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カリフォルニア湾を渡る 南北アメリカ自転車縦断 メキシコ(5)

シウダー・コンスティトゥシオンの宿を出てから途中野宿1泊して、バハ・カリフォルニア・スル州の州都、ラパスに着いたのは10月30日だった。

何となく、「この辺が街の中心かな」と思えるようなところまで来たところで、びっこを引いているおっさんに英語で話しかけられる。彼は観光客相手の土産物売りで、だからこそ英語が話せたのだが、「お前のような旅行者が泊まる」宿のありかを教えてくれた。彼がしきりに勧める「本物の銀で出来た首飾り」の購入は丁寧にお断りし、宿に向かう。

宿はダウンタウンのど真ん中にあり、土曜日だったこともあり、辺りは地元の買い物客でごった返していた。しかし建物を通り抜けると外の喧騒が嘘のような静かな中庭があって、しかも部屋も良かったので、そこに決定。1泊140ペソ(1400円)だった。

実は中庭は蚊がすごくて、蚊よけスプレーをしないと1分もいられないことは後で知りました(笑)。

この後はラパスのすぐ近くのピチリングエというところからメキシコ本土のマサトランという都市まで行くフェリーに乗る予定なので、情報収集のためにまずはインフォメーションセンターへ行く。

インフォメーションセンターで教えてもらったところ、マサトラン行きは毎日でなく週3日しか出ていないそうだ。幸い、翌日の日曜日は出航日だったので、これはラッキー。

ビックリしたのは、マサトランまでは何と18時間かかるそうだ。地図を見て、てっきり4~5時間だと思っていた。もらったパンフによると、金額も一番安いツーリストクラスでも400ペソもする。しかも自転車がいくらするのか分からない。(オートバイは500ペソとあったが、自転車については何も書かれていないようだった。)

この時点で手持ちのお金は450ペソしかなかった。現金を調達する必要があるが、土曜日なので銀行は閉まっている。

クレジットカードはもちろん持っているが、フェリーのチケット購入に使えるのかが分からない。インフォメーションセンターでフェリー事務所の場所を聞いて、行ってみるもオープンは午後2時までで、既に閉まっていた。

最後の手段は、シティーバンクのキャッシュカードである。世界現地のATMで現金を引き出せるようになっている、らしい。(試したことはなかった。)インフォメーションセンターで貰ったラパス市内の地図によると、ATMは街のずっと外れの銀行にあるようだ。しかし、とてもでないが歩いていける距離ではなさそう。急いで宿に戻り、自転車に乗ってその銀行に向かう。

無事その銀行のATMで現金800ペソをゲットすることができた。しかし、この一連の騒動で、街を見学する余裕も時間もなくなってしまった。軍資金はもう少し余裕を持っておくべきだった、とへとへとになりながら思う。

翌日、宿のすぐ近くに銀行とATMを見つけた、、、。旅ってこんなことの連続ですよね(笑)。

※※※※※

翌日はいよいよカリフォルニア湾をクルーズする日。しかも18時間!

楽しみなのだが、しかし肝心の出航時間が分からない(笑)。

インフォメーションセンターの人は午後3時発だ、と言っていた。しかし、そこでもらったパンフには正午発と書いてあった。

しかもラパスから港のあるピチリングエまでの正確な距離も分からない。(まあ、地図を見た感じせいぜい20~30kmだろう。)また、どんな道なのかも、もちろん分からない。

念のため、遅くとも午前11時には着けるように、と考えて9時前に宿を出発した。

海沿いのクネクネ道を20㎞ほど走ってピチリングエに着いた。チケット売り場がどこか分からず、探し回る。ようやく見つけたのはプレハブ小屋だった。プレハブ小屋のスタッフはパソコンの立ち上げから始めたので、結構時間がかかったが、無事本日のチケットを入手できた。

ちなみに料金は(400ペソでなく)510ペソ、出航時間は(正午でも午後3時でもなく)午後5時だった。

嬉しかったのは、自転車は無料で運んでもらえるらしいことと、今晩の夕食と明日の朝食が含まれていたこと。メキシコ入国以来日々の食事はほとんどトルティーヤと缶詰だけで、まともな食事をほとんど取っていない。これは少し楽しみだ。美味しいメキシコ料理が食べられるといいな。

しかしチケットを手に入れるとあとは5時まで何もすることがない。自分の時計はまだ午前10時を指していた。

一旦ラパスに戻ることも考えたが、暑い中走るのもかったるい。結局何もないピチリングエの港で待つことにする。

幸い、船の形をした立派な建物の中に待合室があった。そこで溜まっていた日記を書いたり、手持ちの本を読んだりして過ごした。(そこにもっとちゃんとしたチケット売り場もあった。)

もちろん、こんなに早くから来る客は他にはいない。のんびり静かに過ごすことができた。

そうこうしているうちに、自分が乗る船が入港した。ものすごく大きい。しかし窓がほとんどなく、まるで貨物船のようだった。「クルーズ」という感じではどうやらなさそうだ。

午後は埠頭の日陰のところにテントマットを敷いて寝転がる。

静かな海には小さな魚が群れをなして泳いでいる。その魚を狙って海鳥が急降下を繰り返す。それをフェリー会社の職員のおっさんがボケっと見ている。そのおっさんをこれまたボケっと眺めながら、少しまどろむ。

、、、ふと気づいたら、午後3時。フェリーの方に向かうと、もう乗船が始まっていた。自分も乗り込む。

船は4階建てで、下の2階は車やトラックを停めるスペースになっている。私の自転車は隅の方に置いておく。乗客は船の前方にある3階へ行く。4階には乗客はアクセスできないようだった。

ベットかせめて雑魚寝のスペースがあることを想像していたが、一番安いクラスは普通の座席だった。飛行機の座席をそのまま持ってきたような3列席が並んでいる。幸い乗客はそれほど多くなく、3席分を確保できたのでなんとか横になることはできたが、非常に狭い座席でぐっすりは眠れなかった。

厨房で太ったおっさんが料理をしている。見るからに豪華で美味しそう!座席はイマイチだったけど、夕食は豪勢な食事にありつけそうだ。

船は5時半に出航した。2時間前から乗船できるのもすごいし、それにもかかわらず出航が30分遅れるのもすごい。何事ものんびり。

6時ごろに日が沈む。海から見る夕日は素晴らしい。やっぱり船はいいな。

高揚した気分で食堂へ行く。

食堂は15席ほどしかない小さなスペースだった。船は大きいのに乗客用のスペースはとことん狭い。そして夕食は牛肉を炒めたものと豆のペースト、それにトルティーヤだけだった。

これだけ?腹八分にもならない。

食事付きだと知らず、食料を買い込んで乗船したのは不幸中の幸いだった。

しかしさっきのおっさんが料理していたもの、あれは一体何だったのだろう???

、、、って考えると「これこそが旅の楽しさではないか」という気がして、なんか笑ってしまった。

船室のテレビではなぜか香港映画を上映していた。中国語の音声とスペイン語の字幕なので、内容はさっぱり分からなかったけど。

※※※※※

6時ごろ、寝たのか寝てないのかよく分からないまま起きる。デッキに出てみると太陽はもうかなり高くまで昇っていた。大きな鳥たちが船と競争しているのをメキシコ人のおっさんたちとボケっと見る。もう前方にはメキシコ本土が見えていた。

朝食は昨日と同じ豆のペースト、スクランブルエッグ、トルティーヤ、それにコーヒー。質素だが、これはもう想定内だった(笑)。

再度デッキに出てみると、海岸沿いに大きなリゾートホテルのような建物がいくつか建っていて、その先には街が見える。18時間の航海だからマサトランに着くにはまだ早いだろうと思っていたが、その街が実はマサトランだった。まあ、早く着いてくれるのは何の問題もない。

朝9時前にはマサトランの街に降り立つ。街の中心に行ってみると、ものすごく立派な大聖堂があった。

いよいよここからは「サイクリスト泣かせ」のメキシコ本土。(信者ではないけれど)今後の無事を祈ってから出発した。

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