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イノベーションで、組織を変える――グループ横断で新しい価値創出に取り組んだ東洋製罐グループホールディングス

金属缶やペットボトル、ガラス瓶などさまざまな容器製造を手掛ける東洋製罐グループホールディングス。同社では、2019年4月にイノベーション推進室を立ち上げ、オープンイノベーションなどさまざまな取り組みを行っています。
そして昨夏からは、Makuake Incubation Studio(MIS)との新商品・新規事業創出プログラムに取り組み、現在、そこで生まれた企画のMakuakeでのデビューを準備中。プログラムの事務局として全体を取りまとめた三木逸平氏と加藤優香理氏に、取り組みの背景や今感じている価値などについて伺いました。

東洋製罐グループホールディングス株式会社
イノベーション推進室 Chief Business Producer
三木逸平氏(写真右)

東洋ガラス株式会社
営業本部新市場創造グループ
加藤優香理氏(写真左)

【背景・課題・検討プロセス】アイディアを直接世に問うプロセスをグループ横断で体験したい

イノベーション推進室は、東洋製罐グループの第5次中期計画の中で掲げられている「オープンイノベーションの加速化」に沿って立ち上がった社長直轄の組織。グループ各社でイノベーション活動が活発化していることを受け、グループ全体でその動きを推進しようとホールディングス内に設立された。
その後、イノベーション推進室でさまざまな取り組みを行う中で、MISとの協働をスタート。昨年8月より約半年間の新商品・新規事業創出プログラムを推進している。

三木氏 イノベーション推進室が発足する前は、グループの中で役職や部門を問わず新しい事業や活動を推進したい志を持つ人を集めて社内有志活動の「ワンパク(One Pack)」を運営していました。グループ横断でさまざまなセミナーやアイデアソンなどを行ってきましたが、その活動が認められたこともイノベーション推進室の設立につながりました。今回事務局を務めた加藤さんも、約800名いるワンパクのメンバーの一人です。

加藤氏 私は東洋ガラスの新市場創造グループに所属していますが、以前ある新規事業の交流会でMakuakeの木内さんと知り合い、後日「シャープの社内ベンチャーで日本酒とその保冷バッグを開発することになったので、ボトル製造のサポートをお願いできないか」とご連絡いただいたのがMISとのご縁のきっかけです。別会社の人間ながら新事業を創るプロセスを体感したことで、当社グループにもその動きを取り入れられないかと考え、ワンパク内で積極的に共有したことが、今回のプログラム実施につながりました。

三木氏 大企業が新しい事業を創出する方法はいくつか考えられます。例えば、ベンチャー企業と協業して新しいPoC (Proof of Concept:概念実証)を実施したり、もちろん社内で新製品を一から創り出すという方法もありますが、選択肢の一つとしてクラウドファンディングは常に念頭にありました。そのため、実際にアイディアを世に出せるMISの取り組みは非常に興味を惹かれましたね。
そしてイノベーション推進室が立ち上がって以降、加藤さんの助言もあり本格的にMISの検討をスタート。役員からも評価をいただきましたが、「実施する目的」については議論を重ねました。その結果、MISプログラム導入に際して2つの目的を設定しました。

1つは、人材開発。特に、次世代経営人材の育成です。すでに社内でいろいろな研修は実施していましたが、「実際に何かを生み出す」までには至っていませんでした。そして、技術系と事務系の研修がわかれてしまっているのも課題でした。技術も理解し、それを形にする生産も、お金に変える事務方も、すべて一気通貫で見られる人材を次世代経営候補として育てる必要がありますが、既存の枠組みでは難しいという現状を受け、「このプログラムを次世代の人材育成につなげたい」という思いを持ちました。
もう1つは、事業開発。アイディア出しの仕組みは各グループ内にありましたが、実際にモノになり、世に出たケースはほとんどありませんでした。我々の直接のクライアントは容器に入れる中身を作っているメーカーであり、たとえ素晴らしい技術であってもクライアントがNOといえばエンドユーザーに届けられないというジレンマがありました。Makuakeを活用すれば、直接世の中に問うことができる。これを第二の目的としました。
すでにMakuakeを通じていくつかのメーカーがヒット商品を出していて、同じ製造業として各社がどういうプロセスや仕組みでアイディアを形にしたのか、知見を得られるというのも魅力でした。

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【実行施策】「消費者ニーズは本当にあるのか」「東洋製罐グループがやるべきなのか」を問い続ける

グループ全社の経営会議のなかで、今回の取り組みについて説明し、各社で参加メンバーを募ってもらったほか、「ワンパク」のメンバーにも参加を呼び掛け、所属企業・部署がバラバラな21名の希望者によってプログラムがスタート。三木氏、加藤氏を含む5名が事務局として全体のプロセス管理などを担った。

三木氏 メンバーを集める際にこだわったのは、「グループ横断」という点です。
東洋製罐グループとしては、金属、プラスチック、ガラス、紙と4大素材すべてを取り扱っていますが、素材毎にそれぞれの別の事業会社が扱っており、シナジーが起こしにくい状態でした。むしろグループ内で競合になることも少なくありません。
グループ各社はどこも、人手が足りない、技術が足りない、アイディアが足りないという課題を持っていましたが、グループ全体で見れば約2万人もの従業員がいます。このリソースを活かすためには、グループ横断のプログラムで同じ目的に向かって突き進む必要があると考えました。

今回のプログラムには、21名5チームで取り組みましたが、チーム分けの際には参加者一人ひとりが、Makuakeを使って何を実現したいのか、思いやアイディアを発表。共感できるアイディアに投票し、共通項となるような思いやアイディアをまとめ、5チームに落ち着きました。

チーム結成後は、MISに伴走してもらいながら企画を何度もブラッシュアップしていきました。MIS側から「どんな価値があるのか、本当に消費者が買ってくれるのか」を何度も問いかけられたことで、技術やプロダクトだけでなくマーケットにも視野が広がるようになり、そこからブラッシュアップが加速していったと感じます。

加藤氏 ただ、通常の製品開発では「自社の技術でできるもの」が前提になるので、「技術」からなかなか離れられず消費者ニーズに目を向けきれないチームもありましたね。
あるチームは、一人の「この技術をどうしても世に出したい」という思いから始まり、その思いに共鳴したメンバーが集まりましたが、途中、その思いが強すぎて消費者ニーズと接続できずに悩んでいました。何度も議論を重ねた結果、「技術起点のやりかたは今回のプログラムには合わない」と気付いて180度ピポッドしましたが、その後も当初の熱量を失わず「東洋製罐グループの多様な技術、素材を生かせるものを生み出そう」とモチベーション高く走り切ってくれました。

最終的には、役員プレゼンを前に「東洋製罐グループとしてこの事業をやるべきかどうか」という視点で練り上げますが、消費者のニーズと東洋製罐グループがやるべき意味の接続に頭を悩ませたチームは多かったようです。

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加藤氏 最終的には、5チーム中3チームのプロダクトにGOサインが出ました。結果的にはどのチームも素晴らしい企画となり、役員側も「我々がGOを出せばMakuakeを通じて世に出る」という期待感と緊張感を持って臨んでくれました。実際、役員の反応は非常によかったですね。ただ、「この企画は筋が良さそう」と思っていたものが通らなかったりと、意外な反応もありました。

三木氏 役員は「事業として長期的な将来を描けるかどうか」を判断基準に、消費者ニーズとしっかり向き合った企画を評価していて、単に「面白く売れそうなアイディアだ、一事業になりそうだ」だけではGOを出せなかったようです。われわれ事務局側がもっと、経営層が抱える課題に精通するべきだと感じました。
ただ、どのチームもプレゼンが素晴らしく、熱量を感じたと言ってもらえました。特に評価されたのは、「伝えたい思い」を凝縮して伝えられたという点。何度も議論を重ね、企画がブラッシュアップされる過程で、思いや成し遂げたいこともどんどんシャープになり、それが言葉に乗ったのだという印象を受けました。
また、すべてのチームがプロトタイプを作ってプレゼンに臨んだことも高く評価されました。プロトタイプを作るためには、社内のいろいろな部署・人を動かし、巻き込む必要があります。強い思いを持ってそこまでやり込んだという事実に期待感を覚え、「全チームを通したいぐらいだ」と言ってくれた役員もいました。これまでの研修や育成プログラムとは全く違うと感じ、今後の変革への兆しも感じていただけたようです。

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【成果・今後の取り組み】参加メンバーが得た知見を各部署で生かし、根付かせるステージに挑戦

通過した3チームの企画は、技術的なブラッシュアップなどを経て、近くMakuakeを通じて上市される。企画が通らなかったチームも「再挑戦したい」と、さらなるブラッシュアップを始めている。そして、第2回、第3回のプログラム実施を望む声も、社内で強まっているという。

三木氏 最終ユーザーに寄り添っているか、部門を横断してスクラム開発ができるか、社員のやりたい事と経営層や会社の考える戦略が合っているか、この3つがかみ合って東洋製罐グループは100年以上成長してきました。しかし、昔は無意識にできていたことが、時代や会社を取り巻く環境の変化でなかなかできなくなってきました。
今回のプログラムを経て、意識的にやらないとできなくなっていたことが、うまく回るようになったと感じています。例えば、組織の横断。参加メンバーは営業や技術、素材、デザインなどさまざまで、国内だけでなく海外支店からの参加者もいました。普段の業務では関わることがない立場の人と、同じ意図をもって製品開発に取り組むことができたのは大きな収穫でした。
参加者は技術畑の人が多かったのですが、プログラムの過程で「それは本当に消費者が買いたいと思えるものなのか」と何度も問いかけられたことで、意識がガラリと変わったとも感じました。どうしても技術ありきで考えてしまう人が多い中、いかに世の中が「ほしい」と思っているものを創り出すかが大切なのだと皆が再確認できたことも大きかったと思います。

そしてこれからは、今回の取り組みのプロセスを、組織にしっかり根付かせていくことが何より重要だと考えています。
プログラム参加者21名がそれぞれの所属部署で、今までと同じような仕事のやり方をしているようでは意味がありません。彼ら一人ひとりがプログラムで学んだことをどう現場で生かすか、そしてわれわれ事務局が、イノベーションの流れを断ち切らないようなサポートをいかに行うか、これが今後の課題です。
それぞれの学びを各部署で生かす際には、組織の体制やリソースなど、打破しなければならないさまざまな問題に直面するでしょう。事務局として、そしてイノベーション推進室として、志を持つ彼らをサポートしてともに壁を乗り越え、最終的には既存事業やグループ全社に影響を与えられるような活動につなげるべく働きかけ続けたいと思っています。

<了>


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