2.電圧と電位
本節と次節では、真空管の仕組みを理解するために必要な電気、電子についての用語をいくつか説明します。本節では、電圧と電位という用語について説明します。また、音楽信号の伝送方法についても述べます。
電源として正の電源、負の電源というものが存在します。また、真空管は真空の電球の中を電子が飛び、その量をコントロールすることによって様々な機能を持ちます。ここでは、これらのことを理解するために、電圧と電位、電場と電荷という用語について説明します。
通常の生活の中では電気の強さを表すのに電圧という単語が使われています。例えば、家のコンセントの電圧は100V、乾電池の電圧は1.5Vや1.2V、
というように用います。これと似たものとして、電位という単語があります。電圧と電位、どう違うのでしょうか。
まず電位について説明します。電気回路においては、任意の場所を基準として決めて0V(ボルト)の電位に設定し、これをグラウンド(ground)と呼びます。グラウンドよりも相対的に電位の高い場所を正の電位、0Vの位置よりも
電位の低い場所を負の電位として扱います。
具体的には、下の図の左のような縦型の温度計の目盛りをイメージすれば良いでしょう。
縦型の温度計は通常、零度の線があり、上に向かって正の値が増え、下に向かって負の値が増えます。または、地面の標高を考えてみましょう。海抜0mが存在し、通常地上や山の上は正の標高、海抜0mよりも低い地点では負の標高となります。このような、標高を測るための縦型の定規(上の図の右)
を考えてみることにします。
この縦型の定規では、ある位置に0点があり、上に向かって1cm, 2cm,‥と、
下に向かって-1cm, -2cm,‥と目盛りが振ってあります。このような定規を用いて、次の図のように部屋の中の物の高さを測ってみましょう。
このとき、0点をどこに置くかで、他の位置の高さは変わります。通常、部屋の中では床を0点として全ての物の高さを測りますが、机の上面を0点として部屋の中の物の高さを測ると、椅子の座面や床は負の高さとなります。このように、電気回路においては、任意の位置を0Vに設定し、他の位置の電位を、0Vからの相対的な電圧で測ります。
この電位という言葉を使って電圧という言葉を正確に説明すると、電圧は「2点間の電位の差」と言うことができます。例えば、電圧が1.5Vの乾電池について考えてみます。この電池には+極と-極がありますが、電圧が1.5Vであるということは、+極と-極の電位の差が1.5Vであるという意味です。すると、もし-極を0Vの電位として見ると、+極は1.5Vの電位になりますが、逆に+極を0Vの電位として見ると、-極は-1.5Vの電位になります。世の中には、正と負の両方の「(曖昧な意味での)電圧」を出力する電源がありますが、これは、基準となるグラウンドを0Vとして決めて、正の「電圧」はグラウンドよりも電位が高く、負の「電圧」はグラウンドよりも電位が低いというのが正確な意味です。一般にグラウンドの位置は、機器を触ったとき感電しないように、通常、電源機器のケースが用いられます。
本稿では、電位という言葉の意味でも、電圧という用語を用います。正の電圧、負の電圧という用語が出て来たときには、グラウンドの位置(通常は機器のケース)よりも高い電位、低い電位という意味だと思ってください。
コラム:グラウンドとアース
グラウンドと似た別の言葉として、アース(接地、earth)があります。これは、機器の故障で漏電が起こった際に、電気を地面に逃がして感電しない
ために付いているものです。家電製品では、洗濯機やエアコンなど、水を使う電気製品にアース線が付いている場合が多いです。真空管アンプでも300Vや400Vなどの高電圧を扱う場合には、きちんとアースを取って感電しないようにした方が良いでしょう。本連載では、このような危険のないように、低い電圧で動作するような真空管アンプを製作することにします。
音楽信号の電位
本連載では、オーディオアンプを扱っていますので、入力される信号は音楽信号です。これは、2本の線を使って送られ、アンバランス伝送と呼ばれる伝送方式の場合、2本のうち1本がグラウンド線、もう1本が信号線として扱われます。グラウンド線の電圧を0Vとして考えると、信号線の電圧は正負に振動します。最終的に、この正負がスピーカーもしくはイヤホンやヘッドホンの振動板の振動となり、空気を通して耳に音圧の振動として伝わります。例えば、信号線の電圧が正の値のとき、スピーカーの振動板は飛び出ます。一方、信号線の電圧が負の値のとき、スピーカーの振動板は引っ込みます。このとき、1秒以内に振動板が飛び出て引っ込んで元に戻る回数が、音楽信号の周波数です。
コラム:バランス伝送とアンバランス伝送
音楽信号の伝送方法には、バランス伝送とアンバランス伝送という2種類の伝送方式があります。アンバランス伝送では2本の線を使って信号が伝送され、1本がグラウンドになります。一方、バランス伝送では3本の線を使って信号が伝送され、それぞれホット、コールド、グランドと呼ばれます。グラウンドは常に0Vの電圧として扱われます(アースに接続されます)。ホットがアンバランス伝送で言う信号線で、コールド線ではホットと正負を反対にひっくり返した信号が送られます。信号の受け手側では、ホットとコールドの差が音楽信号の振幅として扱われます。こうすると、外からノイズが入ったとき、ホットとコールドの両方に同じ電圧が足されますので、信号の受け手側で差を取ると、ノイズはキャンセルして消えます。これにより、バランス伝送はアンバランス伝送よりノイズに強いので、ダイナミックマイクのケーブルや、プロフェッショナル用の音楽機器など、ケーブルが長くなるような場所で使われています。