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朝ドラというジャンル

NHKの朝の連続テレビ小説。通称朝ドラ。毎日15分、実は私はまだ1本も観たことがない。所々は観たことはあっても半年通して全部観たことがないのだ。大河ドラマが所謂歴史上の人物の一代記なら、朝ドラは明治時代以降の何かしらを成し遂げた人物の一代記だ。実在人物をモデルにしたものが多いが、中にはフィクションもある。

朝のまあまあ忙しい時間にたった15分のドラマ。しかしなかなか観れないという人は多いと思う。週末に1週間分まとめて放送されたりもしているが、普通のドラマが3ヵ月クールに対して朝ドラは6ヵ月。正直なかなか手が出ない。

さて、言い訳はこれくらいにして。

以前「大河ドラマを1年間観たぐらいの一代記」をおススメしたが、さて今日は「これって朝ドラに丁度良いんじゃない?」と思う小説のご紹介をしていきたい。

みかづき/森絵都

タイトルの意味「三日月は欠けているから満ちようと努力する」

既にNHKでドラマ化済みではあるが、全5回くらいの短いもので、私的にはちょっと物足りなかった。学習塾を経営している夫婦のお話。時代と共に学習塾のポジションや概念が変わっていき、自分が正しいと思っていたことが時代や生徒たちに受け入れられない葛藤、そして夫婦間の考え方の違い。学校教育との差別化、塾の乱立、生徒の取り合い‥。苦難に立ち向かいながら新しい塾の在り方を模索していく姿はなかなか波乱万丈だ。

【みどころ】作中に出てくる「津田沼塾戦争」は実話。主人公夫婦、その子どもたち、そして孫へ、3代に渡って教育に携わった一家の歴史に、時代とともに変わっていった日本の教育の変遷をみる。

線は、僕を描く/砥上裕将

今年の本屋大賞第3位。バイト先の展示会場でたまたま出会った老人に見初められ水墨画家の道を歩み出す大学生が主人公。その老人こそ日本の水墨画界の大家だった。何も分からないままに描いていくうちに水墨画の魅力に目覚めていく成長記。普段接する機会の少ない水墨画。彩色しない白黒の世界は油絵や水彩画に比べると一見地味に思えるが、墨の摺り方、筆の運び方で線に強弱、濃淡を付けることでそこに色が見えてくる。最初のひと筆から止めることなく一気に描きあげる。目の前にある一瞬の風景は次の瞬間にはもう違う風景に変わるから、速さが必要。技だけでは人の心に響く画は描けない。線で自然を、命を描くという水墨画の世界に魅了される作品だ。

【みどころ】作者の砥上さん自身水墨画家さんなので、水墨画の魅力満載、作品を観にいきたくなる。登場人物のキャラ設定が絶妙。水墨画の大家、その内弟子たち、大家の孫、主人公とその友人たち。役に似合いそうな俳優さんがすぐに思い浮かぶ。

美しき愚かものたちのタブロー/原田マハ

この物語は史実に基づくフィクションです”。上野『国立西洋美術館』設立に尽力した人々のお話。日本に本格的な西洋美術館を作るという夢のために奔走した松方幸次郎が財を尽くして集めた”松方コレクション”。戦争によりフランス政府にとりあげられたこの一大コレクションを返還してもらえるのか。”松方コレクション”の数奇な運命と、松方氏の遺志を継ぐ人々の波乱万丈なストーリー。ちなみに国立西洋美術館の開館は1959年6月10日。

【みどころ】タイトルは、1920〜30年代に登場した古典的ではない近代美術(マネ、モネ、ルノワール、ドガ、セザンヌ、ゴッホ、ゴーギャン等)に対して「タブローのなんたるかを知らぬ愚かものたちの落書き」と批評家たちが揶揄していたことから。原田さんの作品は史実とフィクションの融合が素晴らしい。登場する絵画を観たくなる。

以前中島みゆきさんが「マッサン」の主題歌を歌われていたが、主題歌を作るだけのためにNHKさんから膨大な量の資料が届き、またオープニング映像が先にありきで、始まってから何十秒後にサビにいく、など細かいルールの中での曲作りの苦労話をされていた。
きっと15分という尺をどう使うか、緻密な計算がなされているのだろう。

NHKの朝ドラは、”朝ドラ”というジャンルだと思うのだ。そこで描かれるのはまだ今は歴史上の有名人ではないが、新しい事に挑戦する市井の人々であり、幾多の苦難にぶつかりながらも諦めない、その姿は見ている私たちを毎朝清々しい気持ちにさせてくれる。人生の応援歌、それが朝ドラだ。

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