見出し画像

2013年ブラジル・ディスク大賞関係者投票(yamabra archive)

2013年度のブラジルディスク大賞、関係者投票に選んだアルバムです。2004年から2021年度まで、徐々に試聴リンクをつけてアーカイブしています。アルバムごとに、その当時ブログに掲載した紹介コメントも付します。こうやって毎年毎年選んだアルバムを見ていると僕自身の嗜好、そしてブラジル音楽全体の傾向の変化も感じます。この年くらいから新世代ミナスのアーティストのアルバムが増えていきます。

総評:

1、圧倒的で野心的な音を創造した若き才能。2、毛並みの良さばかりではない芳醇な音楽性。3、柔かな陽射しのようなナチュラルで成熟した歌声。4、色彩感豊かで壮大な音像。5、サンパウロ的ジャズ・サンバ。洗練の極み。6、叙情溢れる旋律と高品質なサウンド。7、ファン感涙。ほぼ弾き語りによるライブ。8、注目のサウンドクリエーターによる刺激的な音。9、近未来的都市型北東部サウンド。10、快心のジョビン集。


1. Antonio Loureiro / Só

もうすでに爆発的な評判を得ているAntonio Loureiroのセカンド・アルバム。HMVのフリー・ペーパー"Quiet Corner"に私もコメントを書かせて頂いたが、とにかく圧倒的なのである。詳しくはそちらを見ていただくとして、若干26歳の彼の才能にはとことん驚愕する。もとはと言えばファースト・アルバムを高橋健太郎さんが紹介したことが始まりで、セカンドにして早くも国内盤がリリースされたのだ。ファーストを凌ぐ素晴らしいアルバムなのだが、残念ながらブラジル・ディスク大賞では来年度の対象なのだそうだ。


2. Bianca Gismonti / Sonhos de Nascimento

名前から自明であろうがEgberto Gismontiの娘さん。だからといって必ずしも素晴らしい、と言う訳にはいかないのが世の常だが、彼女の場合は全く諸手を挙げて素晴らしい才能なのだ。父に捧げた1曲目の"Festa de Carmo"の軽快な北東部のリズムで、まず魅入られてしまう。くっきりとしたピアノのタッチ、印象的で独創的な楽曲、柔らかな歌声、ジャンルを超えた自由な音楽性は、確実に父の遺伝子を引き継ぎながらも、女性らしいふくよかな魅力に溢れている。


3. Sergio Santos / Rimanceiro

Sergio Santosのニュー・アルバム。本作は彼の声とギター、そしてSilvio D'Amicoのギターによるシンプルな編成によるもので、長年のパートナー詩人のPaulo Cesar Pinheiroとの共作曲が集められている。Minasらしい壮大で輝くような楽曲から、軽快なサンバ、北東部の響き、そしてアフロ・ブラジルを感じさせるものまで、その音楽性は非常に幅広いが、中原仁さんのライナーによれば、それは彼のキャリアから言えば自然のことのようだ。力強く、雄大でいながら、穏やかな陽光を感じさせるナチュラルな彼の歌は、一度聴け必ずや虜になるでしょう。


4. Alexandre Andrés / Macaxeira Fields

若きミナスの才能の一翼を担うAlexandre Andresのセカンド・アルバム。これも前作を圧倒的に凌ぐ素晴らしい作品だ。前作同様複雑で審美的な楽曲に、カラフルで暖かく、そして厚みのあるアレンジメント。Andre Mehmari, Monica Salmaso, Tatiana Parra, Grupo Uaktiなどのほか、Antonio LoureiroやRafael Martiniなどの盟友、そしてアルゼンチンからJuan Quinteroなどが参加。ミナスの新しい潮流の勢いを感じさせる必聴の作品である。


5. Dani & Debora Gurgel Quarteto / Um

いよいよ日本ツアーが目前と迫ったDani & Debora Gurgel Quarteto。Gurgel親子とThiago Rabello (b.)、Sidiel Vieiraの4人のよる本作は、彼等の音楽に期待するものすべてが詰まっている。ブラジル的な躍動感とジャズ的な洗練、Daniの真っ直ぐな歌唱とDeboraの流麗なフレージング。磨き上げられた旋律とgroovyな演奏は、São Paulo的なカッコ良さに溢れている。Novos Compositoresに常に注目をして来た私としては、是非山形公演をしたかったのだが、まあお声もかからなかったことは私の不徳の致すところとして、それだけが残念であります。


6. François Morin / Naissance

リオ在住のフランス人ドラマー、Francois Morinのアルバム。ピアノにAndre Mehmari、 Neymar Diasのベース、そしてLuiz Ribeiroのヴィオロンというカルテット編成を中心として、Sergio Santos、そしてTatiana Parra, Lea Freire, Gabriel Grossiなど、人脈的にアルゼンチン人の音楽家達とも交流のあるアーティストが参加している。コンテンポラリー・フォルクローレとも心情を共有する、審美的でメランコリックな音楽は、ミナスの若き音楽家達やサン・パウロの新しい作曲家達の色彩感とも感性を共有する。優しく、しかし壮大で色彩感に溢れた傑作。Ivan Linsも1曲でゲスト参加。


7. Marcelo Camelo / Ao Vivo No Theatro São Pedro

Marcelo Cameloのニュー・アルバムは弾き語りを中心としたライブ録音。DVDと同時リリース。まずはCDを入手。一部にハベッカと控えめな打楽器が参加。シンプルに綴られる憂いに満ちた彼の名曲と、相変わらずの切ない歌声。もう、最高です。何も要りません。もはやLos Hermanosは、遠くなってしまったけれど、観客の熱狂は相変わらず。SSWとして成熟の極みへ達した。


8. Gui Amabis / Memórias Luso – Africanas

Sao Pauroを拠点とするサウンド・クリエーター、Gui Amabisのアルバム。Crioro, Tulipa Ruiz, Ceu, Siba, Lucas Santana, Tiganaなどゲストも個性的なメンバーを揃えているのだが、最も個性的なのは彼の作りだすサウンド。プログラミングや敢えて古びたシンセの音を多用して、ざらっとして仄暗い彼だけのオリジナルな世界観が創り上げられている。Novos Compositoresの方向性とは全く違った才能で、これは要注目。


9. Juliano Holanda / A Arte De Ser Invisível

率直に言えば、北東部の音に食傷気味ではあったのだ。このアルバムを聴くまでは。 Olinadaの重鎮Juliano Holandaのアルバム。もちろん北東部のプリムティブなリズムは外せないのだが、彼独特の感覚に委ねられた洗練は、他には類を見ない。面白いのである。Benjamin TaubkinやTatiana Parraの参加も勿論嬉しいのだが、そこにフォーカスされるべきではない。


10. Vanessa Da Mata / Canta Tom Jobim

Vanessa da MataによるTom Jobim集。数あるTom Jobim集の中でもこれは出色の出来ではないだろうか。アレンジとピアノにEumir Deodato、プロデュースにkassin、その他Stephane San Juan, Gustavo Ruiz, Alberto Continentinoなど。独創的なアレンジと斬新なサウンドは凡百のJobim集にはない新鮮な魅力に溢れている。そしてVanessaの伸びやかな歌。良いです、極上です。


DVD: Luiz Tatit, Zé Miguel Wisnik, Arthur Nestrovski / O Film da Canção

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?