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本のはなし

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読んだ本について書きます。
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『鬼滅の刃』が人気の理由と、あばかれる物語・あばく物語

『鬼滅の刃』が人気の理由と、あばかれる物語・あばく物語

「漫画『鬼滅の刃』が、なぜここまで人気なのか?」ということに興味がわいた。

だから、2月ごろ、Amazonプライムで配信されているアニメを見たけれど、悔しいくらいまんまとハマってしまった。

日本だけでなく、世界中の人々、しかも広い世代が『鬼滅の刃』に夢中だ。

ここまで多くの人を魅了する理由が知りたくて、導入のつもりでアニメを見たけれど、そのわけは自分がハマってもまだよく分からなかった。

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“世界の裂け目”が足りない|鷲田清一著『想像のレッスン』

“世界の裂け目”が足りない|鷲田清一著『想像のレッスン』

お正月に地元の本屋さんで見つけて、買って読んだ鷲田さんの『想像のレッスン』という本。

その中の一説を引用する。

大樹と寺社と場末に共通しているのは、それらがこの世界の<外>に通じる開口部や裂け目であるということだ。

わたしたちの日常の共通感覚(コモンセンス)をひきつらせるという意味で、妖しい場所である。

そして妖しいというのは、怖いけれども(あるいは、怖いがゆえに)どうしようもなく惹きつけ

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好きでいつづけたいから、離れていよう

好きでいつづけたいから、離れていよう

フィンランドのアーティスト、トーベ・ヤンソンの伝記を読んでいる。

トーベのいくつかの恋のエピソードを読んだけれど、彼女は付き合いが終わった恋人たちと、友人でいようと心がけ、実際に生涯の良い友人になったという記述が目立つ。

異性と友人関係が結べるのか否か……などという問いは、もうそろそろ昭和と平成の遺物になるのだろうか。

「異性同士でも友人関係は結べる」というのがわたしの答えだけれど、異性であ

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絵本『ビビを見た!』を読んで

絵本『ビビを見た!』を読んで

ぜひ読んでほしい、と借りた絵本『ビビを見た!』。

福岡アジア美術館で版画展を見たのは、たしか1年前。

その後、下川町から北上して1時間もかからない音威子府村(おといねっぷむら、と読みます)にある彫刻家, 版画家の砂澤ビッキの美術館への訪問が決め手で、木版画の力づよさにノックアウト。

以来、木の質感と彫りの躍動に、すっかり心うばわれてしまっていた。

ゆえに『ビビを見た!』の挿絵の版画たちは、

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野生のもろさと生態系の新陳代謝 -星野道夫「魔法のことば」

野生のもろさと生態系の新陳代謝 -星野道夫「魔法のことば」

移動中の時間は、やりたいことがたくさんある。

冬になると編み物、本を読む、仕事をする……などなど。

時間は有限で、気持ちの優先順位と、タスクとしての優先順位が交錯して結局仕事をしてしまいがちなのだけれど、本を読みたい欲は、つねにうずいている。

ということでいくつかの本を読み終わったのだけれど、最近読み終えたのが、星野道夫さんの『魔法のことば』。

さまざまな場所で講演をしてきた星野さんのお話

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「わたしは宮崎駿と鈴木敏夫のせいで結婚できませんでした」の愛と涙|舘野仁美さん著『エンピツ戦記』のこと

「わたしは宮崎駿と鈴木敏夫のせいで結婚できませんでした」の愛と涙|舘野仁美さん著『エンピツ戦記』のこと

アニメーターってすごい。

手首が折れるまで描き続けるのだ、無心、ではなく、物語の前後左右を頭のなかで往来しながら忙しく猛進するように描き進める。数分の作品であっても、何時間も何日もかけて。

才があっても描きたい絵が描けるわけではない。特に著者・舘野仁美さんは動画チェック担当として、絵を描くひとと演出家の板挟みになりながら、作品作りの要を担っていた方だ。

『エンピツ戦記』を読もうと思ったのは、

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多和田葉子「かかとを失くして」思考が止まると息が止まる

多和田葉子「かかとを失くして」思考が止まると息が止まる

多和田葉子は、川上未映子にハマってから知った。彼女が敬愛する作家の中に名前を見つけて、ドイツ在住というからなんだか気になった。
ドイツが好きなんだ、ドイツが、というかドイツで知り合った人たちが好きだから引きずられてドイツも好き。

川上未映子の読点を入れない文章は、谷崎潤一郎の影響かと思っていたけどそれに加えて多和田葉子も当てはまっていたようだ。※以下ネタバレ有

読みだすと、なんというか、キャラ

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川上未映子「きみは赤ちゃん」と、ヌルッの謎

川上未映子「きみは赤ちゃん」と、ヌルッの謎

日本文学専攻ですと言うと「作家は誰が好きなの?」と聞かれる。でもわたしは特に誰が好きだ!ということはなくて作品ごとに愛着を抱くから、内容だけ覚えていて誰が書いたかはそんなに気にしないことが多い。川上未映子を除いては。

「わたくし率イン歯ー、または世界」という短編を読んで、「そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります」という随筆集を読んで、なんじゃこりゃああとドキドキした記憶があって、その興奮に惑

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向田邦子「あ・うん」で笑いながら泣く

向田邦子「あ・うん」で笑いながら泣く

最近、出勤場所が変わったので電車の中で座れる。だから本を読む時間が取れるようになった。一番本を読んでいたのはおそらく中学のときだけど、それはもっぱら電車通学だったからだと思っている。家でも読むけれど冊数は減った。電車の中ってふしぎと本を読むのに程よい場所なのだ。

何を読んでいるかって、いろいろあるけど最近は向田邦子。こういうひとたちのことばを読んでいると、わたしの知らないジョークや熟語がたくさん

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京極夏彦「死ねばいいのに」は死にたくない人の話だった

京極夏彦「死ねばいいのに」は死にたくない人の話だった

もっぱら女性作家の小説ばかり読んでいる。贔屓にしているわけではなくて、気づいたら女性作家ばかりであれあれ、と。

でも最近読了したのは京極夏彦氏の「死ねばいいのに」で、久々にあの、これでもか!というほど分厚い書籍を読んだ。

京極堂シリーズは何冊か読んでいて、人の過去が見える変人探偵の榎木津さんが好きなのだけれど、いわゆる現代を舞台にした京極夏彦の小説は初めて読んだ。が、狂言回しとしての登場人物の

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