桜吹雪のもらいかた
だれもこない公園で、息子二人つれてあそぶ。
先日まで満開だった桜はもう葉桜だ。雨に濡れて花は散りだし、赤いがくが目立ってくる。そこに新緑が芽吹き、来たる夏への生命力をのぞかせる。
はなびらはいつまでもはらはらとちりつづけている。
桜の木は小さい公園の両側にあり、その真ん中にブランコがある。
長男のブランコを押しながら、見上げれば空の両端に桜が咲いている。
3ヶ月ちょっと前、ここに越してきた。寒い時も毎日この公園に来て、ブランコを押している。
春になったらここの桜も咲くのかなぁ、まだ先だなぁとぼんやりそう思っていたはずが、いつのまにか季節は通り過ぎていた。
でもまさか、こんなふうに世界が変わっていくなんて、3ヶ月前には想像もつかなかった。
今、まだ自分の周りでは何も起こっていない。
私はチビ二人育てるのに精一杯で、何もできていない。いや、子供がいなくても、何もできやしない。
だからせめて、きげんよくいようと思ってる。今、普通の生活をおくらせてもらえるなかで、自我に固執して不機嫌にいちゃいけない気がして、それだけは心がけている。
夕方以降、疲れすぎて難しいときもあるが…。
ブランコに乗ってる息子にじれることもある。体力使わせて昼寝させたいのに、ただ座ってるだけかい!と。
そこで今日は「落ちてくる桜の花びら、どっちが取れるか競争しよ!」
と、ブランコから降ろす口実に桜を使った。
風は強く、桜の花吹雪は絶え間なくふぶいている。
手を伸ばせばすぐにとれるものだと思っていた。
長男と一緒に花びらを追いかける。
10ヶ月の次男はベビーカーでその様子をぽかんと見ている。
どれかひとつ取ろうと思っても、目移りしてしまう。
やっとひとつに狙いを定めても、あっちこっちにひらひらし、高いところでじっと滞空していたかと思えば急降下したり、全然捕まえられない。
自分が動くことで空気が乱れ、花びらは余計に予測どおりに動かない。
長男はそうそうにあきらめ、地面にたまった萎びた花びらを集めだした。
両手に握りしめてはジャンプしながら投げる。自分で花吹雪を作りたいのだが、高さがないのでうまくひらひらしないのだった。
一度散り終えた花びらはもう花吹雪にはなれない。
あれは桜の花がかたちをくずし、地面に落ちるまでのただ一度のことなのだ。
それから私はムキになり、やっと一枚つかまえた。
「やった!とった!」と叫ぶ。
長男はどれどれと見に来てくれた。
まっくろくろすけをつかまえた時みたいに、合わせていた両手をそっと開く。
花びら一枚、手のひらにあった。
あたり一面、どこにでもある花びら一枚。
それでも長男は「おおっ!いいねー!」とか言って、自分でそれをやさしくつまんで見ていた。
ずっと見上げていて疲れた首を回しながら、満足感にひたる。
ふと次男の方を見ると、頭に花びらがのっていた。
じっとその場にいる人に、花びらは自然に舞いおりるものだった。
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