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無名アスリートが「人材」になるまで

「自分は競技しかやってこなかったので…」
いかにも体育会出身者が言いそうなこの言葉は、僕の中で死語になりつつある。

今年の6月末から、アスリートキャリアオーナーシップアカデミーを受講しはじめ、早くも2ヶ月とちょっとが経った。残りの講義はあと2回。毎週月曜日が楽しみで、いっさい予定を入れないようにしてきただけに、なんとも寂しい気持ちがしてくる。

今日は、残り2回の講義の価値を最大化させるため、これまでのアカデミーを通じての学びや気付きを、一度整理してみたいと思う。

学びは確実に血肉にしたい。

そもそもなぜ受講したか

『競技引退後に不安がある』
よくあるアスリート向けのアンケートの一問。僕はたいていチェックを入れる。

大学卒業後、僕は夢だったアイスホッケー選手になった。当初は実業団チームに入団し、引退したら会社に戻るつもりでいたが、入団と同時にチームが廃部になったため、半ば仕方なく「プロ」としてのキャリアを歩むことになった。
(詳しくは当時のことを綴ったエッセイがあるので、よろしければ)

プロ10年目を迎えた2019年、所属チーム廃部を再び経験した僕は、引退を考えた。それまで引退後のキャリアについて、ビジネス書を読むことを習慣にしたり、韓国語検定や簿記検定を取得したりなんとなくは考えていたものの、実際に転職活動を始めると、自己紹介ですら何を伝えればいいのかわからず、「自分の強み」でさえネットで検索しようとした。そんな自分の無力さに愕然とした。

幸いその時は日光アイスバックス(現所属チーム)から選手契約のオファーが届き、僕は引退をせずに現役を続ける選択をしたが、そのときの経験を通じ、僕の中で「キャリア」に対する考え方は大きく変わった。それまでの僕は「誰かに頼ればなんとかなるだろう」どこかでそんな甘い考えを持っていたが、「なんとかしなければヤバい」そんな焦りにも似た不安や恐怖の感情へと変わっていた。

それからは「キャリア」に対して今の自分にどんな準備ができるのかを真剣に考えた。スポーツビジネスについての勉強を始めたり、「社会人の基礎知識」「セカンドキャリア」についての本や記事を読み漁った。アパレル商品の企画、販売も始めたりした。

そんな「キャリア」についてアンテナを張っていたとき、タイムラインに流れてきたのが「アスリートキャリアオーナーシップアカデミー」の2期生募集の案内だった。

僕は自分の「キャリア」の主導権を奪還すべく、受講を決意した。

キャリアについて”正しく”恐れる

『敵を知り己を知れば百戦危うからず』
孫子の兵法の有名な一節。ここでいう「敵」とは、僕に不安と恐怖をもたらす「キャリア」だ。

アカデミーではまず「人生100年時代」と言われるこの時代のキャリア論を学んだ。ここでの鍵は「先入観」だ。「『虹』は何色(なんしょく)あるか?」人間はいくつもの「思い込み」の中で生活をしている。キャリア形成においてもこの「先入観」や「思い込み」に惑わされないことが重要だと学んだ。例えば、終身雇用制度や年功序列、一意専心が美学であると言われた時代は崩壊しつつあり、メンバーシップ型からジョブ型へ多くの企業も移行しようとしている。

このことは、アスリートにとって追い風と言える。必要なパフォーマンスを発揮できる能力さえ持っていれば、雇用に年齢や経歴は関係なくなるからだ。まさに僕が不安や恐怖を抱いていたのは「キャリア」に対する先入観であり、「自分は何もできない」と決めつけてしまっていたことだ。もちろん、専門スキルを身につけるための努力は必要であるが、それこそアスリートが普段から競技を通じてやっているパフォーマンス開発を、ビジネスに転用すればいい。

ただし、求められる専門スキルは日々変化していて、第5回講師の法政大学田中研之輔教授が提唱する「プロティアン(変幻自在)」や、第3回講師のLinkedIn日本代表村上臣さんの「タグ思考」の考え方が重要になる。

ちなみに田中研之輔教授は、「アスリートこそビジネスシーンを牽引する逸材である。」と語り、アスリート経験をレバレッジするという全く新しい考え方を説いてくれた。

話を戻すと、つまりアスリートが先入観を取っ払い、「キャリア」や「自分」と正しく向き合うことで、自ずと戦い方が見えてくるというわけだ。

アカデミーではそのためのキーワードとして、「Whyからはじめよ」「Compass Over Maps」「計画された偶発性理論」「ネットワーキング」の考え方をアスリート目線で体系的に学んだが、この章で詳細は割愛する。

アカデミーの本質は”OS”のバージョンアップ

経済産業省が公開している資料にこのようなものがある。

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これによるとこの時代の「社会人スキル」は「OS」「アプリ」に分けて考えることができ、この2つをアップデートすることが求められるという。

「OS」とはiPhoneでいうところのiOS、「アプリ」はそのiOS上で動作する様々なアプリのことだ。古いバージョンのiOSを搭載したiPhoneでは最新のアプリは正常に動作しないし、逆にiOSだけを最新にしてもアプリがそれに最適化されなければパフォーマンスは落ちる。

キャリアについても全く同じことが言え、その時代に合ったキャリア意識やマインドセットという「OS」があってこそ、専門的なスキルといった「アプリ」が正常に動作するようになる。

前述した通り、僕はこれまで韓国語検定や簿記検定をはじめ、英会話やPCスキルといった「アプリ」の部分だけに注目し、それらを闇雲にアップデートすることでキャリア形成ができると思っていた。もちろんそれが大事な要素であることは間違いないが、アカデミーを通じてもっと「OS」に焦点を当てる考え方ができるようになってきた。これは「キャリアショック」や「Compass over maps」の考え方に通じる部分もある。

これまでアカデミーでは「OS」のアップデートのために必要な知識や思考法を学び、日々小さなアップデート(自分1.2、1.3)を繰り返すことで、大きなバージョンアップ(自分2.0、3.0)へ繋げることができる。

まとめると、最新の「アプリ」をインストールするために必要な基盤となる「OS」を手に入れることが、アカデミーの本質ではないかと思う。
※あくまで個人の解釈

アスリート講師の共通点

アカデミーでは、ビジネス界で活躍する4名の元アスリートが講師として登壇した。

講師は、
・元JリーガーでバリュエンスグループCEOの嵜本晋輔氏
・元柔道家の野村忠宏氏
・元プロマラソンランナー有森裕子氏
・元JリーガーでAuB株式会社CEOの鈴木啓太氏
といったなんとも豪華な面々。

それぞれの方の講義を順番に振り返りたいところではあるが、論文なみに長くなりそうなので、ここでは4名の講師が自身のキャリアを歩む上での共通点を自分なりに抽出したい。

結論から言うと、「計画された偶発性理論」をまさに体現されていたと感じる。ここでは「計画された偶発性理論」について詳述はしないが、要するに「偶然を引き寄せる準備」が大切であると言うことだ。

4名の講師に共通していたことが、現役中に「キャリア」をこのような形で本格的に学んではいなかったということだろう。そんな方々が「キャリアアカデミー講師」として登壇するところに、このアカデミーの柔軟さと面白さがあるとも言える(笑)。

誤解が生じないように言っておくが、もちろん全く考えていないというわけではなく、そこには偶然を引き寄せるための準備とアンテナが張られていたことは確かだ。

例えば、第9回に登壇された鈴木啓太氏は現役時代、オフシーズンは必ず海外の見知らぬ土地を訪れ、「自分が知らないこと」や「できないこと」にアンテナを張り、積極的に触れていたという。

まさにこういった好奇心や冒険心こそ、計画的偶発性を起こす行動特性であり、僕自身も大切にていきたいと思う。

「『棚ぼた』は、そもそも棚にぼた餅を乗せないと落ちてこない」
まずは棚にぼた餅を乗せることから始めたい。

実践してこそ価値になる

第1回目の講義で、ロミンガーの法則を学んだ。これは(70:20:10の法則)とも呼ばれ、ビジネスで活躍する人たちの「これまでに役立った出来事」のうち、70%が経験、20%が上司からの学び、10%が研修や学習から得られるというものだ。

つまり、「ただ学習しているだけ」では全体の10%の学びしか得られず、実際に行動してこそ学びを価値あるものにできるということだ。

極めてスモールスタートではあるが、アカデミー開校後、日経新聞に毎日触れて(voicyで毎日聞くようになった)自分なりに考察したり、LinkedInに投稿をしてみたりした。
(講義の冒頭では1週間分の日経新聞1面記事振り返りがある)

また、アカデミーでの学びとは少しズレるが、今自分が取り組んでいるのが、講義のアーカイブ動画で自分が話をする場面を繰り返し見て、文字起こしすることだ。アカデミーではしばしば発言の機会があり、会話の瞬発力が問われる。論理的に話をすることが絶望的に苦手な僕にとって、自分が話をしている姿を見るのは嫌で嫌でたまらないわけだが、メタ認知的な視点で見るようにしている。

実際に文字起こしをし、自分で自分に「で、何が言いたいの?」とツッコミを入れたくなる気持ちを抑え、できない自分を受け入れ、どういう話し方や言葉を使えば論理立てて話ができていたかを振り返るようにしている。ただ、「話し方」は一朝一夕に上達するものではないので、僕を知る人はどうか暖かく見守っていて欲しい。(笑)

まだまだ実践に移せていることは少ないが、アカデミーの学びを最大化して血肉にするためにも、今後は定量的なアクションプランまで落とし込みたいと思っている。

最後に

アカデミーの講義も残るところあと2回。次回の講師は、株式会社ワンキャリア取締役の北野唯我氏。ベストセラーの著書「転職の思考法」は、2年前に読んだが、講義までにもう一度読んでみようと思う。

アカデミーでは学び以外にも、共にキャリアについて学ぶ仲間の存在も大きい。「引退」という共通言語があるアスリートや元アスリートとのディスカッションは、共感することも多いが、何より自分に新たな視点をもたらしてくれる。

個人的に、法政大学の同期で元広島カープの投手だった小松剛さんや、同じく大学の先輩Jリーガー本田拓也さんには勝手に親近感を抱いている。笑

今日はアカデミーを通じて得た学びや気づきを整理するために書いたわけだが、今後も「キャリア」については自分なりに継続して学んでいきたいと思うし、また新たな気づきを得た時は、頭の整理として書きたいと思う。

「アイスホッケーをやってきたからこそ、こんな人材になれた。」
近い将来、僕は胸を張ってこう言う。

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