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cluster百物語「走る災害とまいごの竜」


導入

 

『キーンコーンカーンコーン』

 

学級委員長「きりーつ、きをつけー、れー」

 

先生「それでは今日は、cluster百物語の一編『走る災害とまいごの竜』を読み解いていくよ。準備はいいかな。僕はわくわくしているよ。うまく説明できるか分からないけど、頑張ってついてきてね!」
 
原文のみを読みたい方はこちらをどうぞ。https://note.com/mittsujp/n/n13e328ab572d

 

板書と解説

 

むかしむかし、あるところに、一匹の竜と一度の災害がいました。

走る災害とまいごの竜

「ここには、

2022年、日本という国の某地方に「みっつ」と「宇宙災害」というcluster("スマートフォンやPC、VR機器など様々な環境からバーチャル空間に集って遊べるメタバースプラットフォーム")ユーザーがいました。

っていうことが書いてあるね。」

 

ある日、竜は言いました。
「来週は人々のいつもの寄り合いが無いと聞く。我らで代わりに人の世を賑わせにゆこうではないか」

走る災害とまいごの竜

「ここは分かりやすいよね!

ある日、みっつは言いました。
「来週ハロークラスターがないので、ハロー宇宙災害やってください」
(原文ママ, LINEより引用)


っていうことだよね。」

 

災害は言いました。
「我々の集いの日とも重なっているな。面白い。やろうではないか」

走る災害とまいごの竜

「ここもそのまま直訳でOKだよ。

宇宙災害は言いました。
「開会式の後ハロー宇宙災害ちゃんやりますか笑」
(原文ママ, LINEより引用)

※開会式=2022年 5月3~5日に第一回が開催された「宇宙災害ちゃんJAM」
という名の制作合宿の開会式。第一回 宇宙災害ちゃんJAM で宇宙災害は筋トレワールドを、みっつはアバターマーケット用にドローンアバターを制作した。
尚、来る2022年の暮れに第三回となるJAMが開催される予定である。


本当にそのまんまだね。」

 

さてさて、時は進んで集いの日です。
見知らぬ土地に居を構え、腹を空かせた一匹と一度は、
家来の者に食事を運ばせる間、戯れに出かけることにしました。

走る災害とまいごの竜

「ここも登場人物の心理を読み解けば、君たちの実力だったら一発じゃないかな?

諸々の手続きを済ませ、合宿当日。
エアビーで予約した神奈川県某所の民泊にて、持ち込んだ機材のセットアップを済ませ、イベントの準備も大方終了。
お腹が鳴ったので、ウーバーイーツにてケンタッキーのバケツを注文。
届くまでの間しばらく時間があるので、散歩がてら、生活に必要な備品の買い出しに行くことにしました。


これくらいで全然大丈夫だよ。減点されることがない、無難な訳文を目指そうね。」


戯れの途中、薬師の営む商店にて、
「すまぬが寄るところがある。先にゆけ。案ずるな。道など我の頭に入っておらぬわけがなかろう」
竜はそう言い残し、立ち去りました。
そしてそのまま竜は、その土地の神に隠されてしまうのです。

走る災害とまいごの竜

「どんどん行くよ。

ドラッグストアにて、
「ごめんやっぱパジャマ買いたいけん、来るとき見かけたスーパー見てから帰るね。スマホ宿に置いてきたけど、まあ道分かるよ。念のためGoogleMap1回見せて~。あー今ここで、家がここね。OKOK!」

そう言い残してみっつは宇宙災害のもとを立ち去りました。
そしてみっつは迷子になってしまうのです。

こうだね。ここはちょっと補足が必要だよね。
実は、彼らが借りた宿の通信機器が非常に弱くて、みっつのスマートフォンは持ち込んだ機材のデザリングに使うためにPCにつながっていたんだ。
通信を途絶えさせるわけにはいかなかったから、持ち出せなかったんだね。」

 

自らが隠されていることも知らぬ竜は、意気揚々と用を済ませ、住処へと向かいます。
まずはこの坂を上る方へ右手へ。
次にこの特別な模様の建物を右へ曲がる。
丁の字、三叉路、時に五叉路、記憶を頼りに選ぶ竜。
そろそろ帰りつくはずだと、そう思った頃には既に遅いものです。
来た道を振り返ってみても、見覚えのない建物ばかり。
元居た場所はどちらであろうか。
日は傾き、空気は冷える。催しの時間も近い。
ここで竜はひらめきます。
「この土地の者に訊くのが早かろう」

走る災害とまいごの竜

「ここも読む分には難しくないんじゃないかな?

スーパーへ寄り、パジャマが売ってないと知るや踵を返して宿へ戻ろうとするみっつ。
坂を上る方へ右折、目印にしていた建物をさらに右折。
T字路はこっち、三叉路はたぶんこっち、五叉路なんてあったっけ?
そうこうしているうちに完全に道に迷ってしまいました。
もはや来た道がどちらかもわからない。
長くなってきたとはいえ、そろそろ日も沈むし、肌寒くなってきた。
イベントの開始時刻も近い。
みっつは思いつきました。
「現地の人たちに訊こう」

気が付いたかな。この文書は竜の目線で書かれたものなんだよ。
実は別に、災害の目線で描写されたものもあるんだけど、それはなかなか入手が困難でね。僕はそれを読んだことがあるから、ここからはその内容も補いながら話していくね。

ともあれ、ここからの竜は見ものだよ。
みんなはまねをしないようにね。」

 

まずはあの万屋だ。
竜は駆け込み、店番の娘に言いました。
「我を住処へ帰すのだ。地図を持ってこい。ここはなんという地だ」
分かったことは、どうやらずいぶんと遠くに来てしまったということ。
そして、自分の帰るべき場所がどこなのか、地図を見ても皆目見当がつかなくなってしまったことでした。

走る災害とまいごの竜

セブンイレブンがある。
気が付いたみっつは店に駆け込み、申し訳なさそうに事情を説明する。
店員さんはしぶしぶスマートフォンを持ち出し、現在地と、先ほどまでこの不審者がいたであろうドラッグストアの位置を教えてくれました。
みっつは地図を見ても全く分かりませんでした。どうやってここに来たのかも、自分の宿がどこなのかも。

「こんな感じだね。
ちなみに別の記録によると、このくらいの頃には届いていたケンタッキーも到着していたみたいだよ。
宇宙災害はそれを食べるのを我慢してたみたいだけど、実はお腹を空かせていたみっつは、このセブンイレブンでななチキを買って呑気に食べてたんだよね。」

 

そうだ、人の世は便利なものよ。今の彼らは電波に和歌を乗せ思いを共有し合うと聞くぞ。それを使おうではないか。
「すまぬが、旅の者よ、我のこの思いを代わりに空に飛ばして届けてくれまいか」
送った歌に返事は返らず、旅の一行は立ち去ってゆきました。

走る災害とまいごの竜

そうだ、Twitterがあるじゃないか。これを使わないわけはない。向こうから人が歩いてくるな、助けを求めてみよう。

「すみません!めっちゃ怪しいものだって僕も分かるんですけど、Twitterってやってますか?」

道行く父「何だあんた」

夜食帰りの家族連れでした。
娘二人と妻を守るように身を乗り出した父親に事情を説明し、なぜか意気投合するみっつ。

道行く父「そういうことか、いいよ。うちの娘がやってるよ、ほらケータイかしてみ」

「ありがとうございます!じゃあ”宇宙災害”っていうアカウント、探してもらっていいですか?」

かくしてダイレクトメッセージを送信し、今いるセブンイレブンの位置を送信することができたのでした。
しかし待てども待てども既読はつかず、一家もさすがに帰ってしまいました。

「と、こんな感じかな。
ちなみにこのくらいの時間に、宇宙災害の方では、ドラッグストアまでの道を何往復も走り回ったり、大声で叫びながら探していたりしたそうだよ。
そして肝心のTwitterのDMの通知は、切っちゃってたんだとさ。

ちなみにここでみっつは、娘さんにclusterをインストールしてもらってるんだ。イベントに合流すれば、意思疎通ができると思ったんだね。
でもそこで気が付くんだ。
自分がイベントの開始時刻を間違えていたことに。
つまり、わざわざ気を遣って急いで寄り道を済ませなくても、二人でスーパーにゆっくり立ち寄ってから帰っていても、何も問題なかったんだね。」

 

この地に居ることを伝えることはできたものの、ここから動けなくなってしまったぞ。この場でやれることをするのみだ。
我は竜。
咲かせてみせよう、たとえ独り見知らぬ土地に置かれても。
そうして、万屋の前を人が過ぎる度に声をかけ続ける悲しい竜が誕生したのでした。

走る災害とまいごの竜

現在地を伝えれたけど、これでもしここを離れてすれ違っちゃったらもうおしまいだ。あまり動き回るのも疲れるし、ここで通り過ぎる人を頼ろう。
最悪、1時間後にはイベントも始まる。その時にまた何とかなるだろう。
そう思ったみっつは、一応、道行く人たちに声をかけ続けました。

道行く老夫婦を見つけては、
「電話を貸してもらえませんか?迷子なんです」

カップルを見つけては
「迷子です。これ置いてきた僕の携帯番号なんですが、ちょっとここに電話をかけてもらえませんか?」

青年、おじさん、その他にも様々な人に声をかけ、時に優しい言葉と協力を、時に疑心や無関心の振る舞いを受けながら、自らの犯した失敗のなんと阿呆らしいことかを味わってゆくのでした。

 

「こんな感じの内容が書かれているよ。
 
ちなみに、このくらいの時間になると、宇宙災害の方も少しあきらめていて、同時に21時に始まるイベントの方へと意識を向けているようだね。偉いね。」

 

 

「帰る術は、見つかりましたか」
途方に暮れる竜のもとに声をかける、一組の男女と一匹の犬がいました。
「いいえ、まだです。しかし、祭りごとの場へ意識を繋ぐことができれば、私は翼を得ることができるでしょう」
その言葉を聞いた男は交信をはじめ、女はアイスを舐め、犬は口を大きく開けて座っていました。

走る災害とまいごの竜

男性「連絡つきました?」

みっつの後ろから声をかけたのは、先ほど電話を貸してくれたカップルの青年でした。犬の散歩がてら、様子を見に戻ってきてくれたそうでした。

「なんか、clusterっていうアプリがあるんですけど、それをもしインストールしてもらえたら、僕帰れると思うんですよね・・・」

男性「いいですよ」

そういうわけで、アプリをダウンロードし、初期のアバターで、なぜか参加者多数、大賑わいの件のイベント「Hello宇宙災害ちゃん」へ突撃することができたのです。

「とまあこんな感じだよね。原著だと色々と描写が省かれてるから想像で補う必要があるんだけど、もうこのころにはあたりは真っ暗。気温もかなり下がってきてるんだよね。
心細いよね。でもそれが人の温かみとの対比になっているんだよね。ここまで想像できたみんなは偉いよ!」

 

 

竜「文を見よ」
災害「承知した」
二人には、それだけで十分でした。

人の世に存在する交信の術、そして人と人とを繋ぐ催しの場。
これらにより救われた一匹の竜と一度の災害はその後、星が滅ぶまで人々を見守り影から助け、時に賑わせながら仲良く暮らしましたとさ。

おしまい。

走る災害とまいごの竜

「みっつです。DM見てください」
名も知らぬ初期アバターからのチャットに、会場がざわついたのが、音量0の端末からでもわかりました。
そして、にぎわう会場を参加者に託し、宇宙災害は山を駆けのぼりみっつと合流することができたのでした。

通信機器の発展、そしてclusterのイベント機能、自らを省みず目的のために不審者にもなることができるみっつの勇気、共催者不在でも平然とイベントを決行する宇宙災害の度胸とショーマンシップにより、この件は警察沙汰にならずに済みました。
この件でなぜか迷子の人認定されたみっつと、この頃からメタバースで3点クシャクシャ筋トレをしている宇宙災害は、これからもなにか人々に笑顔になってもらえることをしていきたいと思っています。楽しみにしていてください。

おしまい。


「と、いう感じだね。おつかれさまでした。
結構なボリュームだったと思うけど、ついてきてくれてありがとう。
僕も大好きな話だったから、今日皆と一緒にこの話を読めて楽しかったよ。そうそう、これは史実をもとにして作られた話などではなく、まるっきりの実話なんだよ。もっともっとおおごとになった方が、話としては面白いのかもしれないけど、そういうちょっと物足りない所もリアルだよね。まぁ、その点も、この作品の魅力なんだけどね」
 

 

 

教訓


先生「こうして読み返してみると、いくつか教訓があるよね。まとめてみようか。」

① 見知らぬ土地で出かけるときは、連絡手段および地図かそれに準ずるものを身に着けること
② やむを得ず上記を持たない場合は、必ず一人にならないこと
③ 迷子になる可能性がある際には、その数時間後にclusterイベントを複数人で開催予定にしておくこと
④ たとえ見知らぬ人に対してでも、対話を心掛け、協力を仰ぐこと
⑤ 他人は思いのほか優しいこと

先生「これ、この話を知った人は、大事にしていこうね」
 
 

その後の話

 
先生「実はこの話には後日談があるよ。


「お財布とスマホ、どちらも持って行かず出かけることはないだろう」
ということで、合流を果たした日の夜、竜と災害は互いの連絡先を書いた紙を互いの財布にしまったよ。

『この策も失敗して迷子になったら次は電話番号のタトゥーを掘る』
という縛り付きで。

 

もう一つの後日談。
2022年の夏。第二回の宇宙災害ちゃんJAMにて、この迷子の件についての説明責任が果たされたよ。
宇宙災害からの目線での解説はここでされたんだ。僕はその時の記録を見たことがあるから、この話に少し詳しいってわけさ。

その資料の中に、歌が残っていてね、その歌詞を最後に紹介するよ。
以下だよ。
ぜひ、原曲を聴きながら、眺めてほしいな。」

 

『迷子の歌』 
作詞 / 宇宙災害
歌 / 宇宙災害とみっつ
 

 原曲
ハンバート ハンバート『おなじ話』

 
 

原曲はこちらの公式動画から聴いてください
(一応断っておきますが、宇宙災害もみっつも共にハンバートハンバートさんの大ファンです。作品を貶める意図は全くございません)

 

 

『キーンコーンカーンコーン』

先生「お、ちょうど時間だね。じゃあ、今日の授業は終わり。また面白いお話があったら、持ってくるから楽しみにしておいてね」

 

学級委員長「きりーつ、きをつけー、れー」
 
 

以上です

 
この記事を書いて、筆を置き、竜は思ったのでした。
 
 
我々は皆、身近な者の人生に彩りを与え合って生活している。
 
一の者が他者に与えられる物。
それは、その者から、その時にのみ生まれうる価値である。

また別の者には、全く異なる色鮮やかな価値があり、それもまた、時とともに移りゆくものである。
 
 
そうした数多の個が重なり合うキャンバスのような場所が存在していることこそが、尊いものなのではなかろうかと。
 
 
時に強く輝く者がいて、時同じくして傷つき色を失った者もいて、薄れていったり、また濃縮されたり、誰も元々の色を思い出せなくなっていったりしながら、ともに百の物語を作っていけたらいいなと。
それを笑いながら振り返れる時が来れば、それは幸せなことなのではないかと、竜は思ったのでした。


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