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シリーズものを楽しむ その1


本でも映画でもドラマでも、シリーズになっている=人気があるってことだと思う。中には、デビュー作品からいきなりシリーズものを意識して書かれた本もある。例えば今村昌弘さんの『屍人荘の殺人』。主要人物のキャラクターがしっかり描かれていて魅力的で、1作で終わるのは勿体ないなぁと思う。また作中で出てきた謎が解き明かされないままだったりするので、これは続編があるな、と読者は気付く。シリーズものの良いところは、長い時間尺で物語が展開するので例えば登場人物同士の関係性がどんどん変化していったり、主人公の成長を見守ることが楽しかったり。何より長く読んでいれば情のようなものも生まれて、最後まで見届けないとと思ってしまう。


宮部みゆき/百物語シリーズ

江戸で人気の袋物屋・三島屋で行われている〈変わり百物語〉。
「語って語り捨て、聞いて聞き捨て」をルールに黒白の間と名付けられた座敷を訪れた客が、聞き手だけに胸にしまってきた怖い話や不思議な話を語っていく連作短編集。(公式特設サイトより)

時代小説。2006年の“事始”から現在第6弾まで刊行。
主人公は三島屋に預けられている娘・おちか。過去の悲しい事件により心に傷を持つ。

おちかは店主の身内として習い事に励むよりも、女中として忙しく働くことで自らの過去を頭の隅へと追いやろうとしていた。ある日、叔父の伊兵衛が急な所用のため、訪問が予定されていた客への対応をおちかに任せて外出してしまう。他人に心を閉ざしているおちかは不安に駆られるが、自分を信用してくれた叔父のためにも、客に非礼があってはならないと覚悟を決める。客は、おちかに対して自分の過去にまつわる怪をぽつり、ぽつりと話す。おちかから事の顛末を聞いた伊兵衛は、江戸中から不思議な話を集め、おちかにその聞き役を務めるよう言い渡すのだった。(Wikipediaより)


こうして始まった「三島屋変調百物語」は評判を呼び次から次へと客が訪ねてくるようになる。

百物語というのだから、今風に言えばホラーだ。建物や土地にまつわる怪、人の怨念、物にまつわる怪、化け物の話、‥短編集なので1冊に4話、5話といろいろなジャンルの話が収録されている。ホラー映画は苦手な私だが、このシリーズは大好きで新作の刊行を待ちわびている。

第5弾で、おちかはお嫁に行き三島屋を去ったので、百物語の聞き手がおちかから、三島屋の次男(小旦那)富次郎にバトンタッチされた。主人公が途中で替わるシリーズ物は私が知るかぎり珍しい。番外編とかならともかく、本シリーズはまだまだ続きそうだ。また、おちかの“恋”にも注目したい。シリーズ当初、おちかには心寄せる人がいたのだが、その人はお家存続のために親の勧める人と結婚してしまった。そのあとにおちかの前に現れたのが、のちに結婚相手となる、貸本屋「瓢箪古堂」の若旦那・勘一だった。


ホラー小説あるいはホラー映画には、そういう事(怪異)に明るい(詳しい)人が出てくることが多い。例えば怪談話、言い伝えや伝承に詳しい人とか、曰く付きの物の蒐集家とか。そういう人の登場は安心をもたらす。その人が何かしら解決の糸口を見つけてくれそうな気がするし、守ってくれそうな気にもなる。

本シリーズでのその役回りは、おちかの旦那さん・勘一その人だ。
骨董屋さんには曰く付きと言われる物が持ち込まれる事があって、骨董屋さんは案外そういう事に詳しい人だったりするのだが、貸本屋も同じような事があるらしい。主人公がおちかから富次郎にバトンタッチされた新シリーズとも言える第6弾で、勘一は早速富次郎から頼りにされている。また勘一自身も百物語の語り手だった。


百物語一つ一つは短くて読みやすい。ジャンルもいろいろで飽きない。めちゃくちゃ怖い話もあるが、心温まる話もある。そして何より、登場人物がとても良い。おちか、勘一、富次郎、気さくな主人夫婦に、頼り甲斐のある奉公人たち。物語の語り手を紹介する口入屋の灯庵老人。


特に勘一には何やらおちかにも言えない秘密(自分の寿命に関わること)があるようだ。富次郎の聞き手としての成長も見守りたい。

だからまだまだ続いて欲しいシリーズだ。新刊が待ち遠しい。



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