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東京路上ポートレート

ある、蒸し暑い真夏の日。
大都会、東京。

ジリジリと暑いアスファルト。
はしゃぐ笑い声。
足早に歩いていく人。

そんな中、高架下や日陰には、
ところどころに道の傍らに寝転がる人たちがいる。


彼らと、行き交う人々は、
お互い目を合わせることもなく、
ただの風景のように通り過ぎる。

見ないように、
考えないように、
しているように見える。


その日、私は、
彼らを景色に見ることはできなかった。


勇気を出して話しかけた。

意外にも、彼らは私を受け入れてくれた。
ぽつぽつと、話をしてくれた。



彼らには、一人一人物語があった。


彼は望んで路上生活をしているといった。
自ら選んだと。

路上に住みながら、コミュニティを作って、
発信をしていた。

彼は、「いつか家族が欲しい。」と言った。

タバコの煙が寂しそうに見えたのは、
きっと私の思い込みだろう。

先入観は煙と一緒に空に消えていった。

彼の住んでいたところは、
オリンピックに向けて自治体に撤去されたと、
後日のニュースで知った。


「またここで会おう。」という約束を、きっと私はもう永遠に果たすことはできない。



彼は大阪から仕事を求めて来たと言った。
足を怪我して、今の仕事ができなくなってしまったのだ。

しかし、役所に行っても何日も待たされて今も待っている。
日雇いの仕事は体を使うものが多い。
なかなか収入がなく、節約のためにも路上で寝泊まりをしている。

彼はオシャレが好きで、お気に入りを見せてくれた。



「隣の奴が臭くてさ。何日も起き上がってるの見てねぇな。死んじまってんのかな。」

ガハハと笑ってみせた。



彼は杖をついていた。
病気をして足を悪くしたため、仕事を失ったという。

「何年も前に離婚した妻と娘には、こんな生活してるなんて言っていない。」
と少し笑って言った。

先日、娘さんが結婚したそうだ。
結婚式に招待されたらしい。

「でも、俺なんかがいくべきじゃないんだよ。お祝い金だけ送ったんだ。」
と言った。


行き交う人を見つめる彼は、何を想っていたのだろうか。


彼らにはそれぞれの人生があった。
そして、今も彼らだけの人生を歩んでいる途中だ。


気がつくと、日が暮れていた。

東京は眠らない街だ。
夜の方が活気がある。


東京のど真ん中で、
身を潜めるように生きている彼ら。

「ホームレス」と一括りにしていいのだろうか。

事情も、人生も、信念も、一人一人違うものを持っていた。

ただ、一つ言えること。

敬意がなければ、シャッターなど押せなかった。





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