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ぼくらの夢を乗せて〜スリーロールス〜

菊花賞馬にフロックなし」とは関西競馬実況の神様と呼ばれた杉本清氏の弁ですが、実際に古今菊花賞馬はGIを多数取るような馬が多いように思います。

しかし、私が最も記憶に残っている菊花賞馬は、確かな力を持っていながらも菊花賞の後にGIを取ることは叶わなかった、「サイレンススズカの仇を討てたかもしれない未完の大器」と心に大きな爪痕を残した馬でした。



スリーロールス
父:ダンスインザダーク
母:スリーローマン(母父:ブライアンズタイム)
生涯戦績12戦4勝
獲得賞金187,955,000円

 過去2年に社台のサンデーを見ていた意地悪爺さんたちが大損こいたラムタラや、今をときめく大種牡馬アグネスタキオンを付けたそして見事にコケたスリーローマンの子として産まれたその馬は、牧場長の兄である武宏平の厩舎に預けられました。永井オーナーは預託厩舎によって「スズカ」「スリー」「サンレイ」「ミスズ」など冠名を変えることで知られていますが、武厩舎の馬には「スリー」が使用され、スリーロールスと名付けられました。

武宏平厩舎は、永井啓弐オーナーの弟である故・康郎オーナー所有のメルシータカオーメルシーエイタイムで障害GIを勝ったことはありましたが、平地GIは未勝利でした。

武調教師から目をかけられて育てられたスリーロールスは、菊花賞をメインに控えた2008年10月26日の京都でデビュー。当然有力騎手が揃うこの日の新馬戦は世代の列強候補が集まるわけですが、

後に史上最強牝馬の一角となるブエナビスタ

ダービー馬フサイチコンコルドを兄に持ち、自身も後に皐月賞馬となるアンライバルド

何度も怪我に泣かされ。GI未勝利ながらも善戦マンとして存在感を放つリーチザクラウン


このレースは昨今よく語られる「伝説の新馬戦」の先駆けとも呼べるレースでした。

スリーロールスは新馬戦で上記の3頭にこそ勝てなかったものの4着に粘り、3戦目で未勝利を突破。

3歳の春はようやく減量騎手から卒業した浜中俊を乗せ、そんな素人を主戦にするもんだから重賞は良いところ無し。

一緒にデビューしたブエナビスタの二冠アンライバルドの皐月賞制覇リーチザクラウンのダービー2着をはるか遠くに眺めながら、とりあえず500万下(今でいう一勝クラス)を勝って夏を迎えました。

世間が夏休みを満喫している8月、ひと足早く夏休みを終えたスリーロールスは2ヶ月かけて条件戦を突破。クラシック最後の冠、菊花賞へと駒を進めます

__武宏平にとって菊花賞は因縁のレースでもありました。。武調教師がもっとも菊花賞制覇に近づいたのは、1984年。彼が管理していたゴールドウェイは、前を走る馬を猛然と追い込みましたが、とうとう捉え切る事ができずに2着。

その時とうとう勝てなかった相手の名は「シンボリルドルフ」

ご存知、競馬ファンでその名を知らない者はいない、史上初の無敗の三冠馬です。今この話を聞いても「相手が悪かった」としか言えないでしょう。


運良く抽選を突破して菊花賞出走が叶ったスリーロールス

そこには1年前一緒にデビューしたリーチザクラウンアンライバルドが待っていました。

更に神戸新聞杯をコースレコードで勝利したイコピコ

後に宝塚記念でブエナビスタを下し、凱旋門でエルコンドルパサーに並ぶ不滅の記録を打ち立てるナカヤマフェスタ

単勝一桁代の四強がクラシック最後の一冠を狙う中、スリーロールスは8番人気。


レースが始まると、スリーロールスはスタートダッシュを決めて馬なりに走っていきます。

大逃げするリーチザクラウン。このレースが秋天で、乗ってるのが武豊ならスリーロールスも大逃げをしたかもしれませんが、菊花賞でそんな無茶ができるような馬ではありませんあれ?今逃げてるの武豊じゃね?

ハイペースでレースが流れる中、第3コーナー〜第4コーナーで一気に距離を詰めてくる後続勢。スリーロールスは同時に動いたヤマニンウイスカーを競り落とすと、単騎逃げ粘るリーチザクラウンに挑みます。

あれだけの大逃げを打ちながら、さらに二の脚を使うリーチザクラウン

しかし、残り100mでついにリーチザクラウンは失速し、2番手を競り合っていたスリーロールスとフォゲッタブルがワンツーフィニッシュ。ついでに3着にGI馬だってことも忘れられてた朝日杯王者セイウンワンダー。

シンボリルドルフに負けてから実に24年。ついに武宏平は平地でのGIを手にしました。

そしてこれは新人だった浜中や、武調教師にはもちろん、永井オーナーにとっても初となるクラシックタイトルの戴冠となりました。

その後、活躍を期待されたスリーロールスですが有馬記念で故障。サイレンススズカの悪夢が脳裏を過ったのか、泣きながら検量室に向かう浜中でしたが、辛うじて安楽死処分は回避し、競走能力喪失でそのまま引退となりました。

先日の秋天でパンサラッサの大逃げを見て、「サイレンススズカの夢の続きが見れた。」と言っていた方が多くいらっしゃりやがって、ぼくは「サイレンススズカはあのペースの2000なら止まらないし、イクイノックス程度に差し切られるわけねぇだろ。頑張ってもツインターボ止まりだ。一緒にすんな。」と解釈違いで憤死していましたが勝負服こそ違えど、スリーロールスはスズカマンボに続き、「もしかしたらサイレンススズカの仇を討てたかもしれない馬」として、その未来を夢想した方も多かったのではないでしょうか。

永井オーナーのサンレイポケットにひとつくらいGI取って欲しかったのですが、全盛期でも粗品のせいであと一歩及ばないレースが続き、そろそろ年齢的にも厳しいでしょうか。

永井オーナーならあれくらいの成績があればサンレイポケットも種牡馬になさるのではないかと思っているので、サンレイポケット産駒にもう一度夢を見たいものです。


それではみなさん。ホースと共にあらんことを。

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