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「地理思考」名前から発想してみよう! (第1回)

こんにちは、バラエティプロデューサーの角田陽一郎です。

この夏に『人生が変わるすごい「地理」』という本をKADOKAWAから出版しました。
これは、『地理思考』という概念を人生に導入すると、勉強に有意義であるだけでなく、人生も変わっちゃうよ!という本です。大変好評で増刷も早速決まりました。



本連載「最速で身につく勉強法」では、まずはその『地理思考』のエッセンスを身につけてもらうべく、実際に『地理思考』がどんなものか、まずは具体例を挙げてみようと思います。
みなさんも『地理思考』を身につけてみてください!
これからの勉強や人生への向き合い方が変わることをお約束します。


暗記だけをすることには意味がない!

地理は学校の科目として習うと暗記が付き物と思われがちですが、半分は正解で半分は間違っていると思います。(それは歴史や科学を始め大方の学問でも当てはまりますが)

まず第一義で言えるのは、暗記だけをすることは実質的には意味がありません。暗記しているかどうかと、その物事の本質を知っているかどうかは違うからです。ただし、物事の本質を知る上で少なくともこれは“知っておくべき”という知識が一定数はあることも確かです。
その上で僕が考える「覚えるべき情報」には、あまり優劣はありません。優劣の定義づけが難しいとすれば、清濁、あるいは公認・非公認には意味がないのだとも言えます。


曖昧で不確かな「範囲」— サウジアラビア・オマーン間に国境がなかった理由

教育だと試験の出題範囲のような「範囲」という概念で、知の領域を固定し、その中でさらにこれは覚えるべき、覚える必要ない的な判別を公に認定してしまいます。しかし、この「範囲」という領域自体がまずは、流動的です。常に時代とともに、また時の施政者の方針や地域ごとの方針によって、時々刻々と変化しているのです。

つまり、「範囲」という線に囲まれた明確に線引きされた領域があるのではなく、その境目は不確かで、境界自体がもっと面的にグラデーションで広がっていると認識する必要があります。

その例を地理の国境でいうと、かつての地図帳ではアラビア半島のサウジアラビアやオマーン、イエメンの間には国境が描いてない地図がありました。その理由は国境線上がまさに砂漠だから。そこに線を引いてここからここまではA国、こっちからはB国と決めること自体が、無意味だったかららしいです。「その一帯がなんとなく両国の国境なんだ」と、面的な概念で国境を捉えられていたということです。

そんな「領域」が不確かな中で、それでも覚えるべき名称、知っておいたほうがいい情報を、僕らはどう扱えばいいのでしょうか?
今回は、そんな名前の概念を考えてみたいと思います。

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その名称は、そもそも何なのか?

地理等で海外の名称や情報が出てくるとき、大事なのは「その名称はそもそも何なのか?」ということです。

ある名称に僕らが触れるとき、
①現地語の文字で書かれた情報
②現地語の音で読まれた読み方
③日本語で書かれた情報
④日本語(カタカナ)で読まれた読み方

とすでにその名称が指す対象が、違う読み方をされることが多いですね。

さらに、「③日本語で書かれた情報」「④日本語(カタカナ)で読まれた読み方」で言えば、その名称が認識された時代の読み方を踏襲していて、さらに混乱が生じる場合があります。
例えばオランダとかイギリスとかドイツがそうです。

・イギリス、グレートブリテン、イングランド、アングロテール
・オランダ、ホーラント、オレンジ、ダッチ
・ドイツ、ドイッチュラント、アルマーニュ
それぞれは同じ国を指していて、それでいて厳密には違うわけです。
それがごちゃごちゃになりますし、もう本来の国では現地の人は自分たち自身のことをなんて呼んでるかも、日本人にはわからない状況ですね。

以前『最速で身につく世界史』を書いたときに「イギリス」と表記して、「イングランドとスコットランドが分かれてる時代はどうすれば……」とかいろいろ迷いましたし、本書『人生が変わるすごい「地理」』でも、中国のことを中国と書くと、現在の中華人民共和国だと思われがちで、いわゆる漢民族が占める領域なのか、チベットやウイグルも入った領域なのか混乱を招くなとかなり苦慮しています。といいますか、とにかく中国や韓国の地名や人名は漢字表記をそのまま日本語の音で読む場合と、中国語や中国語をカタカナでつづる場合があって、それだけでもさらに混乱しますよね。北京はペキンなのかベイジンなのか、習近平はシュウキンペイなのかシージンピンなのか?等々。

逆に言えばJapanもそうかもしれません。もともと僕らがニッポンって呼んでいたのが、違う異国の異民族に聞かれた音で表記され、その表記をまた違う国の人が読んで、違う音が付き、そして英語では結果Japanになったのでしょう。


でもそこまでわかりやすい混乱事例だけでなくても、例えば、アルゼンチンを「①現地語」で書けば、“Argentina”で、「④日本語(カタカナ)」強いてカタカナで書けば、“アルヘンティーナ”です。
でも日本語カタカナではなぜアルゼンチンなのかというと、英語の公式読みでは、Argentineだからです。でもこれだって、現代的なカタカナ表記だとアルゼンティンになると思うのですが、要は小さいァィゥェォを採用するかしないかで、tiをチなのかティなのか、th をジなのかディなのか、ブなのかヴなのか等、つまりカタカナ表記の運用の変遷のせいだとも言えるワケですね。
さらにややこしいのが、では小さいァィゥェォを採用すると決めたんだから、全部そっちに変わったというならばまだ話が早いのですが、実際変わった国名もありますが、アルゼンチンは、アルゼンチンという国名が流布しているから、そのままアルゼンチンなのです。
つまり、現地の名前を認識する場合、先の1から4の上にさらに、
⑤英語で書かれた情報
⑥英語(カタカナ)で読まれた読み方
というのもあるというワケです。でもっとややこしいのが、その英語で読む⑥を使用する場合と、現地語の②を使用する場合が、それこそその名称ごとに違うからです。
以前僕は最初アメリカ人と話していて、彼が発するユークレインが何かわかりませんでした。でもそれは、ウクライナだったのです。ウクライナは英語読みだとユークレインだからです。でもぼくらはウクライナを使用しますよね。
つまり使用法の基準が不確定だってことなのです。

混乱する理由が何かを考えよう!


でもその不確定なところこそがポイントなのです。
地理で名称が出てきたとき、それが何を指し、何と同義なのかを気にかけるだけで、理解が深まります。
そして、そこまで混乱する理由は何かを考えることが地理思考でもあります。

混乱を招いたことには招く理由があるからです。

例えばアフリカにはナイジェリアとニジェールと言う国がありますが、これはこの地方にニジェール川が流れていて、それがそもそも現地の黒色遊牧民トゥアレグ族の音だったのが、フランスの植民地になる際、ラテン語の黒を意味するnigerに転訛したからです。
そしてその下流地域は、イギリス領の植民地になり、ニジェールの英語読みがナイジェリアですし、黒人を意味するニグロになるのです。
つまりナイジェリアと、ニジェールって僕ら日本人には違う言葉に感じられますが、その変遷を知ることで、むしろナイジェリアの公用語は英語だろう、ニジェールはフランス語だろうと、地理的推察ができるんだと思うのです。

同様に、ガイアナとギアナとスリナムという国が南アフリカにはあります。
ギアナという地域がヨーロッパ各国の植民地になりました。
スペイン領ギアナは、現在のベネゼエラのボリバール州、
イギリス領ギアナは、現在のガイアナ(つまりギアナの英語読み)
オランダ領ギアナは、現在のスリナム
フランス領ギアナは今もフランスの海外県
ポルトガル領ギアナは現在のブラジルのアマパー州
なのです。
この地理的要因から、ガイアナにはインド人が多いです。なぜならインドはイギリス領だったので、インド人が多数やってきたからです。インド人が多いということは、ヒンドゥー教徒が多い地域です。

またスリナムには、ムスリム(イスラム教徒)が多いです。なぜならイスラム教徒最大の人口を擁するインドネシアは、オランダ領だったので、インドネシアからムスリムが多数やってきたからです。
僕たちが南米を想像すると、スペイン・ポルトガルの末裔というのは想像できます。
次に現地の原住民インディオの末裔というのも想像できます。
さらに、日系ブラジル人、日系ペルー人など日本人の移民などまでは想像できるでしょう。さらに想像を膨らませれば日系移民のように人口が多い中国系移民、インド系移民までならきっと存在するんだろうなくらいまでは行き着くとは思います。でもよっぽど地理に明るい方でなければ、南米にムスリムがいる地位があることは流石に想像を超えるのではないでしょうか。

つまり、名前から派生して、思考を巡らすことは、その自分の想像を超えることまで行ける興味深さがあるのです。


☆第2回へ続く


角田陽一郎

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