マガジンのカバー画像

映画ノート

19
運営しているクリエイター

#映画感想

映画ノート⑰ 2020年公開映画甘口寸評 『シカゴ7裁判』『ジョジョ・ラビット』『罪の声』『リチャード・ジュエル』他3本

『シカゴ7裁判』は、1968年の「シカゴ暴動」を題材にした法廷群像劇。 「シカゴ暴動」は、ベトナム戦争反対を訴えるために民主党大会に集まった15000人のデモ隊とこれを阻止するために動員された2万名以上の警官、州兵、陸軍部隊とが激しく衝突し、暴動容疑で多数の逮捕者を出した事件。 保守系裁判官の初めらから有罪ありきの強引な訴訟指揮と闘い、警察の仕掛けた謀略や嘘の数々を次々と暴いていく過程が非常にスリリング。初めは頼りなさそうに見えた弁護士が、途中からだんだん本領を発揮し

映画ノート⑬ 映画と演劇を融合させたメタフィクション映画『劇場』

又吉直樹原作『劇場』は、観る人によって好悪がはっきり分かれる問題作。       脚本家・俳優としての自分の才能を疑いながらも演劇への夢を捨てきれず、自堕落ですさんだ生活を送っているダメ男永田と彼の才能を信じて支え続けたピュアで優しい女神のような女性沙希との7年間の愛と苦悩の日々を描いた悲恋映画。  永田は高校時代の友人と小劇団を主宰しています。一度は自分が脚本を書いた公演が評判をとりますが、ビギナーズ・ラックだったのかその後が続きません。生活にも困窮した永田は下北沢にある

映画ノート⑫ 日本の戦争犯罪と向き合った映画『スパイの妻』

初めに 『スパイの妻』は日中戦争真っ只中の1940年、軍国主義一色という抑圧された暗い時代に抗い、己の信ずる「正義」を貫こうとした一組の夫婦の「愛」の物語。 もともとNHKのBS8Kドラマとして放映された作品。劇場公開に至った経緯はよく分かりませんが、作品の出来が非常によいと評価されたので、劇場公開したのだろうと思われます。 この映画の主題に関わる重要な要素になっているのが、「関東軍第731部隊」。この部隊と戦後日本医学界との切っても切れない深い関係について、こちらに詳し

映画ノート⑪ 1950年代SF映画の最高峰『禁断の惑星』

先日、NHKBSプレミアムで『禁断の惑星』(1956)が放映されたので、久しぶりに観てみました。 主題は勿論のこと、最近のVFXにはない手作り感満載のクラシカルな特撮技術、テクニカラーに比べると発色がやや地味なイーストマンカラーをうまく使った美しい色彩設計、1950年台のアメリカSF雑誌の表紙を思わせる惑星クレルの情景や地下の巨大な核融合装置等の書き割り(マットペイント )、電子音による音楽や音響効果、アニメーション(「イドの怪物」等)との合成等、どれも当時の最高水準で、改

映画ノート① 川島雄三の神業が堪能できる傑作『洲崎パラダイス 赤信号』

学生時代に一度観て、凡作の烙印を押したまま長らく忘れていた『洲崎パラダイス 赤信号』 。                         意外にも近年、再評価されているらしいので、ダメ元でもう一度観てみた。見終わった後、びっくり仰天して茫然自失。              何とものすごい傑作だったではないか! 再見して、若い頃の自分の目がいかに節穴だったか思い知らされた。 当時は、映画をテーマ性で評価する傾向が強かったので、ダメな男女の腐れ縁の話なんてはなから受け付けられな