あかりのアプリ
内容紹介
『あかりのアプリ』【シナリオ形式】
アカシックレコード。それは全宇宙の過去からの全情報が記録されたデータバンク。全宇宙の生命活動の〝結果〟であると同時に〝原因〟でもある。前世を含めた過去から、思考した全てのことは、波動となって、宇宙にホログラムのように記録されている。と同時に、その記録されたデータをもとに、現在の宇宙、個々の生命は機能している……。
明石あかりのケータイショップでは、赤い栗鼠のマークがついた特殊なスマートフォン『あかりs』を販売している。そのスマホに搭載されている『あかりのアプリ』は、
〝アカシックレコードを操作する〟ことができる!
〝過去を書き換える〟ことができる!
その『あかりのアプリ』を手にした者は……。
あかりのアプリ 3(2/2)
○ 料理教室
赤い目をした裕美に裕子が声をかける。
裕子「あら? どうしたの?」
裕美「? 先生。すみません。久しぶりにリ
ングを観てたらはまっちゃって、らせんと
呪怨まで観ちゃって」
裕子「え?(笑い)いい趣味ね。好きなの?」
裕美「ええ、もう! あ? 先生、上々颱風
て知りませんか? 復活ライブがあるんで
すけど、一緒に行きませんか?」
裕子M「(ニヤリとして)いける」
○ 病院・検査室
裕子――CTスキャンされている。
○ 同・カンファレンスルーム
医師と向き合う裕子。
裕子「もうこんなの意味ないですし。お薬だ
けいただけませんか?」
医師「――」
裕子M「(微笑んで)急がなきゃ」
○ 裕子の自宅(夜)
あかりsを操作している裕子。
アプリで質問する。
その画面――「子供は好きか?」。
質問を送信する。と、回答が返る。
その画面――「嫌い」。
裕子「嘘!?」
アプリで好みの男性を質問する。
回答――「レズビアン」。
裕子「まさか!?」
裕子、アプリでアカシックレコードを
書き換える。その画面「アカシックリ
ライト 子供好き。好みのタイプの男
性は片岡浩司」。
裕子「――」
書き足す。「彼とは高校時代の同級生。
ずっと片思いだった」
○ 刑務所・入口
裕子が入って来る。
裕美の声「先生?」
裕子が振り向き、裕美を見て驚く。
裕子「裕美さん? どうしてここに?」
裕美「先生こそ――実は高校の同級生がここ
にいることが分かって――片岡君がそんな
ことするはずがないんです!――あれ?
ひょっとして片岡君って――先生?」
裕子「――(微笑んで)裕美さん、2人で一
緒に面会に行きましょう」
裕子と裕美、中に入って行く。
裕子M「凄い! これなら上手くいくかも!」
○ 同・面会室
裕子、裕美、そして浩司が話している。
浩司「へー。あのヒロちゃんがIT社長け!
ごっつう、かっちょええやんけ!」
裕子「え!? 何で関西弁!?」
浩司「おっと、(裕子に)こっち(裕美を指
して)もヒロちゃんて呼んどってん。ヒロ
ちゃん1号、2号やな(笑う)」
裕子M「私が2号!? 何、笑ってるの!?」
○ 走る裕子
○ 「あかりのお店」店内
あかりに食い下がる裕子。
裕子「いったいどうなってるんですか!?」
あかり「――分かりました。調べてみます」
あかり、パソコンに向き合い、操作し
始める。
裕子「――」
あかり「お客様、豊崎裕美さんのアカシック
レコードを書き換えられましたね? 彼女
が――ご主人と高校の同級生だったと」
裕子「はい」
あかり「彼女は大阪出身ですから――ご主人
も同じく大阪出身に変ってます。ですから」
裕子「ええ!? それって!?」
あかり「最初にご説明しましたように、アカ
シックレコードをリライトしちゃった訳で
すから」
裕子「?」
あかり「宇宙の全ての生命はつながっている
のですから。データの書き換えは一部に止
まらないのです。全体の整合性がとれるよ
うに、それと関連する部分も連動して変っ
ちゃうんです。ですから」
裕子「――」
○ 道(夜)
裕子が歩いている。
裕子M「私と出会ったのは浩ちゃんが国交省
に入省してから。豊崎裕美の方が先だった
から2号? 何? 同じ呼び方をしたの?
親も友達もヒロコちゃんってフルで呼んで
たのよ。オリジナルだと思ってたから私は」
裕子、急に蹲る。苦痛に満ちた顔。
鞄から取り出した薬。それをペットボ
トルの水で飲む。
裕子「――」
○ 裕子の自宅(夜)
裕子、大我と食事している。
大我「美味しい!」
大我の笑顔!
裕子M「(微笑)――一時の感情にとらわれ
て、大事なことを忘れてはならない。大我
は――そう、大我はオンリーワン。1号も
2号も無いわ。オンリーワンが大切なんだ。
オンリーワンだけが永遠なんだから」
○ 動物園・入口(朝)
裕子と大我が「ヒロちゃん!」と手を
振りながら小走りで来る。
裕美が笑顔で待っている。
大我「ヒロちゃん、おはよう」
裕美「おはよう。大我君、好きね。また虎さ
ん?」
大我「僕、タイガー。ガオーッ!!」
裕子M「本当は浩ちゃんが哲学的な意味で名
前をつけたのに、タイガースファンだから
という理由に変ってしまった」
3人、園内に入って行く。
裕子M「アカシックリライトのハレーション
は怖いけどやめられない。本当は初めてな
のに、もう既に5回もここに来ていること
になっている」
○ 同・園内(朝)
ゆっくりと見て回る3人。
裕子M「ヒロちゃんのアカシックレコードを
〝大我から好かれている〟と受動型リライ
ト――うん。これでいい。これでいいのよ」
大我、虎の前で仕草を真似ている。
裕子M「ただヒロちゃんの座を譲ったことに
はまだ苦痛が残っている。病気よりきつい。
時薬しか――来世まで待つしかないの?」
× × ×
3人、ベンチに座り、弁当を広げる。
大我「うわ! 凄い。ヒロちゃん、天才だね」
裕美「嬉しい! ね、たくさん食べてね」
大我「うん!」
裕子「――」
3人、美味しく食べている。
裕子M「これで大丈夫。でもこの人に出来る
かしら? 私と浩ちゃんの様な〝超・絆〝」
× × ×
水族館内を見て回る3人。
裕子M「超・絆は想い出の二乗に比例するの」
○ 裕子の自宅(夜)
あかりsを操作している裕子。
その画面「アカシックリライト」。
裕子M「私たちにデートらしいデートはなか
った」
○ 回想・派遣村
大勢の労働者を前に、巨大な鍋でカレ
ーを作っている裕子(22)。
それを皿に入れて労働者たちに配る浩
司(27)。
裕子M「なぜかいつも行ったボランティア先
で会った。派遣村や仮設住宅や」
○ 回想・体育館
裕子(24)と浩司(29)が汚れた顔の
まま被災者たちにおでんを配って回っ
ている。
裕子M「そんな所だからおしゃれなんか出来
ないし、どこに行っても人がいっぱいで二
人きりになんかなれなかった」
○ 回想・走るバス
裕子M「いつから付き合ってるのかも分から
なかった」
○ 回想・同・車中
豪快に寝崩れている裕子と浩司。
裕子M「なのに一度だけ浩司ちゃんは私を旅
行に連れて行ってくれた」
○ 回想・皆既日食
裕子M「イースター島で二人で見たあの皆既
日食だけは死んでも忘れない。これだけは
私たち二人だけの思い出なんだから」
後から月を包むような太陽。
ダイヤモンドリング。同じように――
裕子(23)――を浩司(28)が後から
抱きしめる。
○ 刑務所・面会場所
裕子、裕美、浩司が歓談している。
浩司「あの地震から5年になるんやもんな」
裕美「うん。でも面白いね。浩ちゃんと私、
もう随分長い付き合いなのに一緒にボラン
ティアに行った想い出しかないなんて」
裕子「――」
浩司「B1チャンピオンに出たやないか」
裕美「浩ちゃんが、俺はバランカリーの甘口
で育ったんや、ボンボンやて言うから。そ
れでレモンと醤油を混ぜて作った新感覚ス
イーツなんやから」
裕子M「やり過ぎた」
浩司「アイデア賞や。たいしたもんや」
裕美「浩ちゃんが手伝ってくれたお陰やわ」
裕子M「違う! 私や! B1なんかどうで
もいい。私が浩ちゃんのために作ったの!」
微笑み合う浩司と裕美。
それを見て戸惑う裕子。
○ 裕子の自宅(夜)
あかりs――裕子が操作している。
その画面――「アカシックリライト
豊崎裕美は片岡浩司とは会ったことも
無い 何も知らない 大我からも嫌わ
れている ただのレズビアン 料理も
下手くそ」
裕子「――(苦痛に顔が歪む)」
裕子、床に伏せぶって悲鳴をあげる。
○ 「あかりのお店」店内
パソコンのアラーム音が響く。
あかり、そのアラームに気づいて、パソ
コンの方を振り向く。
その画面――「あかりs回収 場所:
北緯35度32分31秒 東経139
度26分44秒」。
あかり「――」
○ 東京郊外の住宅街
○ 一戸建住宅
庭で浩司(34)と裕美(34)、そして
大我(4)が小さなブランコで遊んで
いる。
その隣の家に引越車と自家用車が来て
止まる。
自家用車から中年夫婦降りて来る。
妻のお腹が大きい。
それに気づいて、大我が夫婦のもとに
駆け寄る。浩司と裕美も歩み寄ると、
その夫婦に会釈する。
夫 「はじめまして。榊原と申します。隣に
引越して来ました。よろしくお願いします」
浩司「こちらこそ」
裕美「片岡です(榊原妻のお腹に気づいて)
おめでたですか?」
榊原妻「ええ。まだ、どっちか分からないん
ですけど」
大我「女の子だよ」
榊原妻「え?」
大我「ありがとう」
榊原妻「ええ?」
榊原の車から榊原老婦人が降りて来る。
老婦人「? 坊や――どこかで会ってないか
しら?」
大我「会いたいと思ってたらまた会えるんだ
よ。ね!」
大我が微笑む視線の先――榊原妻の大
きなお腹。
― 終わり ―
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