選択肢ふたつを腕の天秤へ乗せる女。
浮いたサビが塗装を縦横に裂く一本足の灰皿をどけ、アスファルトへ無造作に突き刺した十字架のポーズで立つ。
雨がすぐに直撃し取り出した時の長さを残してる寂しげなシガレットをくわえたまま、唇の端だけもごもご開け閉めした。

「受け入れ難いな。
折り合いという二項対比世界独特の中庸は、折り目のとこが、難儀なタイミングで金属疲労を起こす。
そこの整合性はもう、溶接不可だ。
ところで、あんた誰?」

「私は、ラプラスプラスラブの魔女。
あらゆる物質分子とそのラブ特性に逆行する危険分子のベクトルを、精密に計測できるの。
そういうあなたは誰?」

「ぼくか?ぼくは・・・
都合良くいろんなジャンルへ意見を述べれる自称有識者さ」

ざっくばらんの度を越す、ざっくりでばらんばらんな互いの自己紹介が済む。

「気をつけてね、自称有識者さん。
このマトリックスに、悪の脅威が迫ってるわ。
わたしの計測によると回避が可能なベクトルは、一本だけよ」

「その悪とやらは、悪としての正しい整合性がとれているんだろうな?」

「思いやりのベクトルが、メビウスしているの」

「どこへも永遠にたどり着けないのか・・・それはまさしく、悪。
そもそもからして、バイオシステムが炭素系ってベースだから腐食がはびこる宿命なのかもしれないな。
のべつまくなしになにとでも結合してしまう」

「でも。
わたしは信じてるの。
炭素二割の結晶方向は、プラスラブが維持されると計測できてるから」

「信じるとは、裏切らないでと期待することじゃなく、たとえ裏切られても構わないと決意することの意味で、整合性をとってるのか?」

「この人なら幸せにしてくれる、じゃなくて、この人となら不幸になってもいい覚悟レベルなやつ?
それは時間軸があるここのマトリックスで、持続可能な結合かしら?・・・」

「理論上でいい。
あくまでもこっちは、自称有識者だ。
整合性が担保されるまでは、活動しない」

「ただのめんどくさい男の整合性よね」

二本目が消えない可能性に賭けて、シガーのボックスを叩く。

(おわり)

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