#1 勇者、今日から営業マンになります 5


守「勇者、今からあんたに起こっていることを説明する。この画面…いや、絵を見ててくれ」
そういうと、守はゲームの中の真実を動かして、町を出た。~♪音楽が少し緊張感のあるBGMに変わる。このゲームは、RPGで、ドラガオンという悪の魔王が突如現れ、世界が恐怖に染められ、世界をまとめていた王の娘である王女がさらわれてしまう、というところから物語は始まる。そんな中、ある人間が勇者としての使命を持って生まれる。彼は、世界を一緒に救ってくれる仲間を増やして魔王に立ち向かっていく。王道のRPGといえるだろう。

守が方向キーを動かして、モンスターとの戦闘をしようとしたとき、右を動かしても実際にゲーム内の真実が動くのにラグがあることに気づいた。
守「…?」
古いゲーム機だからか?と守は考えたが、歩いて数歩で急に画面が変わり、モンスターが現れた。~♪またBGMが変化する。敵はラージスライムが3体。防御力は高いが、攻撃力は強くないから、余裕で倒せるだろう。
守「真実、じゃあいくぞ」

守は、冷静に真実や他のキャラクターのコマンドを選択していく。真実が入れ替わっている勇者は、MP(マジックパワー)が0の魔法が使えないタイプの勇者だ。そのため、守は迷わず「攻撃する」を選択した。
他のキャラクターの攻撃の後、真実のターンになる。しかし、ゲーム画面に「しんじの攻撃はあたらなかった!」と文字が表示された。

真実「(まじかよまじかよまじかよ。俺が敵とバトル!?ラージスライムって、終盤に出てくるスライムの中では1,2番に強いモンスターだけど、全く苦戦したことなんてないのに。生でみると、こんなにでかいのかよ・・・!?)」
初めて生でみるラージスライムに、真実のひざががくがくと笑いだす。ひざが笑いすぎて、ガチャガチャと鎧が音を立てるほどに。

一番素早さが高いキャラクターが魔法攻撃を繰り出す。見事に命中して、ラージスライムを1体倒した。爆音がすごい。真実「(逃げ出したい。逃げ出したい!!)」真実は、後ずさりしかけたが、次の瞬間、真実の意識とは反対に体がラージスライムに向けて走り出した。
真実「!?」
ひざは相変わらずがくがくいっているから、今にもこけそうな状態だ。しかし、真実は1体のラージスライムに向かって剣を振り上げた。
真実「(やばい、当たる!!自分で攻撃するってなると、こんなに怖いなんて!)」
思わず目をつぶってしまい、振りかざした剣はラージスライムには当たらず、空を切った。真実の体勢が崩れる。なんとか体勢を立て直すと、そのまま攻撃前の位置へ、体が勝手に動いていった。

守「外してんじゃねーよ!」
脳内で守の声が聞こえてくる。
真実「お前にはわからねーだろ!!俺の怖さはぁああああああ!!」
震える声で上に向かって叫ぶけど、どうせあいつには届いてない。
スフ「ちょっと~、またしんじが変な感じなんだけど」
真実が脳内の守に向かって怒鳴ったものだから、理由を知らない仲間たちは俺の変な行動に首をかしげる。それでも、守の入力したコマンドにしたがって、それぞれ攻撃を繰り出していく。

次のコマンドを入力し、再度真実のパターンがやってきた。結果は同じく、真実は攻撃を当てることができなかった。そうこうする間に、ラージスライムは全て倒され、戦闘が終了した。

経験値と、いくらかのお金が手に入った。
守「とりあえず…こんなもんか」
守は勇者の顔を見て、質問をする。
守「今のモンスター、見覚えあった?」
勇者「多分…ラージスライムかな。何度か戦ったことがある。」
守「あぁ。他にはなんかわかったことある?」
勇者「…。僕に似た人以外のメンバー…僕の仲間たちにそっくりの服や髪をしていた。呪文の名前とかも、同じだった」
守「そう。さっきラージスライムに攻撃をしていた奴らは、そっくりなんかじゃなくて、本当にあんたの仲間たちなんだ。」
勇者「…?」


自分の今までいた世界と似たような世界が、ゲームの中にも存在している。ということまではわかっても、それが自分の世界ということは、なかなか勇者には理解できないようだった。無理もない。「ゲーム」という概念すら、彼らの世界にはないのだから。
守「…俺もなんか混乱してきた。悪い、とりあえず一旦あいつと…さっき会話してた奴と話をさせてくれ」
守はそういうと、町に戻って先ほどのオンライン通信ができる場所に戻った。

真実「おい、俺を殺す気かよ!?戦闘で攻撃なんて、最初からできるわけないだろ」
部屋に入るなり、真実が怒り出した。
守「わかんねえよ。お前と違ってこっちは普通にゲームしてる感じなんだから。恐怖とか感じんの?」
真実「いやーまじでこえーよ。VRやったことある?あれよりはるかにリアル。ラージスライムのぷよぷよ感とか、すごい感じた。てかあいつらでかすぎ。威圧感あったわ」
守「へ~、そんなにリアルに感じんのか。まさにゲームに入ったって感じなわけね。」
真実「お前…俺の気持ちも知らないで…」
守「っつーことは、2回攻撃外したのも、偶然じゃないってこと?」
真実「ぐっ…体が勝手に動いたけど、いざとなったら怖くて目をつぶっちまった。さすがに戦闘は無理だ。」
守「ふーん…俺が攻撃コマンドを選択したからか。それには逆らえないのか?」
真実「多分。怖くて固まってたけど、自分のターンが来たらやっぱり勝手に体が動くんだ。コマンドによって、攻撃するっていう行動自体は決められているからみたいだ。そこは、ゲームのシステムが反映されるっぽい…。」
守「なるほど…」

少しずつ、いろいろなことがわかってきた。
オンライン通信の場所以外は、俺(守)や勇者の声は真実以外には聞こえない。真実は聞こえるが脳内に話しかけられる感じで、真実から言葉で意思疎通はできない。しかし、ほんの少しなら、真実の意思がプレイヤーの操作に影響を与えることもあるらしい。モンスターと戦う前に少し操作が悪くラグがあるように生じた理由。あれは、ゲーム機の問題じゃなく、初めての町の外、モンスターとの闘いにびびりまくった真実が、行きたくねぇええ!と必死で抵抗していたかららしい。まぁでも、結局プレイヤーの操作は絶対なので、多少抵抗しても結局はプレイヤーの想像通りに動くしかないというわけだ。あれからモンスターとの戦闘も複数こなし、ようやく真実も戦闘に慣れてきたころだった。真実の攻撃も当たるようになってきた。ちなみに、剣で攻撃したときは切るというより衝撃を与えた、という感じの感覚らしく、血も出ないし思ったよりグロくないからいける!!とのことである(真実談)

そして、勇者は勇者で、少しずつ今の状況を理解してきたようだった。自分が今いる世界が今まで自分が生きてきた世界とは違う世界であること、俺(守)が話している箱の中の絵の人物(ゲーム機の中の真実のこと)たちがいる世界が、勇者の本当の世界だということ。しかしゲームの中の世界、ということはやはり理解が難しいらしく、ゲーム機はこの世界とあっちの世界をつなぐ媒体、という感覚で理解したらしい。

守「(さて、勇者にいろいろなモンスターを見せるためにしてきた戦闘だったし、そろそろ引き上げるか。)」
しかし、後町まで一歩というところで、モンスターとの戦闘になってしまった。しかも、油断していたため、HPが結構みんな少ない。
守「(なんとかなるか…?)」
コマンドを選んでいく。真実は攻撃、回復ができるキャラクターは回復…。
守「(あーでも、回復キャラが死んだら困るな…)」
全てのコマンドを終了し、すばやさの順に味方と敵がほぼ交互のように攻撃をしあっていく。
しかし、運悪く敵の攻撃がすべて真実に行ってしまい、真実が瀕死になってしまった。
そのタイミングで、回復キャラが自分を回復する。そして次の瞬間。
ザシュッ
守「あっやべ」
真実「ぎゃあああああああああ」
しんじ、死す。
生き返らすことのできる回復キャラを殺さないよう最優先した結果、他の仲間を見殺しにしちゃうことって、あるよね。あるある。真実、ごめんな。

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