言い間違いの文法

(すみません、完全なるポカミスで遅刻しました。)

「言い間違い」と呼ばれる表現があります。もしくは、「口が滑っただけ」でしょうか。次のような表現です。

(1) あいつ?図書館でたまによく見るよ。
(2) Twitterで、たまによく流れてくる。

「たまに」は頻度が少ないことを表しています。一方、「よく」は頻度が高いことを表しています。となると、「たまによく」の意味は、意味不明です。頻度が高いのか低いのかわかりません。この意味不明な表現は、単なる「言い間違い」でしょうか。

興味深いのが、この意味不明な表現に文法(?)があるということです。次のような表現は、すくなくとも私の内省では不自然に感じられます。つまり、「たまによく」は自然な言い間違い(と言えばいいのかなんなのか)であるけれども、「よくたまに」は完全に不自然な表現であるということです。

(1)  ??あいつ?図書館でよくたまに見るよ。
(2)  ??Twitterで、よくたまに流れてくる。

この直感を調べるべく、『現代日本語書き言葉均衡コーパス』(BCCWJ)で用例を調べてみると、「たまによく」が1件見つかった一方、「よくたまに」は0件でした。見つかったのは以下のような用例です。

(3)
たまによく「メモリ不足のため・・・」のエラー出るほか、使ってる途中にもマウスが画面に動いているですが、でもなんにも利かないし、しかもギ、ギ、ギの音が出るのです。(BCCWJ: OC02_02590

用例数が少なすぎるので、傍証にはなるかと思いGoogleでも調べてみると、「たまによく」が約 437,000 件、「よくたまに」が約 113,000 件ということで、一応「たまによく」に軍配が上がりました。

以下の表現はどうでしょうか。

(4) おそらく、絶対大丈夫!

「おそらく」は、推量の確度がある程度高いことを表しているでしょう。一方、「絶対」は推量の確度が文字通り絶対的に高いことを表しているはずです。となると、「おそらく絶対」の意味は、やっぱり意味不明です。次は類例です。

(5) 多分、絶対いける!

同様の理由で、「多分絶対」はやっぱり意味不明です。これらの表現も、「たまによく」と同じで(少なくとも私の内省では)逆転させることができません。

(6) ??絶対、おそらく大丈夫!
(7) ??絶対、たぶんいける!

私のこの内省は、いったいどういうことでしょうか。そもそも意味不明な表現のはずが、意味不明な表現どうしの間で容認度に差があるのです。きっと、同じ直感を持っている日本語母語話者は多いんじゃないでしょうか。ちゃんと調べてないですけれども。

いくつか説明の方法があると思います。

1つは統語的な説明です。実は、意味的には同じカテゴリーに属していると思われる「おそらく」「たまに」と「絶対」「よく」は、統語的には異なるカテゴリーに属する副詞で、異なる統語的位置に生起し、「おそらく」「たまに」は「絶対」「よく」より高い位置に生起する。そのため、反対の位置関係は許されない。

2つ目は意味的な説明です。実は、「おそらく」や「たまに」は推量の確度や頻度を表していない(!)。話者の不安な気持ちや確信的なことをいうのを憚るために用いるフィラーか文副詞のようなものである。そういう表現は通常文頭に用いられるので、「絶対」「よく」より下位の位置にあるのは不自然である。

3つ目は、もう一つ、意味的な説明です。確度や頻度が高いものを、確度や頻度が低いものが意味的に制限修飾することはできるけれども、その反対は成り立たない。なんでか知らんけど。

う〜ん、なんとか説明を試みようと、いくつか方策を考えましたが、どれもまだしっくりきていません。

「音韻転換」に代表されるように、子どもの「言い間違い」に音韻的なルールがあることはよく知られています。でも、もしかして大人の「言い間違い」にも、ルールがいろいろあるかもしれない。それは、音韻的な?統語的な?意味的な?どのレベルで働くものなのか、まだよくわかりません。でも、ただの「言い間違い」として放っておくには、ちょっと勿体無い、そんな現象を見つけたので、これを機に紹介させていただきました。


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