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誰がルールブックだ!

内容紹介
『誰がルールブックだ!』【シナリオ形式】(400字×25枚)

もし「決められない自分」に決断の時が訪れたら?

そんなストーリーをテラってみました!

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誰がルールブックだ!_page-0001

○ 野球場(夜)

   プロ野球・東京ジャンプVSハイサイ沖
   縄戦のナイトゲーム。東京の攻撃。
   カウント表示は2ボール、2ストライ
   ク、2アウトで、走者満塁。
   投手の足が上がり(同時に走者はダッ
   シュする)、投球する。
   と、打者は見送り、捕手が捕球する。
   凝視する主審=平田平(30)。
   選手も観客も息を飲んで判定を待つ。

平田「……ボール」

   場内から溜息が漏れる。
   スタンドでは観客が駆けつけて、「や
   っと来たか」「もう、すっごい緊迫し
   てんじゃん」「まだ1回裏だよ」「え
   ぇっ!?」という会話をしている。
   投手の足が上がり、投球する。
   と、打者は見送り、捕手が捕球する。
   固まっている主審=平田。
   スタンドから野次が飛ぶ。
   「おい審判! 決ったら電話くれ!」

平田「……ボール」

   沖縄ベンチから監督が「平田!」と飛
   び出そうとするが、周りが抑える。
   平田、マスクを外して、振り向く。

○ タイトル

○ 野球場外(夜)

   観客が帰って行く。「まだ電車あっか
   ?」「何で3対1の試合がこんな長い
   んだよ」と、ぼやきながら。

○ 審判員控室(夜)

   平田が手帳に目を通しているところへ、
   審判部長が入って来る。

審判部長「平田」

平田「(振り向き)はい……審判部長?」

部長「いい物をあげよう」

   と、差し出した本『プロ野球審判にな
   りたい人のために』。

平田「あ、ありがとうございます。甥っ子が、
 僕みたいになれるかなって言うんですよ」

部長「22ページには何と書いている?」

平田「(本を開いて)…プロ野球審判員適正
 診断……すばやい決断をすることが出来る
 ……悩み込まない……」

部長「なぜ投手戦が4時間もかかるんだ!!」

平田「(ビクッとして)!?」

部長「全日本代表クラスのエース対決だぞ!?」

平田「はぁ……2人ともコントロールいいか
 らコースぎりぎりいっぱいに投げてるし」

部長「バカ野郎!! 今度、主審で……」

○ 安居酒屋・外観(夜)

純子(オフ・先行)「そら、遂にクビやな」

平田(オフ・先行)「恐ろしいこと言うなよ、
 柏原。ただ……一寸、警告ってだけだよ」

○ 同・店内(夜)

   平田と柏原純子(30)が飲んでいる。

純子「私のコーチングで唯一失敗したん、あ
 んたやから。6年とき」

平田「コーチング? イジメとの違いが分ん
 ねぇくせに……頭に水なんかかけやがって」

純子「あー! 何であんたなんか児童会長に
 推したんやろな! お母ちゃんに帰り遅い
 て怒られるし!」

平田「あの時は……ど、どうかなぁ……」

純子「出た。ど、どうかなぁ…今日もジャン
 プの原田君、3本もホームラン打ったやろ。
 私やで、彼のメンタルコーチ」

平田「はいはい。柏原さんには負けます」

純子「ほんで何? 何で暫く試合休むん?」

平田「うん……裁判員が当っちゃったんだよ」

純子「裁判員!? ストライクかボールかに4
 時間も5時間もかかるあんたが、有罪か無
 罪かやて!?(大笑い)」

平田「そんなにかかんねぇよ」

純子「(笑いながら)そう。節電のためにも
 今年いっぱい休んだ方がええわ」

平田「冗談じゃない。裁判は平日だけだから、
 土日は塁審で出るよ」

純子「えらい裁判なるで。私が被告人やった
 ら、もうええ! 死刑にしてくれ! ヤケ
 クソや! て言うたるで!」

平田「柏原、しまいには退場さすよ?」

○ 裁判所・外観

○ 法廷

   平田が裁判員席の左端に座っている。
   右へ順に、中野豊子裁判員(62)、植
   松春樹裁判員(22)、右陪席裁判官、
   裁判長、左陪席裁判官、岡本智美裁判
   員(42)、山内納裁判員(45)、大町
   幸子裁判員(26)。
   証人席には被告人=江川真澄(30)。

江川「死刑になりたい…なりたかったんだよ」

   一同、「!?」となる。

江川「(裁判員達に)あんた達の中には居る
 んじゃないの? 俺の気持ちの分かる奴。
 職業法律家じゃない、あんた達の中にはよ」

○ 評議室・入口

○ 評議室・室内

   裁判官、裁判員達が入って来る。

幸子「(平田に)あの、平田平さんですよね、
 プロ野球審判の。私、大ファンなんです!」

平田「え?」

幸子「平田さんのジェスチャー(真似て見せ)
 が大好きで。審判ファンの仲間とよく球場
 にも応援に行くんですよ!」

平田「審判ファン?」

幸子「はい! 審判員の応援に行くんです!
 あと公式記録員さんとか。審判ファンの応
 援サイトも作って運営してるんですよ」

平田「そんなのがあるんですか」

幸子「平田さんのデータも詳しく載せてるん
 ですよ。平田さん、まだビッグゲームは出
 たことないんですよね。かっこいいのに」

平田「いえ」

幸子「オールスター、審判もファン投票にす
 ればいいのに。だったら私、投票しちゃう
 んだけどなぁー」

山内「へー。プロ野球の審判。じゃ、ジャッ
 ジはお手の物だな」

   ――右陪席、裁判長、左陪席、全裁判
   員がテーブルを囲んでいる。

裁判長「今回、被告人は起訴事実を認めてい
 ますから、もしそれが事実であるならば、
 あと争点は、殺意が本当にあったのかどう
 か、ということですね」

智美「殺意……あんなか弱い子供を殺しちゃ
 ったんだもんね」

山内「殺意があったのかどうか、故意だった
 のかどうか、心の中なんか、物的証拠から
 じゃ分かんねぇよ」

幸子「心の中か……?(平田に)野球で故意
 の落球とかって、どこで判断するんですか
 ?」

平田「……ど、どうかなぁ……」

   沈黙。

平田「……故意かどうか……グラブのどこに
 当てたか、とか状況によって変ります」

幸子「そ、そりゃそうですよね……」

   一同、深い溜息をつく。

豊子「……被告が公園にいたら、ボールが飛
 んで来て、当った」

智美「……拾ってやったら子供が生意気だっ
 た……だから両手で子供の頭を掴んだ」

幸子「……そして衝動的にその子供の頭を思
 いっ切り捻り回して……首の骨を折った」

植松「被告はその公園に時々来ていて、被害
 者と一緒に遊んでいた子供や近くで見てい
 た大人は前から被告の顔を見て知っていた」

智美「あのぉ……」

   一同、「?」となる。

智美「被告人は今日になって、一転して殺意
 を認めたわけですけど、それは今日になっ
 て私達が加わったからですよね?」

豊子「あ……そうね」

智美「……あんた達の中には居るんじゃない
 の? 俺の気持ちの分かる奴が。職業法律
 家じゃない、あんた達の中には、て……」

豊子「うん。あれ、どういう意味だったんで
 しょうね?」

幸子「それって、プロの裁判官じゃない、私
 達素人の裁判員だから話したってこと?」

○ 安居酒屋・店内(夜)

   平田と純子が飲んでいる。

純子「それ、喋ってええのん?」

平田「別に。友達だろ」

純子「その友達は大スターに喋ってしまうか
 も知れへんで」

平田「え?」

純子「東京ジャンプの原田慶彦。ただ今7試
 合連続ホームラン。明日も明後日も打った
 ら日本タイ記録。で、食事に付き合えって」

平田「へー」

純子「……私の食べたい物、何でもOKやて。
 予算1億円のごはん」

平田「彼のバットコントロール、凄いからね」

純子「……彼のバットコントロール、効けへ
 んらしいで。もう一つの方。日本新記録な
 んか出たら……たいへんなことになりそう」

平田「……ど、どうかなぁ……」

純子「どう、て?」

平田「……だから……それが故意なのかどう
 か」

純子「恋なのかどうか? 決ってるやんか!
 あの手の男はいつも衝動的で、自分のこと
 は抑えられへんのや!」

平田「衝動的? か弱い相手なのに」

純子「(意外そうに驚いて)か弱い? ……
 か弱いって……あんた、そんな風に思てた
 ん?」

平田「そりゃそうさ。俺はよく見てるよ。だ
 からよく本当のことが分かるんだ」

純子「(嬉しそうに)そう? 良く見てくれ
 てたんや……」

平田「あの被告の顔……俺はどんなことも見
 逃さない。プロの審判はダテじゃない」

純子「あん?」

平田「(ニヤけて)裁判員に審判のファンだ
 っていう可愛い女の子がいてさ、審判を応
 援するファンのサイト作ってるんだよ」

純子「(不機嫌な顔になり)……」

平田「俺のこと、ミスジャッジが少ないから
 選手や監督からの抗議も少ないって」

純子「(怒って)アホらしい! 抗議が少な
 いんはあれ以上試合が長くなるんが嫌や
 からせぇへんだけや! アホちゃう!」

   純子、思いっきりビールを飲む。

平田「?」


      ― つづく ―


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