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2016年ブラジル・ディスク大賞関係者投票(yamabra archive)

2016年度のブラジルディスク大賞、関係者投票に選んだアルバムです。2004年から2021年度まで、徐々に試聴リンクをつけてアーカイブしています。アルバムごとに、その当時ブログに掲載した紹介コメントも付します。2016年はミナス勢も素晴らしかったのですが、今思うとLourenço Rebetezが1位でも良かったかなぁ。もちろん他も素晴らしい作品でしたが。


総評:

1)傑出した二つの才能の共演は、至極美しく刺激的。2)透明な質感が一層研ぎ澄まされている。3)バイーア+ジャズ。芳醇なグルーヴが心地良い。4)まっすぐで滋味溢れるカルトーラ集。5)ブラジル内外の俊才が参加。知的な佳作。6)、7)現代ミナス音楽家達の美意識が凝縮。色彩が溢れ出る。8)新旧世代が紡ぐ斬新なカイミ集。9)陰影に富んだ楽曲と、爽やかな歌声に注目。10)ポップで甘美。緩いグルーヴが快感。


1) Andre Mehmari & Antnio Loureiro / ST

André MehamriとAntonio Loureiroのデュオなんて、もはや反則でしょ(笑)。現代のブラジル音楽界を代表する、二つの類い稀なる才能が作り上げた、このとてつもなく美しく、そして高揚感溢れる音楽には、誰もが瞬時に魅了されてしまうでしょう。壮大で、複雑で、刺激的で、それでいて琴線に響く、とんでもない傑作です。ブラジル音楽を新しい地平に導く、驚愕すべき作品。


2) Tatiana Parra, Vardan Ovsepian / Hand in Hand

Lighthouseに続く、TatianaとVerda Ovsepianのデュオ2作目。Tatianaの声はさらに研ぎ澄まされていますが、その可愛らしさも決して失われていません。硬質で縦横無尽なVardan Ovsepianのピアノとで作り上げられる空間は、さらに極められていて、二人の声とピアノだけとは思えないほどレンジが広く複雑で、そして知的でいて優美なのです。


3) Lourenço Rebetez / O Corpo de Dentro

本作は、São Pauloで活動するギタリスト/作編曲家Lourenço Rebetezのデビューアルバム。プロデュースになんとArto Lindsay。トランペット、サックス、トロンボーン、クラリネット、フリューゲルホルンなどによるジャジーで分厚いホーン・アレンジメント。そこにチンバウやドラムなどを中心としたBahia〜Afro-Brasilのワイルドなリズムを組み合わせることによって、とてもとても刺激的で、しかし斬新なサウンドを作り上げています。"Jazz Meets Bahia"。これプッシュです。


4) Teresa Cristina / Canta Cartola

Teresa CristinaがCartolaの楽曲を歌うのだから、これは聴く前から、悪かろうはずが無い、と思うでしょ。でもね実際聴いてみると、これがもう予想以上にいいのです。彼女の歌と、流麗なCarlinhos Sete Cordasとの二人だけのシンプルな(故に誤魔化しのきかない)フォーマットのライブ録音。じっくりと真っ直ぐにCartolaの世界が表現されていて、改めてサンバって良いなと感じさせてくれます。


5) Juliana Cortes / Gris

Juliana CoetesはCuritiba出身の女性シンガーで、本作は彼女の2ndとのことです。残念ながらわたし1stは聴いていないのですが、このアルバムは出色です。minasからAntonio Loureiro、São PauloからDante OzzettiとArrigo Barnabe、そしてアルゼンチンからDiego Schissiという、恐るべき才能が集結した作品です。彼らの素晴らしいサポートで、彼女のすこしスモーキーで知的なハイトーンが、特異な磁場を形成しています。


6) Joana Queiroz, Rafael Martini, Bernardo Ramos / Gesto

なんと色彩に満たされた音楽なのだろうか。現代のミナスを代表する3人の音楽家、Joana Queiroz (cl.)、Rafael Martini (kb.)、そしてBernardo Ramos (g.)による作品。美しい旋律と暖かいハーモニー、そして少しの混沌と。複雑で高度な音楽であってもそれを感じさせない柔らかな触感。洗練を極めていて、しかし心地よく神話的な世界観に、感動を禁じ得ない。ジャケットのイラストの様に、妖精たちによる、太古の森から聴こえてくる祝祭の様だ


7) Leonora Weissmann / Adentro Floresta Afora

ディスクの購入を通信販売に頼っている我々地方の者には、時としてこういうことが起こる。本作を注文したのは3ヶ月以上前。同時に注文したものの入荷が遅くなり、ついに今までかかってしまったのだ。こんな素晴らしいアルバムを今まで聞き逃していたのだから、これは悔しいとしか言いようがない。Leonora Weissmann (vo.)は、ミナス新世代のキー・パーソンRafael Martiniのパートナー。基本的メンバーに彼の他、Alexandre Andrés、Frederico Heliodoro、Edson Fernandoなど。さらにRenato Motha / Patrícia Lobato、Leopoldinaなど。複雑ではありますが、Leonora本人の手による油彩のジャケットの様に、色彩が溢れ出てくる様です。現代ミナスの音楽家達の、美意識がぎゅっと凝縮された傑作です。


8) Danilo Caymmi / Don Don

Danilo Caymmiが、父Dorivalの楽曲を歌う素晴らしいアルバムなのだけれどジャケットがなぁ。Bruno Di Lullo (b.)とDomenico (dr., perc.)を中心に 、Pedro Saのギター、そしてArthur Verocaiの編曲で、極めて斬新で個性的な音造りの、秀逸なDorival Caymmi集なのです。Brasilってこういう新旧で紡ぎだす新しい音が実に自然に形成されていて、羨ましい限りですね。然し乍ら返す返すもジャケットがなぁ。


9) Sylvio Fraga / Cigarra no Trovão

SYLVIO FRAGASYLVIO FRAGAはニテロイ出身のSSWです。趣味の良いソングライティング、弦や管を配した複雑で重層的で、陰影に富んだアレンジメント、そして儚げな歌声、すべてがとても素晴らしい作品だと思うのだけれど。ジャケットの鶏たち、そしてライナーとディスク本体のおっさん5人がランニングと短パンで海岸を走る写真は、なんともいただけない(笑)。


10) Glue Trip / ST

音だけ聴いて、これがブラジルのユニットであることを言い当てるのは中々難しいと思うけれど、そこがブラジルの音楽の裾野の広さとも言える。パライバ州の州都ジョアン・ペソア出身の二人組。その音楽はポップでサイケデリック。スィートで気怠く、緩いグルーヴがヒップだな。もわっとした独特の湿っぽい熱気が心地よいです。


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