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ある男からの電話(要塞的日記番外編)

夕方、友人からスマホに着信があったことに気づく。


履歴は昼の十二時過ぎを表示しており、普段はない珍しい出来事に首をひねる。
友人同士で電話を掛け合う習慣はない。
遊びや飲みに行ったりということも、もっぱらSNSを利用したやり取りが常だ。
それも仕事の終わる夕刻ごろ、「今日飲みに行けるか?」「いいよ」という二言、三言で終わるものであり、真昼間にそうしたやり取りをすることはほとんどない。
まして、ここ数か月はコロナ禍があるので友人同士の飲み会は一切行っていなかった。
単に昼間に友人から電話がかかってきていたということでも、実はそれなりに大事なのだ。
何かあったかと、すぐさまその場でかけなおしてみるが応答はない。
秋が近くなってきたとはいえいやな暑さが残る。
だらだらとした時間、夕飯を食べるのも面倒で冷蔵庫に残っていた焼きそばの袋麺を適当な野菜とフライパンで炒め、ぼそぼそと口の中に入れながら冷えた麦茶で流し込む。
折り返しの電話は、まだない。


日時が変わりそうな深夜、煙草を切らしたことにどうにも具合の悪さを覚えてコンビニに買いに出た道すがら、もう一度電話を掛けると繋がった。
場の空気を換えると繋がる、ギャンブルのような電話。


「よう、お疲れ。昼間に電話かけてきたみたいだけど、どうした?」
「あ~、ようよう。いやあなあ、まずはお前に報告しておこうと思ってなあ」


この歯切れの悪い喋り方にあわせて何か報告があるという事は同じ独身同士、いきなり結婚はないだろうが彼女でもできたのだろうと悪い内容ではなさそうなことに半ば安堵する。
身近な人間の幸せを喜べない程のしようもない了見は持っていないので、祝いの一言でも言ってやろうかという腹積もりで話をせかしたのだが、どうにも雲行きが怪しい。


「なんだよ、もったいぶるな。いいことでもあったか?」
「それが昼間、病院に行ってきてな」

病院、嫌なフレーズだ。
父親を癌で亡くしてからは他人の体調にはかなり神経質になっている。

「どうした?どこか・・・」
「ひき逃げされた。いや、当て逃げか?」
「は?事故・・・なんだよ事故か。はっ、あはははははっ」

一瞬でも病気なんじゃないかと不安のよぎった自分が可笑しくなる。
すれ違ったスーツを着た男の怪訝な視線。
事故にあったという報告に気がふれたように笑う倒錯。
しかしそれはそうなるのだ。
なにせこの男、ここ十年の付き合いで事故に合うのはこれで三度目になる。
そして電話を掛けてきているという事は、結局いつも通りにぴんぴんして笑い話にしにきたということなのだ。


そうです。メンマ君、また事故にあいました。

ちょっと怪我しましたが本人はいたって無事です(念のため)
続きは配信をやった時にでも

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