マガジンのカバー画像

映画ノート

19
運営しているクリエイター

#映画

映画ノート⑲ GS映画『小さなスナック』

斎藤耕一がこの作品を監督した頃は、まだ駆け出し時代。1968年から69年にかけて『虹の中のレモン』、『小さなスナック』、『落ち葉とくちづけ』(3作品ともヴィレッジ・シンガーズが出演)と立て続けに3本のGS(グループサウンズ)関連映画を発表している。以前、3本まとめて観る機会があったが、残念ながらいずれもぱっとしない出来栄えの凡作だった。 中でもこの『小さなスナック』は脚本構成がめちゃくちゃで何が主題なのか観ていてさっぱり分からず、訳の分からない暗い「不倫悲恋映画」という印象

映画ノート⑱「リバプール・サウンド」を初めて映像で紹介した映画『ポップ・ギア』

1965年10月に日本公開されたイギリス映画『ポップ・ギア』(1964)。   ストーリーは特になく、ブリティッシュ・ビートグループ(+数人のポップス歌手)の演奏を映しただけの一種の記録映画でした。当時、「リバプール・サウンド」と言われていたビートルズやアニマルズなど、1960年代前半にデビューしたブリティッシュ・ビートグループが大挙出演。他に「ロシアより愛をこめて」で有名なマット・モンローやスーザン・モーンなど女性歌手も出ていました。 当時は、人気は高いのにどのグループも

映画ノート⑰ 2020年公開映画甘口寸評 『シカゴ7裁判』『ジョジョ・ラビット』『罪の声』『リチャード・ジュエル』他3本

『シカゴ7裁判』は、1968年の「シカゴ暴動」を題材にした法廷群像劇。 「シカゴ暴動」は、ベトナム戦争反対を訴えるために民主党大会に集まった15000人のデモ隊とこれを阻止するために動員された2万名以上の警官、州兵、陸軍部隊とが激しく衝突し、暴動容疑で多数の逮捕者を出した事件。 保守系裁判官の初めらから有罪ありきの強引な訴訟指揮と闘い、警察の仕掛けた謀略や嘘の数々を次々と暴いていく過程が非常にスリリング。初めは頼りなさそうに見えた弁護士が、途中からだんだん本領を発揮し

映画ノート⑯ 『コリーニ事件』 ~自国の戦争加害責任と戦後処理の闇を鋭く告発した反戦映画

『コリーニ事件』は、昨年観た外国映画ベストワン。 全く予備知識なしで期待せずに観たドイツ映画。 弁護士兼作家のフェルディナント・フォン・シーラッハの同名小説が原作(邦訳あり)で、2011年に出版されて大反響を呼びベストセラーになったこと。それだけではなくこの小説の内容が、ある法律の改正を促すほどの衝撃をドイツ政界と法曹界に及ぼしたことなどは映画の鑑賞後に知った。 ドイツの高級ホテルで年老いたイタリア人コリーニが自分より高齢のドイツ人大物実業家ハンス・マイヤーを射殺し、殺

映画ノート⑭ 『海辺の映画館―キネマの玉手箱』~「戦争は絶対にしてはならない」とのメッセージが込められた大林監督の遺作

大林宣彦監督の遺作となった『海辺の映画館―キネマの玉手箱』は、監督の映画人生の集大成的な作品だった。 ロジェ・ヴァデムの耽美的吸血鬼映画『血とバラ』(原作ジョセフ・シェリダン・レ・ファニュ『吸血鬼カーミラ』)にオマージュを捧げた最初期の自主製作映画『EMOTION 伝説の午後 いつか見たドラキュラ』以来培ってきた映画への愛、晩年になって更に顕著になる反戦思想、戦争映画に対する批判、怪奇幻想映画趣味、アバンギャルド的手法など、映画キャリアの全てを注ぎ込んだ驚異のパワーに満ちた

映画ノート⑬ 映画と演劇を融合させたメタフィクション映画『劇場』

又吉直樹原作『劇場』は、観る人によって好悪がはっきり分かれる問題作。       脚本家・俳優としての自分の才能を疑いながらも演劇への夢を捨てきれず、自堕落ですさんだ生活を送っているダメ男永田と彼の才能を信じて支え続けたピュアで優しい女神のような女性沙希との7年間の愛と苦悩の日々を描いた悲恋映画。  永田は高校時代の友人と小劇団を主宰しています。一度は自分が脚本を書いた公演が評判をとりますが、ビギナーズ・ラックだったのかその後が続きません。生活にも困窮した永田は下北沢にある

映画ノート⑫ 日本の戦争犯罪と向き合った映画『スパイの妻』

初めに 『スパイの妻』は日中戦争真っ只中の1940年、軍国主義一色という抑圧された暗い時代に抗い、己の信ずる「正義」を貫こうとした一組の夫婦の「愛」の物語。 もともとNHKのBS8Kドラマとして放映された作品。劇場公開に至った経緯はよく分かりませんが、作品の出来が非常によいと評価されたので、劇場公開したのだろうと思われます。 この映画の主題に関わる重要な要素になっているのが、「関東軍第731部隊」。この部隊と戦後日本医学界との切っても切れない深い関係について、こちらに詳し

映画ノート⑨ アメリカ映画の革命「アメリカン・ニューシネマ」

日本独自のジャンル 「アメリカン・ニューシネマ」日本でアメリカン・ニューシネマと言えば、「ああ、あの時代のアメリカ映画のことね。」とすぐに何本かの作品の題名が浮かぶほど、年配の映画ファンにはよく知られた言葉です。 しかし、意外なことにこれは日本だけの現象で、海外に目を向けてみると大元のアメリカにもその他の国にも、こうした用語は存在しないようです。 ですから、同年代のアメリカの映画ファンに「アメリカン・ニューシネマについてどう思う?」と聞いても、「それ何のこと?」と、全く話が

映画ノート⑧ 政治映画『シン・ゴジラ』が描いた「対米従属国家 日本」

政治映画『シン・ゴジラ』1992年の『ゴジラvsモスラ』以来遠ざかっていた「ゴジラ・シリーズ」。『エヴァンゲリオン』の庵野秀明が実写映画化したという事で久しぶりに観に行った『シン・ゴジラ』は、意外なことに怪獣映画の衣を借りた日本では珍しい本格的な政治映画だった。 この映画でのゴジラは、明らかに大津波や福島第一原発のメタファーであり、ストーリーも大震災~原発事故の経過のアナロジー。ラストのゴジラの活動停止も「福一原発」と同様一時的な小康状態であって、「終息には程遠い」という現

映画ノート⑦ 三島由紀夫唯一のメジャー主演映画『からっ風野郎』

今で言うなら「マルチタレント」を気取っていたのか、文学だけにとどまらず評論、演劇、映画、歌手、ボクシング、ボディビル、極右政治活動、自衛隊体験入隊、民間防衛組織(盾の会)作り、軍事訓練など様々な分野に手を出しながら、右へ右へと行ってしまった三島由紀夫。                                                               挙句の果てに、最後は陸上自衛隊市谷駐屯地におけるクーデター扇動後に割腹自殺。時代錯誤の右翼思想など

映画ノート⑥ 社会問題に真正面から挑んだリアリズム映画『岬の兄妹』

「岬の兄妹」はある意味、「万引き家族」や「パラサイト 半地下の家族」を上回る衝撃作。 港の近くのあばら屋で二人だけで暮らす兄妹。 兄は片足が不自由な身体障がい者、妹には重度の知的障がいがある。 兄が職場をリストラされたためにすぐに困窮し、電気を止められた上に食料も底をつく。 飢餓状態に陥った二人は、ごみ置き場を漁る。 やっと見つけたピザの食べ残しもホームレスに横取りされ、ついには内職にしていたポケットテッシュまで口にするところまで追いつめられる。 以前、妹が見知らぬ男に

映画ノート⑤ 『太陽がいっぱい』~ 支配階級から下層民に与えられた「寓話」

アラン・ドロンが最も輝いていたのが、名匠ルネ・クレマンが監督したこの作品。 地中海の青い海、青い空、そして、アラン・ドロンの青い瞳。      大富豪の息子フィリップ(モーリス・ロネ)を いつも羨望の眼差しで上目遣いに見つめる一文無しのリプリー(ドロン)の暗い野望を秘めた目力のすごさ。 後から読んだパトリシア・ハイスミスの原作ラストは、映画とは真逆で唖然としました。 原作のラストを改変し、逮捕のシーンまで見せずに、イスキア島の明るい夏の陽光のもとでリプリーの暗い末路を暗

映画ノート② 60年安保闘争の政治的アナロジー映画『真田風雲録』

加藤泰の代表作というと、中村錦之助と組んだ三作品「 瞼の母」「沓掛時次郎 遊侠一匹」「真田風雲録」、他には 「明治侠客伝 三代目襲名」「緋牡丹博徒シリーズ」「みな殺しの霊歌」 などでしょうか。 中でも、初めて観たとき「東映で、よくこんな映画作れたなあ。」と感心したのが、何ともシュールなSF時代劇「真田風雲録」(1963) 。       原作は福田善之の戯曲で、福田は脚本にも参加しています。 大阪冬の陣・夏の陣を60年安保闘争の政治的アナロジーとして描いており、真田幸村(

映画ノート① 川島雄三の神業が堪能できる傑作『洲崎パラダイス 赤信号』

学生時代に一度観て、凡作の烙印を押したまま長らく忘れていた『洲崎パラダイス 赤信号』 。                         意外にも近年、再評価されているらしいので、ダメ元でもう一度観てみた。見終わった後、びっくり仰天して茫然自失。              何とものすごい傑作だったではないか! 再見して、若い頃の自分の目がいかに節穴だったか思い知らされた。 当時は、映画をテーマ性で評価する傾向が強かったので、ダメな男女の腐れ縁の話なんてはなから受け付けられな