画像4

上海OMO視察~OMOの実態を知ろう~

2019年11月23日~25日に、OMO(Online Merges Offline)のビジネスを体感するために、中国・上海へ視察に行ってきました。本記事では、上海で私が体験したことや学びを共有できればと思います。

------------------------------------
【読了時間: 10分】
(文字数: 4,400文字)
------------------------------------

OMOとは
デジタルが生活に完全に浸透しており、商談などのオフラインでのユーザーとの接点もオンラインに含まれている状態を指します。OMOの概念については、ビービット社の藤井保文氏とIT批評家の尾原和啓氏の著書「アフターデジタル」やビービット社ブログ記事に詳細が記載されているので、ご興味のある方はぜひ、書籍や以下の記事URLなど、ご一読ください。



NIO(上海蔚来汽車)
NIOは、上海に本社がある電気自動車メーカー( https://www.nio.com/   )で、中国版テスラと呼ばれています。NIOで印象に残っているのは、以下の2点です。

① バッテリー交換サービス
NIOはユーザーが購入した自動車の走行距離やバッテリーの消耗具合をデータ管理しています。そのため、バッテリーが消耗する前にNIOのサービススタッフからユーザーに連絡し、バッテリー交換および保守点検をします。従来の電気自動車では、充電などユーザーが定期的にメンテナンスをする必要があります。このメンテナンスをするというハードルをNIOは取り除き、電気自動車を常に快適に利用できる状況をユーザーに提供しています。

② NIO Houseでの顧客体験
ユーザーはNIO Houseという顧客専用ラウンジを利用できます。NIO Houseでは、酒やドリンクが楽しめるバー、子供が遊べるプレイエリアなどがあります。NIOの電気自動車を購入したユーザーはNIO Houseをいつでも利用可能で、購入後のユーザーとの接点としてNIO Houseは機能していると言えます。従来の自動車メーカーでは顧客に納車をすることで商流は完結し、故障やメンテナンスなどを除けば、メーカーと顧客との接点は無くなりがちです。これに対して、NIOは購入後にも顧客が楽しめる工夫を提供しており、継続的に顧客体験を向上させる工夫があります。

NIO House 上海のカスタマーラウンジ①
(顧客の子どもが遊べるプレイエリア。コーポレートカラーの青を基調とした空間)

画像1

NIO House上海の顧客ラウンジ②
(顧客が寛げる図書館で、ソファーに座りながらお酒やソフトドリンクも注文できる)

画像2


NIO House上海のカスタマーラウンジ③
(顧客向けに新製品などのプレゼンテーションをするセミナールーム)

画像3


OMO戦略では、
① 顧客の行動データを常に把握したうえで最適なソリューションを提案する
② オンラインで提供できる価値だけでなく、オフラインで人対面だからこそ提供できる価値にフォーカスする
という2点が重要になります。NIOはバッテリー交換などの保守サービスとNIO Houseを通じて、まさにこの2点のOMO戦略を体現していると言えます。

盒馬鮮生(フーマー)
Alibaba(阿里巴巴集団)が展開するスーパーマーケットです。Alibabaと言えば、創業者ジャック・マーが手掛けたECサイトが有名です。
ECサイトを運営するAlibabaがなぜオフラインのスーパーを展開しているのかなど、具体的な戦略は前述した「アフターデジタル」に詳細がありますので、ご一読ください。
フーマーの特徴について簡単に記載をすると、以下の通りです。
① 顧客は店舗で購入したものを持ち帰るか、自宅への配送のどちらかを選択できる
② フーマー店舗から3Km以内であれば30分以内に配送可能
③ 顧客はフーマーアプリから商品情報を読み取り、アプリから購入可能

フーマー上海の看板

画像4



フーマーのオリジナルキャラクター

画像5


フーマーでOMOを体現していると感じた点は以下の通りです。

① データ分析とリアルの融合
顧客がフーマーアプリから商品を購入すると「いつ、どこの店舗で、どの商品を顧客が購入しているのか」という精緻なデータを集めることができます。このデータを利用して、フーマーは商品ラインナップを変更し、常に顧客にとって最適な商品を提供できます。また、フーマーの配送サービス(店舗から3Km以内なら30分以内に配送)は上海の顧客にとって重要なインフラの1つとなっており、不動産でも「フーマーが3Km以内にある物件」は賃料が高くなる傾向にあるようです。
(参考記事: https://citicpressjapan.com/2019/07/hemaxiansheng/
実際に私が上海を探索していると、いたるところで青色のジャケット(青はフーマーのイメージカラー)を着たドライバーがせわしなく、配送していました。「店舗で商品を見て、その場でアプリを使って注文し、自宅まで配送してもらう」というのは日本では馴染みの無い体験ですが、上海では人々の日常の購買行動として浸透しています。そして、このような購買行動を作り上げた、Alibabaの戦略には驚きを隠しえません。

② 最適な顧客対応
私がフーマーに入り不慣れなアプリで果物のQRコードをスキャンしていると、店員さんが中国語で話しかけてきました。彼女がしゃべっている内容は理解できなかったのですが、果物と私のスマホ画面を指差しながら何やら説明している様子だったので、果物の特徴を説明してくれているのだろうと思いました。この体験で私が驚いたのは、私がフーマーアプリで商品情報をチェックしている時に、店員さんが話しかけてきたことです。つまり、アプリを操作して「この商品は、何だろう」と検索をして購買意欲が高まっている段階で、店員さんが話しかけてきたのです。
例えば、私が日本で服屋さんに行き商品を見ていると、「僕もこの服持っているんですよ」と店員さんが話しかけてくることがあります。そして、「まだ、買おうと思っていないんだけど」と思いながらも、「ありがとうございます。ちょっと他も見ますね」と返事をすることが多いです。この状況は、私の購買意欲が高くない状況で商品説明をされているので、少々困っているパターンです。このように、日本では多くの小売店の店員は、顧客の温度感や反応などを観察しながら、適切なコミュニケーションを取ろうとしていますが、うまくいってないのではないでしょうか。
 一方で、フーマーでは顧客がアプリを開いて商品情報をチェックしているタイミングで声がけをします。商品情報をデータで提供したうえで、店舗に来た顧客には店員が丁寧な接客や商品説明をするというのは、オンラインとオフラインの融合でOMOを体現していると言えます。


Mobike
中国で展開している自転車のシェアリングサービスです。上海の至るところに、Mobikeのオレンジ色の自転車があり、顧客は専用アプリを通じて自転車のQRコードをスキャンすれば、開錠されてその自転車に乗ることができます。目的地に到着して自転車を乗り捨てすれば、専用アプリが移動距離をGPSで計測し、アプリに登録しているクレジットカードから移動距離分の料金が自動的に引き落としされます。顧客の移動距離や自転車の取り扱いは、スマホのGPSおよび自転車のGPSによって捕捉されています。また、自転車を粗末に扱ったり、スピード違反などをすると顧客の信頼度が下がり、Mobikeを利用できなくなるという仕組みがあります。

Mobikeを上海視察の参加者が利用しているところ↓

画像6

スマホアプリを起動して、オレンジ色の自転車のQRコードをスキャンすれば、自転車に乗れます。

 
Mobikeのアプリ利用画面
(移動距離、消費したカロリー、金額が履歴として蓄積されている)

画像7

このMobikeでOMO戦略を体現していると思えたのは以下の点です。

レーティング
先ほども書いたとおり、顧客の移動距離や自転車の使用状況はすべてデータ管理されています。さらに、町中の至る所に監視カメラがあるため、交通違反をすると通報されてしまいます。今回の上海視察のコーディネーターである滝沢さん( @takiyori0608 )曰く、交通違反をするとWeChat(中国で最も普及しているコミュニケーション・プラットフォーム)で罰金を支払うことができるそうです。この強力な監視体制により、結果として中国人の交通マナーは向上し、事故件数も減っているそうです。

これは余談ですが、私が上海の地下鉄に乗車しているときに、同じ視察参加者から「田口さん、ポケットにiPhoneを入れていますけど、2年前の中国なら盗まれていましたよ。今は、地下鉄に監視カメラがあるため、スリも減りましたけど(笑)」と言われました。

総括: 人の行動はデータで管理され、人の介在価値が向上する
上海視察を経て中国の印象は大きく変わりました。中国人と言えば「爆買い」「行列に並ばなくてマナーが悪い」「店員のホスピタリティが低い」などの勝手な悪いイメージがありました。しかし、実際に上海に行くと、OMOが生活に浸透しており、悪いイメージよりも「便利な街」「対面のホスピタリティが高い」という良い印象に変わりました。繁華街だけでなく、路地にある小さな雑貨屋や露店でさえ、AlipayやWeChatのQRコードが張り付けられており、デジタル決済が主流となっています。そして、この日常のデジタル決済のデータから「どのエリアに住んでいる人が何を購入しているのか」を分析し、顧客に最適な商品・サービスをオフライン/オンライン問わずに提供する。このサイクルを通じて、AlibabaやTencent(WeChatの運営企業)は顧客体験を向上させるPDCAを高速で回しています。
OMOの世界では、このデータによる顧客との接点だけでなく、人の介在価値が重要になっています。NIOのカスタマーラウンジやフーマーの接客のように、顧客が求めている対応はデータで事前に予測することはできますが、人が提供するからこその価値もあると思います。弊社も研修や映像制作を顧客に提案していますが、今後の仕事の中で「対面だからこそ提供できる価値」にフォーカスして、仕事を進めていければと思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?