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ショパンの手紙、可愛い♡を集めました

「ピアノの詩人」フリデリク・ショパン(1810~1849)
手紙に関する前回の記事「ショパンの手紙催促・文句集めました」で、ショパンの自由人さを見つめてみたので、今回は視点を変えて、「かわいいな」と思えるような部分を1825年~1827年の書簡の中から血眼になって探した。

今回も、ショパンはおろか、クラシック音楽の知識は全く必要ないので、気軽に読んでみていただきたい。
なお、訳の他に、「いいね!」を添えて解説を試みた。


1825年9月
ヤン・マトゥシンスキ宛(最後の部分)

もうほんとに君に会いたいよ。想像上では君と毎日会ってるけど、今現実に君に会うためなら僕、2週間は弾かないと誓える。
この手紙、見せないでね。恥ずかしいから。

いいね!
 「想像上では毎日会ってる」とかちょっと重たいことを言っているので手紙の受取人のヤンはどう思ったか知らないが、今会えるのなら、大好きなピアノを2週間弾かなくてもいいと健気な様子はかわいらしい。重いけど。
 そしてすまない、今やこの手紙はポーランドだけでなくあらゆる言語で読めてしまうんだ、本当にすまない…。

1825年9月[29日?]
ヤン・ビャウォブウォツキ宛(最初と最後の部分)

親愛なる、大好きなヤショ!君の手紙にスゴク、スッゴーク、スゴキッシモ、大喜び。読み終えたそばから、ソコウォーヴォのこと、あの日曜日のこと、パンタリオン、あのリンゴのこと…などなど、そんな感じで楽しく過ごしたひと時を思い出したよ。でも、君に手紙を届けなかったシャファルニャに帰って来るコッチュ[半分屋根のある2頭もしくは4頭立ての馬車] のせいで、僕の長い沈黙にあきれてるだろうと思うと…スゴク、スッゴーク、スゴキッシモ、ごめん。
(略)
封筒すら作ってない、その辺にあるものだけで…オピッツ[ショパン家の寄宿生]の手紙のを取っちゃおう、急いでるし!この封筒でいきたいんだけど…残念、短すぎるな、手紙の端っこを切ってもみたけど、何の役にも立たない。

いいね!
 「とても」という意味の言葉を比較級のように活用させて、最上の喜びを表現するところが良い。嬉しい気持ちと謝罪の言葉の前に同じ表現を使っているところも素晴らしい。
 そしてラスト、人の手紙の封筒(おそらくオピッツ宛のものだろうと思うが…)を拝借して自分の手紙を入れようとするも入らず、手紙を切るという強硬手段に出たものの結局ダメだったことによって、ショパンへの愛おしさが増す気がする。オチのような話だが、なんとこの手紙、ショパンが切ってしまったことが原因で日付が確認できない(特定したのは研究者である)。

1826年8月18日
ヴィルヘルム・コルベルク宛(最後の部分)

くだらないことをむやみに書き散らしてしまった…君はこの時間を何か他のことに使いたかったかもしれない!

いいね!
 引用部分はとても短いが、自虐的でかわいい。ショパンが療養先のライネルツでの出来事などについてあれこれ書いた後にこう書いているのだ。この手紙の途中でも、ライネルツの状況をよく知らないヴィルヘルムに気を遣っているらしい文章もある。勝手気ままなのかと思いきや、こんな一面もあるのかと微笑ましく思う一文。

1827年7月6日
ワルシャワの家族宛(最後の部分)

でも、一番面白いのは、窓の下で、やかましく歌ってるクロウタドリ[ツグミ属の鳥]。で、クロウタドリの次は、ズボインスキさんの一番下のカミルカちゃん。まだ2歳にもなってない。僕になついていて、「かぎら、おにーちゃんだいしゅき」っておしゃべりするんだ。
彼女と同じように、僕もパパとママ、ママとパパ、だいしゅき。
敬愛の気持ちをもって、御手と御足に10億回のキスを。

いいね!
 カミルカは、ショパンがこの手紙を出した時に滞在していた地の領主の娘、カミラの愛称。彼女のセリフが「かぎら」になっているのは、まだ言葉が拙い様子をショパンが上手く表現している。
 後半の「だいしゅき」にあたる部分の動詞が、どう調べても出て来なかったのだが(おそらく、幼い子供が発する不正確な言葉を文字にしたものか、幼児語か…)、この部分がぶっちぎりで可愛いので、諦めきれず『ショパン全書簡』を参考にさせていただいた。最後に突然落ち着き払って結ぶのも小気味よい。ショパン17歳、可愛さも突き抜けているのがわかる珠玉の一通。

[]は筆者の補足


さいごに
お楽しみいただけただろうか。10代のショパンの手紙は、思わず笑ってしまうような部分も少なくない。ショパン少年の魅力が満載だ。
ショパンが偉大な音楽家であることを否定するつもりは全くないが、その前に、私は「人間ショパン」が大好きなのである。ショパンという人間の魅力をまだ知らない誰かに伝わるのなら、『この手紙、見せないでね。恥ずかしいから。』というショパンの言葉に感じるほんの僅かな罪悪感も振り払って私は発信し続けたい。

せんでん
ショパンについての同人誌「すみれ」を発行しています。(2020年5月現在第2号まで発行済)手紙についての連載もあります!
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参考文献
ゾフィア・ヘルマン、ズビグニェフ・スコヴロン、ハンナ・ヴルブレフスカ=ストラウス著、関口時正、重川真紀、平岩理恵、西田論子訳(2012)『ショパン全書簡 1816~1831 ポーランド時代』、岩波書店

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