IT教室講師学習会資料

※2017年8月時点の記録。

1. ユーザーの立場

(1)自身の日常生活におけるスマートフォンの活用状況

2009年に iPhone3GS が発売され、日本語ボイスオーバーに対応したという情報を知り合いから得ました。当時、らくらくホンを使っていた私は携帯でメールを打つのが苦手で、点キーの文字の配列を毎回思い浮かべながら入力していました。そのため、ほとんどメールを書かずパソコンを使っていました。パソコンが得意だったというのもあったからと思いますが…。
一方、日常的に音楽を聴くのが好きで当時はMP3プレイヤーを持ち歩いていました。日本語ボイスオーバーが文字入力時にどのくらい使えるかは期待していませんでしたが、メールはパソコンで代替えできるし音楽を楽しむためのツールとして iPhone3GS を持つのもありだと考えました。iPhoneが全盲の自分にも使えるという情報をきいて、正直なところどの程度使える物かは未知数でしたが購入に踏み切りました。
iPhone ユーザーは周囲に見える人でもほとんどいなかったので、購入後1ヶ月半は仕事から帰ってきてから試行錯誤の日々でした。画面を触れると読み上げるだけでなく、いろいろなサイン音で状況を知らせてくれる仕組みがあるんだなとか、指のジェスチャーを組み合わせれば音楽の再生と一次停止も簡単にできるんだなとか…。
ちなみに、当時はボイスオーバーの4本指ダブルタップで実行できるヘルプモードもなかったため、すべてが創意工夫でした。また、ボイスオーバーの漢字の読み下しは所々おかしく、文字入力も Windows のスクリーンリーダー環境のようには適切に読み上げなかったので、ほぼ勘で入力していました。Siriもない時代のことです。電話を掛けたりやメールを読んだり音楽を聴いたりはできていたので、とりあえずは満足していました。
その後、2012年に iOS6 が発表され、文字の説明読み(漢字の詳細読み)ができるようになりました。日本の視覚障害者に革命をもたらしたと考えます。アップル本社のアクセシビリティーチームや当時の学位の取得のため通っていた東京女子大学小田研究室に関連会社のつながりがあり比較的要望が伝えやすかったのはありましたが、最終的には英語でのレポートを書いて毎回アップルに電子メール等で提出していました。少し大変でした。おそらく、当時から iPhone を使っている日本の視覚障害者の数名は、私と同じようにフィードバックしていたと思いますが、各自にエスカレーションしていたため、私以外の状況は十分には把握できていません。
iOS の日本語ボイスオーバー環境が充実してくる一方、ボイスオーバーそのものの使い勝手は改善されることもあれば操作性が後退す場合ともあり、その都度フィードバックを繰り返していました。その頃からは主催している「アップル・アクセシビリティー・メーリングリスト」でも不具合報告が投稿されるようになり、沢山の方々がメーカーへ要望を伝えてくださるようになりました。これまではほぼ一人でそんなことをしていましたので大変ありがたかったです。加えて、siriで使用されている音声エンジンの読み上げの改良と共にボイスオーバーの読み上げも改良されるようになり、2017年現在は Windows スクリーンリーダーと同等あるいはそれ以上の聞きやすく読み間違えのないスクリーンリーダー環境が整ったと感じています。
現在のスマホ使用はもっぱら iPhone です。一時期アンドロイドにも興味を持った時期がありましたがいろいろと使ってみて評価した結果、安定性、スクリーンリーダー環境における操作性、デザイン性で結局乗り換えていません。 iPhone がなくては生活できないくらいに…。
仕事でもプライベートでも活用しているのは、電話、メールチェック、SNS、音楽、ラジオ、読書、スケジュール管理です。電話とメールとSNSは連絡手段として利用しています。最近は、電話を受けたり掛けたりするのがめっきり減ってきており両親とのホットラインになっています。その変わり、ラインの無料通話やメッセンジャーの通話機能を活用しています。フェイスブックは近況報告のツールとして活用しています。あちこちに知り合いがおり、点字図書館つながり、趣味のマラソンつながり、日盲連つながりなど多岐に渡るため、その関係のある近況についてはフェイスブックにしています。
音楽とラジオが好きです。音楽は、家にいる間は iPhone を AirPlay で外付けスピーカーでガンガン再生させています。手元の iPhone でボイスオーバー環境で曲名を確認できたり、アップルミュージックであれば歌詞を表示できたり、字分でプレイリストを作成して気分や時間帯で聴く音楽を切り替えたり…いろいろと活用しています。ラジオは、予めパソコンでラジオを予約録音しておき後で iPhone で倍速再生させて聴いています。また、読書についてはキンドルアプリとボイスオブデイジーを適宜使い分けています。スケジュール管理については仕事の予定とマラソンの予定を日々記録して家でも職場でもチェックできるようにしています。趣味のマラソンでは毎回の走行距離の記録にも使っています。

(2)iOS、アンドロイド、らくらくスマホの比較

対応状況の比較
スクリーンリーダ iOS アンドロイド らくらくスマホ
標準日本語 ○ × ○
音色の選択 ○ ○ ×

機能の5段階評価
  iOS アンドロイド らくらくスマホ
聞きやすさ 4 4 4
安定性 5 3 4
カスタマイズ性 5 4 1
操作性 5 3 4
文字入力のしやすさ 4 3 1
標準アプリへの対応 5 3 5

2. 支援者の立場

Q1. 画面の視認ができない視覚障害者に取って、タッチパネル状の操作(特に文字入力)への適応には越えなければならないハードルがあります。その上で、重度の視覚障害者にとってのスマートフォンのメリットをどのように捉えていらっしゃいますか?

A1. 目が見えない=タッチ操作がしにくいという固定概念は従来より視覚障害業界において持たれていますが、肝心のはタッチ操作をいかに視覚障害があっても使いやすくするかです。確かに、最初の敷居は高い部分がありますが、ボイスオーバーの場合は左右のフリックジェスチャーを使えば画面の構造を理解していなくとも順番に項目をたどっていくことが可能です。タッチそのものは、見えていても最初は敷居が高いものです。駅の券売機でタッチパネル方式が導入されたとき、その前であたふたしている方をよく見かけました。そのような状況と同じです。画面にタッチする感覚を習得できるまでに時間は数週間~数ヶ月かかるかもしれませんが、日々使っていくうちに慣れるものと考えます。その上でスマホのメリットは電話とメールだけではなく、パソコンと同じことができ、さらに音楽やラジオなどが楽しめたり、視覚障害があってもその場で写真をとってSNSに投稿したり、カメラ機能を使って文字や色や物を認識して読み上げさせることができたりと生活の幅が広がっていきます。慣れるまではボイスオーバーのヘルプモードや「使い方教室」アプリを利用するのもありです。(資料1参照)

Q2. タッチパネル状の操作(特に文字入力)の適応がなかなか難しい人をどのように支援していらっしゃいますか?

A2. 普段指導する方々の多くが年配の方々です。多くの方が中途失明者で、あまり指で触れることに慣れていません。文字入力においては、1オン指ダブルタップを使って iPad であれば日本語の五十音配列を使って入力していただいたり、iPhone はパソコン経験者にはローマ字入力、ガラケーでの点キー入力に慣れている人には仮名入力を最初に指導しています。しかしながら、ダブルタップをするとき2回目のタップで指先がずれてしまい失敗するケースがあり、そのような人にはスプリットタップを勧めます。時間はトータルで16時間ほどはかかります。根気で続けていただいています。結局はパソコンと同じですが、自宅でも毎日触れているかそうでないかで大分差がついてきます。

Q3. フィーチャーフォンかスマートフォンのどちらを選択すべきかアドバイスを求められたとき、考慮すべきポイントをどのように伝えていらっしゃいますか?

A3. 本人が何をしたいかを丁寧に話を聞くようにしています。電話とメール用途だったら従来のガラケーで十分ですし、支払い金額を抑えたいだけでも同様です。また、ガラケーは今後入手しにくくなり必然的にスマホが選択肢となっていくことでしょう。らくらくホンは販売が継続されており、まだ使い続けられますので無理のない範囲で選択肢の幅を設けます。次に、iOSかアンドロイドからくらくスマホかになってくるわけですが、上述の比較を通して私からは iPhone をすすめさせていただいています。

Q4. 最近のスマートフォン活用の動向から感じていらっしゃることは?今後の発展についての予想も合わせてお聞かせください

A4. 一般的にも iPhone を使う人が多く、日本ではアップルの独占状態ですが、それは選ばれる理由があるのだろうと思います。見える人達から聞くのはアンドロイドスマホを使っていたが不安定でiPhoneに替えたとか、ケースが沢山選べるので切り替えたなどです。
スマホは今後も個々人が持つ端末としてさらに定着していき、スマホであらゆる家電機器を操作できるようになっていくと考えます。すでに実用化されている部分もありますが、スマホでエアコンを操作したり、冷蔵庫の中をチェックしたり、部屋の照明を調整したり…。
一方、ナビはGPSについて国の実証実験も進んでおり、さらに精度が向上し2020オリパラの頃には数メートル単位の誤差を検知できるよううなると予測しています。そうなれば、視覚障害者が単独歩行で町歩きができる可能性がさらに広がります。
メーカーが力を注いでいる部分は画像解析と音声処理の向上でしょうか。画像処理は今後スマホのカメラでもより高精細な写真が撮れるようになり、また認識技術により撮影した写真の細かな人や動物の動作や表情、物の名称を文字に置き換え可能になっていくものと思います。音声技術は、GoogleをはじめアップルやNTTなど音声認識技術を競っています。方言も認識できるようになっていくと考えます。合成音声はすでに一定の答えを導いていますが、ここも言語固有の方言をどこまで取り入れるかが鍵となっていきそうです。

以上

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