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「読ませた医師全員が”リアルすぎる”と震えていました(笑)」【Dr.Eggs5巻発売記念】Twitterフォロワー数15万人超!「病理医ヤンデル」こと市原真氏インタビュー。

「グランドジャンプ」(集英社)で連載中のマンガ『Dr.Eggs ドクターエッグス』の5巻が、2023年5月19日に発売されました!

『Dr.Eggs 5巻 発売記念』といたしまして、巻末記事に掲載されております
市原さんのインタビューを掲載。
巻末記事には入り切れなかったエピソードもこのnoteでは掲載しています。

市原真 (いちはら しん)氏
1978年生まれ。医師、博士(医学)。
病理専門医。『病理医ヤンデル先生の医者・病院・病気のリアルな話』(だいわ文庫)ほか、一般向け・医療者向け著作多数。
Twitter: @Dr_yandel


「病理医ヤンデル」の名前でツイッターから発信する医療情報が「おもしろくてタメになる」と評判で、ブログ「脳だけが旅に出る」も多くの読者を獲得しているのが、札幌厚生病院病理診断科主任部長の市原真さん。
『ドクターエッグス』も1巻から愛読いただいている市原さんに、
円らの“人物像”を「診断」していただいた。

■登場人物そっくりの医大生は実在する


いったいどうやって取材したら、これほど人間味とリアリティが出せるの?
 
現在は病理医として勤務し、かつて医学生だった私としては、『ドクターエッグス』の毎話をいつも、そんな驚きとともに読んでいます。

とくに、キャラクター造形がすごい。
円はもちろんのこと、ふたこと目にはランキングを持ち出したり、
自分の心のシャッターはすぐ下ろすのに他人のシャッターはこじ開けてくるタイプの浜尾くん。
ちょっと潔癖と思えるほどちゃんとした学生生活を送りたがる岩田さん。
彼らとそっくりな医学生って、本当にいますからね。

4巻 23話 「僕は何番?」より

しかもコミック1巻の冒頭と比べると、みんなどんどん変化していって、今巻の時点ですでに別人のようになっているところがまたリアル。
新しい環境に放り込まれていろんな刺激を受けると、反発を感じたりしながらもちゃんと受け止めて吸収し、次の段階へ上がっていくという生真面目さと情報処理能力を持ち合わせている、

それが医大生のひとつの特長なんですよ。
 
そう、今巻ではいわゆる留年組も出てきますね。
これがまた「いかにも」な雰囲気を醸し出しています。
彼らがこの先果たしてただ学業をサボってしまっている人間として描かれるのか、または彼らなりに医学や医師に対する理想像やイメージと葛藤しているように描かれるのか……。

気になって仕方ありません。

実際に何年も留年する人には、ちょっとした甘えがクセになってしまったタイプがいるかと思えば、武勇伝にしてしまう豪傑タイプもいたり、また家庭の問題など根深い事情を抱えていることもありますから。
学部の1、2年生から見ると彼らは、ちょっと怖くて、近寄りがたい存在かもしれません。

ただ医師になって何年も経ち、ふと辺りを見渡すと、怪しげな留年生だった人がいい仕事をしているのをよく目にします。
長い目で見てキャラクター全員がそれぞれどうなっていくのか、あれこれ想像するだけでも楽しいですよ。
 
今巻にかぎらず、リアルさに驚かされたところを挙げるとすれば、円たちが解剖学の授業を受けるシーンもそうですね。

円はメスを手に初めて人体を切るとき、ものすごく躊躇します。
ですがいったん乗り越えて、皮膚の処理などに入ると、あとは作業だと言って淡々と進めるようになる。
あの気持ち、よくわかります。初めて皮膚を切るときの躊躇は、まさに私も学部生時代に経験しました。
切る瞬間、やはりビクッとしたんです。

『ドクターエッグス』を読むまで、あの感覚は忘れてしまっていました。

2巻 8話 「初めてのメス」より

その流れで、解剖学の授業のときに見た光景もひとつ思い出しました。
解剖を進めていく過程では、臓器を体内から取り出します。
臓器を抜いたあとの人のお腹のなかは、大きな空洞になるんです。
そこを覗き込んでみると、背中側の肋骨が身体のなかにうっすら見えて、
その瞬間もやはりビクッとしました。

自分はなんてことをしているんだろう、と思った記憶があります。

医大生は皆、そうした心の揺れを通過しているはずですが、それらを乗り越えて先に進んでいかないといけない。
なので心が揺れたことなんて、表面的には忘れたフリをしている。
漫画を通してそれらの記憶が蘇ってくるんですよね。

何か大事なことを思い出させてくれるという意味でも、『ドクターエッグス』という作品は貴重な存在です。

■医大生になったのは「成績がよかったから」

バラエティ豊かなキャラクターたちの中で、自分はどのタイプに近いかのか、ですか? 
どうでしょう、私も元医大生ですから、それぞれの面を少しずつ持ち合わせている気はしますけどね。

はじめから明確な目標があったわけではなく、学校の成績がよかったからというのが主な理由で医学部に進学したという点でいえば、私も円とまったく同じです。

ただ実際のところ、そういう医大生はかなりの割合でいるものです。
お互いにそのことを明かすのが「鉄板」のトークネタだったりもします。

 しかも、私は円よりもさらに面の皮が厚いというか。円は入学後にちょっと惑いや疑いを持ちますよね。
腹も据わっていない自分なんかが、医学を目指す場にいて本当にいいんだろうか? などと。

私の場合は、入学してからもそういう迷いを感じることはありませんでした。勉強ができたからここに入ったということを受け入れて、そんな自分がここでできることもあるはずとあっさり信じ込んでいたんです。

私ほど極端に開き直っていないにしても、医大生の多くは
「自分は少なくとも情報処理能力だけは高い」という自負があるように
思います。だから学生生活でも、ストイックにあれこれ突き詰めてしまいがちなんじゃないでしょうか。

今巻でも円は、勉強にアルバイト、部活動や人付き合いもと、生活にいろんなものを詰め込んで、すべてをこなそうとして目が回ってしまいますよね。過剰に自分を追い込んでしまって困惑しつつ、目一杯やっている自分にちょっと酔っているというのも、「医大生あるある」のひとつです。

5巻 32話 「毎日が大車輪」より

作中では円をはじめほとんどの学生が、自分が将来は医師になるだろうとは思っているものの、具体的に医師になる覚悟を持てずにどこか気持ちがフワフワしている状態として描かれていますよね。
そのあたりも自分の学生時代に似ているなと感じます。

そういうところまでとことんリアルで感嘆します。 

そう、現実の医大生も大半は、医師になる覚悟なんてそんなに早くから湧くものじゃありません。浜尾くんなんて典型的ですね、
学部生として良い成績を求めたり、人からの評価を得ることに頭がいっぱい。

じゃあ彼はいつ医師になる自覚を持つのか。
これは私の単なる予想ですが、きっと臨床実習のときなんじゃないでしょうか。
 

実際の患者さんに出会ったり、また先輩の医師が患者さんを診療しているのを見た瞬間、ああ自分はこういう仕事をしていくんだと初めて実感するんじゃないかと思います。 

医師としての専門分野を選ぶときも、そう早いうちから決められるものでもないし、どんな選択をするかは本当にわからない。

案外「サークルの先輩に誘われたから」といった理由で決めていたりするものですよ。
円たちも、それこそ民謡サークルに入るときみたいに、たまたま先輩に勧められて専門を決めたりするのかなと予想していますが、さてこの先彼らはどんな道を歩んでいくことになるのでしょう。
見守っていきたいです。
   

■「やれることをコツコツ」が得意

勤務している病院の業務とは別に、私はツイッターなどでの発信を続けています。なぜそんなことをしているのかと問われれば、大義名分としてはそれも医療の大事な一側面であり、必要なことだと思うからです。

たとえば診察室で医師が患者さんに説明をしますね。
患者さんはお薬をもらって病院を出ると、帰りのバスの中なんかで、医師に言われたことを検索したりするじゃないですか。
そのとき、インターネット上にきちんとした情報があったほうが、患者さんにとってはきっとありがたいですよね。

有益な医療情報を社会に行き渡らせることも、医学の務めであるはず。
私の発信がその一助になればうれしいと思っています。

ただ、最初からそんな医療的使命感に燃えていたというわけはなく、
始めた理由なんて些細なことでした。
たまたま目の前に自分のやれるタスクがあった、
具体的には、発信するとよさそうな知見と発信の手段が手元にあったので、それをコツコツ出していった。

するとたまに「助かったよ、ありがとう」と言ってくれる人も現れて、
うれしくて続けてきたというくらいのことです。

とりあえず与えられたものは全力でやっておかないと気が済まないというか、そうしないと自分がここにいる意味を見失いそうな感覚は、学生時代からずっと続いてますね。

そのあたりはやっぱり円に通ずるものがありそうです。

 かつて医大生活を送ったの先輩として、作中の人物たちに声をかけるとしたら、円には、「浜尾くんに言われたことを覚えておくといいよ」とアドバイスしたいですね。

5巻 32話 「毎日が大車輪!」

ウザいとか考え過ぎだとか、浜尾は円にズバズバと厳しいことを言いますけど、円のような性向の人は、これから先もほうぼうからいろいろ言われるのは避けられない。
そういうことに早めに慣れさせてくれる浜尾くんのことを、ありがたいと思っておいたほうがいいでしょう。

あとこれは余計なお世話かもしれませんが、岩田さんには、ボロボロな恋愛をしそうなタイプだから気をつけてねと声をかけておきたい。
正義感を膨らませる彼女のようなタイプは、人間関係がもつれて傷つくときがきっと訪れる。
あまり深傷を負わないよう注意してほしいです。

 ついアドバイスが具体的になり過ぎましたけど、それもキャラクターたちがあまりにリアルだから。読んでいると、いつも同級生の行く末を見守るような気分になってくるんですよね。

とくに円は主人公だから当然なのでしょうが、一挙一動や心情が丁寧に描かれていて、それを細かく追っていくだけでこちらも楽しい。
彼が他の人とちょっと違うのは、ものごとへの反応の仕方です。

出来事が起きて刺激を受けたとき、彼は即応せず一拍置く。

何か衝撃があると、他の人は自分の持ち合わせの知識や感情に照らしてすぐ驚いたり反発して言い返したりするところ、円の場合はまずじっくりものごとを受け止めているのか、セリフもなく表情も読みとりづらいひとコマが差し挟まれます。

即答せずしばし保留してくれるからこそ、読む側の私からすると、医学生時代の思い出をその隙間に代入して、「自分だったらどう感じただろう?」と考える余地ができてうれしい。

よりそのシーンを味わうことができるんです。

相手を自分の間合いに引き入れてしまえるのが、円の特性ですね。
だから彼はモテるんだと思う。
なんだか西川さんともすんなり仲良くなるじゃないですか。

パッと見は冴えなさそうな円がなんで? 
と思う人もいるかもしれませんが、私は彼がモテることに納得がいきますよ。

 細やかな描写で私がグッときたシーンをもうひとつ挙げさせていただくと、円が帰省したときのエピソードもよかった。

かつてそこで受験勉強をした実家の自室に夕陽がさしているのを見て、円はもう「自分の居場所はここじゃない」と感じます。
それで山形の下宿先に帰ると、いま住んでいる殺風景な部屋のほうが落ち着くと気づく。

4巻 25話 「故郷は遠くにありて」

ここに親や家族に対する、円なりのごくささやかな反抗期の訪れが表れているのかなと思います。
これまで親に対して反抗期らしい顔を一切見せていなかった円が、すこしだけ自立し成長したことによって、親や家族にほんのちょっと心理的な距離を置こうとする。

ひじょうに美しいシーンだと感銘を受けた次第です。

引き続き、円たちの奮闘ぶりを追っていきたいですね。大いに心揺さぶられる展開を楽しみにしています。

〈完〉 
 

Dr.Eggs ドクターエッグス 5巻 好評発売中

あらすじ
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取材/執筆 山内 宏泰


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