「委員は恋に飢えている!」第40会



第40会「最皇祭!⑥」


光ちゃん、そしてクラスのみんなと友情というか絆というか…。
そういうものを深めて、私の過去も清算し終わった後、一年二組は外に出していた休憩中の看板を戻して、喫茶店をもう一度オープンした。

「私、やっぱり一緒に仕事した方が…」
「いいっていいって!火恋ちゃん、これまでたくさん仕事してくれたんだし、それに昨日だってずっと働いてくれてたじゃん!何か約束もあるんでしょ?そっちに行ってきなって!」
「…うん。ありがとう!」

教室のドアを開け、五組に向かおうとするとその方向から金美ちゃんが走ってきた。
私も金美ちゃんに向かって走る。まずは一緒に回れなくてごめんって謝らないと…。
「金美ちゃ…ごふっ!」

金美ちゃんが私に勢いよくダイブしてきた。
走っていたのもあり、私も受け止めきることができず、二人でそのまま後ろに転んでしまった。
「ってて…。金美ちゃん、大丈夫?」
「…」

金美ちゃんから返事がない。もしかしてどこかぶつけた…?
私は声をかけながら金美ちゃんの顔を覗き込んだ。
金美ちゃんの目から涙がこぼれている。

「金美ちゃん!?どうしたの!?」
「…かった…」
「?」
「事故とか事件じゃなくてよがっだ!」
金美ちゃんはそう言いながら私の服に顔をうずめた。

「そんなんじゃないよ、もう…」
「だっで連絡、づかないがら!」
「それは…ごめん…」

でも金美ちゃん、約束のことよりも私のことを…。
「そんなに心配してくれてたんだね…」
私は思っていたことをつい出してしまった。

「!当たり前じゃん!友達だもん!大事な人だもん!心配するに決まってるじゃん!」
「…!」
ああ、私、最低だ。こんなにも私を思ってくれている人に心配かけて…。
「ごめん。ほんとうにごめん…!」
私が謝ると、金美ちゃんはもう一度私に抱き着いてくれた。

「それでぇ、もう大丈夫なのぉ?」
「…うん、大丈夫…」
「それはよかったぁ」
金美ちゃんはそう言って私に笑顔をむけた。

「それじゃあ、残り、回ろっかぁ」
「…!うん!」
「なんでそんなに元気なのぉ?」
「もう時間あんまりないし、金美ちゃん、ゲームするーとか言うと思ったから」
「…私だってぇ、火恋と一緒に回るのぉ、楽しみにしてたんだからぁ」
そう答えた金美ちゃんの顔はすごく赤かった。

「もう!金美ちゃん!」
「な、なによぉ。ちょっと、やめへよぉ」
私は嬉しくて金美ちゃんのほっぺをもんだ。

「へへっ。金美ちゃん!金美ちゃん!」
「もう…」
あんまり人に興味がなさげだけどちゃんと優しくて、可愛くて、ほっぺももちもちで…。
ああ、やっぱり私は、そんな金美ちゃんが大好きだ!



「どこにいるんだろう…」
私は今、月くんを探している。

五時になり、最皇祭は終了となったけど、まだ後夜祭が残っていた。
このまま金美ちゃんと一緒に参加しても良かったんだけど、金美ちゃんは後夜祭には興味がないらしい。家に帰ってゲームをすると言っていた。
金美ちゃんらしいというかなんというか…。

私も後夜祭に参加しようとは思っていなかったから、ちょうどいいんだけどね。
後夜祭はもちろん興味あるけど、今はそれよりも月くんに会って改めてお礼をしないと…。
一応、一組とか催事委員室とか、後夜祭が行われている体育館とかは探したんだけど見当たらない。

あと、どこがあるかな…。
私が考えていると、目の前を通った人に声をかけられた。
「火恋ちゃん?」
「土門くん!」
「どうしたの?こんなところで。後夜祭、参加しないの?」
「いやーちょっとねー。あ、土門くん、月くんどこにいるか知らない?」
「あー、月なら…」

やっぱり土門くんに聞いて正解だった。
月くんは今、旧校舎の方にいるらしい。
早速私は旧校舎へ向かった。

「月くん」
「…火恋さん…」
「後夜祭、参加しないの?」
「いや、ちょっと、今日は疲れちゃって…」
「…そうだよね。私のせいであんなに走ることになっちゃったんだし…。ごめん…」
「あ、いや、それは別に」
「それと、午前中の約束も…」
「ああ、それなら…」
月くんは何枚か写真を取り出した。

「これ…」
「火恋さんを校内で探しているときにさ、行ったところは写真だけ取らせてもらってたんだよ」
「そうだったんだ…」
月くんは記録係の仕事もしてくれていた。
私は本当に、みんなに迷惑かけて…。

「…」
「…火恋さん」
「?」
「これ、あげるよ」
そう言って月くんはきれいな宝石を取り出した。

「これは…?」
「ほら、催事委員で隠れた印を探すっていう出し物があったでしょ?俺、校内を走り回ったとき、たまたま全部見つけれたみたいでさ。さっき景品貰ってきたんだ。それがこれ」
「すごいきれい…」
私はその宝石を手に持って覗いてみた。
夕焼けの光が差し込んで、より一層輝いて見える。

「なんか説明されたけど、忘れちゃった…。とりあえず、それを持っていれば願いが叶うらしいよ。ほんとうかどうかわからないけどね…」
「月くんは、いいの?」
「俺は今、叶えたいものっていうのはないしね。生徒会長になるっていうのは、自分の力で実現させたいし」
「そっか…。ありがとう!」

ほんとうにきれいな宝石だ。
それにしても、願いか…。
今は思いつかないから、思いついたら願掛けしようかな!

私は改めて姿勢を正した。
「月くん、今日は本当にありがとう」
「いいよ、気にしないで。火恋さんが吹っ切れたようで、良かったよ」
「ねぇ、月くん…」
「?」
「どうして、私を助けてくれたの…?」

ドックン!

心臓の音がうるさい。
まだ月くんは何も言っていないのに。

「どうしてって…」

ドックン!

私の手を引いて、連れて行ってくれた時から感じていた。
もしかしたらこれは、そうなんじゃないかって…。

「俺が火恋さんの力になりたいと思ったし…」
月くんは少し考えるそぶりをしてから、ゆっくりと口を開いた。
「やっぱり、困っている人を助けるのに深い理由なんていらないでしょ!」

ズッキューン!!

ああ、やっぱりそうだ。
初めて会ったときも、泣いている金美ちゃんに自然と声をかけていたように…。
つむちゃんのピンチにも駆けつけて助けていたように…。
日奈ちゃんとみんなをつなげた時のように…。

きっと私の知らないところでは、もっとたくさんの人を助けているんだろう…。
そんな君の、分け隔てない優しさに私は…。

最皇祭二日目。
まっすぐな視線と屈託のない笑顔をこちらに向けている彼に、私紗衣火火恋は恋に落ちたのだった。


後書き

四十話です。
これで文化祭の話は終了です。
まあ、予想もできるといえばできたんですが、火恋さんが月のことを好きになりましたね。
これって、小説的に好きになったって書かない方が良いんですかね?
とりあえず、この書き方で行こうと思います。
続きもぜひ読んでいただけたら嬉しいです。感想も大大大大歓迎です。
よろしくお願いします。


第一話〜はこちらから


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