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【生き方】仙台味噌の鑑評会で1位に輝いた「鎌田醤油」へ取材に行くと、専務の深い人生論まで伺うことができました。

10月4日に行われた宮城県の伝統食材「仙台味噌」の鑑評会で、美里町の鎌田醤油が1位に輝きました。

大学教授や醸造の専門家が審査するこの鑑評会。今年で69回目を迎え、県内28社から44点が出揃いました。

ということで今回は、見事頂点に立った鎌田醤油へ取材を敢行。専務取締役を務める鎌田雅敬さんに、1位になった要因や喜びなどを伺ってくるつもりでした。しかしながら、決してそれだけに限らない、いわば生き方にも及ぶような話を伺うことができました。

(美里町は北浦に醸造所を構える鎌田醤油)

1位よりも大切なこと。

全国的には「赤系の辛口」と位置づけられるという仙台味噌。山吹色の色合いで、大豆・米・塩の割合や製法などの要項も定められています。そんな中で、工場によって異なる配合や発酵時間などが「個性」になるそうです。今回の鑑評会では14人の審査員が集まり、それぞれ名前を伏せた状態で味噌を実食。ひとりひとりが点数をつけ、合計三度の審査を経て順位が確定しました。

今回、1位に輝いた要因を尋ねると「たまたま」と謙遜する鎌田専務ですが「じつは、常に毎年良いところまで行っていた。いつも上位5位ぐらいまでは僅差だから、正直あまり1位にこだわる必要はないと私は思っていてね。当社としては、常に上位にいなくてはダメだと思っているけど、それが外れないぐらい最近はずっと上位にいる。だから、それこそが大切なことなんじゃないかな」とその価値を話します。

また、40年ほど鑑評会の審査員も務めているという鎌田専務は「今年の1位と昨年の1位のどっちが良いかとか、そういうことじゃないんだよね。あくまで今年の中で一番っていうのが選ばれるわけで、もし審査のタイミングが一週間でも違ったら逆転する可能性もある。つまり、常に今日がピークであり続けることを大事にしたいよね。もちろん鑑評会で1位というのは、凄いことかもしれない。でも、審査員を長年やっていると、本当に“たまたま”に近いような感覚はあるんだよね」と、自身の経験をもとに話してくれました。

(快く取材に応じてくださった鎌田専務)

自らの魅力を伝えるためには。

日本の食卓に欠かせない味噌という食材においては、あくまで日常的な美味しさを大切にしているそう。「普段から仙台味噌を食べている人にとって、突然グンと美味しくなりすぎたらダメなのね。だって毎日食べている人は、その日常に合った味が良いわけだから。料理ってそういうもので、普段食べている平準化したものが必要とされる。お客さまが“想う味”こそが重要なんだよね。もちろんより美味しくなるよう微妙に味は変えているけど、結果的に大きく変わることが良いとは限らないね」と鎌田専務。

「例えば、人が自分の魅力をどうやって出すかというと、突然一気に出してもしょうがない。常に自分は自分であり続ける、というものがあった方がいいわけだよね。きっとその方が、他の誰かもイメージしやすいでしょ。やっぱりその人にはその人の味わいがあるように、まずは継続的にあり続けること、味噌で言えば毎日『良いな』と思ってもらえるものを作り続けることが大切だと思うよ。当たり前の努力を続けることが、その人やモノのイメージになる。まあ、それも難しいことだけどね」と人のあり方も引き合いに出しながら続けます。

(創業は1835年頃と伝えられています)

評価は変わる。個性は変わらない。

そして鎌田醤油は、同月に行われた「第49回全国醤油品評会」でも、優秀賞に選ばれました。

国内唯一とも言える大規模なコンクールで受賞を果たしたわけですが、やはり鎌田専務は「評価をいただけたことにはもちろん感謝したいけど、品評会のために日頃から作っているわけじゃないよね」と、また別のところに価値を感じているようです。

「当社は普通の市販品を、そのまま審査に出していてね。品評会のために作っているところも意外と多くて、もちろんそれは良い悪いって話じゃない。ほら、人間はひとりひとり考える目標値が違うからこそ、面白いと思うんだ。その中で個性をどう活かすかというか、自分がどう生きるかを考えたいよね。あまり他人に左右されることなく、かといって関心がないわけでもなく、当社は当社なりのやり方でやる。生きる。その方が十分に価値があると思うからね」

「だから、やっぱり自分たちなりに考えて行動することが、鎌田醤油の生き方ってことかな。私もそれが面白いし楽しいし。例えば美人っていうのはさ、時代や場所によって違うでしょ。でも、個性っていうのは、いつの時代もどこにいても個性なんだ。醤油だけじゃなくて、味噌もそう。私たちは、入賞を狙って食品を作っているわけじゃないからね。ときに『もっとこうした方が売れるよ』と言われることもあるけど、自分たちの目標値を胸に、今後も味噌や醤油を作っていきたいね」


仙台味噌の鑑評会で1位に選ばれたからこそ、突撃を敢行した今回の取材。ただ、大切なのは「1位になった」という“点”でなく「常に上位にいる」という“線”で考えることであり、そして何より自らの個性と向き合い続けるその姿勢にこそ、本当の価値があるのかもしれません。

鎌田醤油株式会社
〒987-0005 宮城県遠田郡美里町北浦字起谷3
Tel:0229-34-2021
Web:http://kamatashouyu.jp/

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