沈む

「潜水艦は沈むとは言わないらしいよ。」

 駅前のマクドナルド、時計の針は17時を過ぎようとしている。どこかで会おうかなんて約束をするけど結局の所ファーストフードだったりファミレスだったりに落ち着いて、ひたすらに時間が来るまでだべったりして、でもそれが良かったりもする。

「へぇ、じゃあ何て言うのが正しいの?沈没?」

「いや、それじゃあ沈むと一緒じゃん。」

 彼は笑いながら優しい目で私を見ている。私は彼のこの目にやられてしまったのだ。ただこの友達という関係においてこの感情は多分余計なものだというのは薄々気が付いていた…いや、気が付かないフリをしていた。

「じゃあ何て言うのー?」

「潜るだって、沈むっていう言葉は敵に打ち取られた時にしか使わないらしいよ。」

「へ〜たしかに"潜"水艦って言ってるもんね。」

 他愛もない話。そろそろ終わりの時間だ。

「そろそろバイトの時間だわ。帰ろうか。」

 彼はiPhoneのロック画面に映る時刻を確認してそう言った。

「そうだね、バイト頑張って。」

「うん、ありがとう、また連絡する。」

空のコーヒーカップ2つとLサイズのポテトのゴミを捨てて私達は店を出た、ビルの合間を抜ける風が冷たい。

「もうそろそろ夕日が街に"潜り"そうだね。」

 私がそう言うと彼はニコッと私に向かって微笑んだ。

 私は彼という沼にもうとっくのとっくの昔に深く深く沈んでしまっていた。

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