「委員は恋に飢えている!」第22会



第22会「みんなで夏祭り(夏休み⑥)」


学会発表も無事に終了し、俺はまたバイトだらけの生活に戻っていた。
スーパーのバイトもファミレスのバイトも順調で、今月はかなり稼げそうだ。

学会の時に体調を崩してしまった結川先輩も全回復し、世理先輩と二人でファミレスに来たり一人できたりしては英田先輩とけんかをしている。
お互いほっとけばいいものの結局突っかかってしまうのは、なんだかんだ楽しんでいるのかもしれない。
それを言うと二人から怒られるので黙っているが…。

今日もいつもと同じようにバイトを終えて家に向かっている途中、携帯にメッセージが来た。
『みんな!来週の日曜日空いてる??』
メッセージの送り主は火恋さんだった。

実は一学期の最後、みんなでテスト&一学期お疲れ様会をしたときにグループを作成していたのだ。
メンバーは各委員会のまとめ役、火恋さん、紡木さん、金美さん、土門の四人に加えて俺と日早片さんの六人。
このメッセージもグループに送られてきたものだった。

『空いています!』
『俺も部活は休みだから大丈夫だな』
『私はゲームするから空いてないかなぁ』
『金美ちゃんも空いてるね!』
火恋さんの素早いツッコミに金美さんは『えぇ!』というスタンプを返している。

『俺も空いてるよ』
基本的に日曜日はバイトをしているが、その日はたまたま休みだったので大丈夫だということで返信した。
『日奈ちゃんも分かったら返信ちょーだいっ!』
残るは日早片さんだけとなったが、既読はついてるので今来るだろう。
そう思っていたのだがなかなか返信がない。

三分後、ようやく『にちようびはあいとい、るます』と返信が来た。
『おっけー!提案なんだけどさ、来週の日曜日、夏祭りに行かない??』
『夏祭りってば、隣町の?』
『そうそう!せっかくみんなで仲良くなったんだしさ、夏休みに何かしたいじゃん!って思ってさ。もちろん、嫌だったら断ってもらって大丈夫なんだけどねっ!』

『私は行けます!』
『俺も行けるな』
『俺も行けるよ』
俺は火恋さんのみんなで何かしたいという点に賛成だった。

学会発表の時、四人で過ごしたのがあんなに楽しかったのだからみんなで夏祭りも楽しいに違いない。
『私はゲームするから無理かなぁ』
『金美ちゃんも行けるね!』
さっきと同じ展開に金美さんはスタンプで返していた。

『日奈ちゃんも嫌だったら断っても大丈夫だからね!でも私は日奈ちゃんとも行きたいかな!』
火恋さんは日早片さんが嫌にならないようなメッセージを送っていた。

(優しいな…)
既読がついているがまたもや返信がない。
またまた三分後、ようやく返信が来た。

『私もおそらけいくるとおもいむす』

さっきから日早片さんの返信がひらがなばかりで変な感じになっている。
(もしかして…)
俺が思うのと同時に火恋さんから新たなメッセージがきた。

『もしかして日奈ちゃん、メッセージ苦手??そうだったらごめん!気づかなくて…。他のやり取りは今度通話しよう!』
おそらく日早片さんはメッセージが苦手なのだろう。
友達がいなかったと言っていたのでそもそも使っていなかったのかもしれない。

『今日の夜とかどうかな??』
火恋さんの提案にみんなが了解の旨を伝え、メッセージは一度終了した。
今日の夜に通話がかかってくるのだろう。
俺は時間に遅れないで参加できるよう、急いで家に帰った。



夜九時になったとき、通知が来た。
『火恋が通話を開始しました』
俺はトイレに行ってからだったので少しだけだが遅れて通話に参加した。

「ごめん、ちょっとトイレに」
「あー、月くん!ヤッホー」
「遅いぞー、月」
「月くん、おひさだねぇ。っと、危ない」
「お、お久しぶりです!」
俺が参加した時はすでに日早片さん以外の人がそろっていた。

金美さんは相変わらずゲームをやっているようだった。
土門と紡木さんも挨拶を交わして本題に入ろうとしたが、まだ日早片さんがいない。
「あれ?日奈ちゃんは?」
「さっきのメッセージにも○のスタンプが来ていたし、わかってはいると思うんだけど…」
火恋さんと土門が話したとき、誰かが通話に参加したときに鳴る音が鳴った。

「あ!日奈ちゃんも来た!」
「日早片さん、久しぶりだねー」
「どうもぉ」
「お、お久しぶりです!」
「久しぶり」
俺たちが話しかけても返事はない。なんだか騒がしい音が聞こえてくる。

「ちょっと、これどうやって…。このボタン?わあ!」
突然日早片さんの顔がアップで映し出された。
どうやらビデオ通話にしたらしい。
「なんで私の顔だけ映っているの?というか部屋も見えてる…。なにこれ…」
日早片さんはとても慌てている様子だった。

「お、いいねー!日奈ちゃんがビデオにするなら私も…」
そう言って火恋さんもビデオ通話に切り替えた。
「ヤッホー!見えるー?」
火恋さんは画面に向かって手を振っていた。メガネをかけている姿は初めて見た。

「よし、俺もっ」
「私もそうしようかなぁ」
「わ、私もっ!」
火恋さんに続いて土門、金美さん、紡木さんもビデオ通話に切り替えた。
「じゃあ俺も」
俺もみんなに合わせてビデオ通話に切り替えた。

みんなの家での姿を見るのはほとんど初めてなので新鮮だ。
「あれ、みんな映ってる。これでいいの?」
「うんうん、これでおっけーだよ!じゃあみんなでお話しよー!」
日早片さんも落ち着きを取り戻したタイミングで火恋さんを中心に夏祭りの話し合いをした。
集合時間や場所、ときどき関係ない話なんかもしながら予定が決まっていった。



気づいたら話し始めてから一時間が経過していた。
「あ!もう十時だ!ごめんみんな、私この後見たいテレビがあるんだ…。予定も決まったし私ちょっと落ちちゃうね。私から誘ったのにごめん!」

「いや、予定も決まって、ちょうどいい時間だしお開きにしちゃうか。俺も風呂入らないといけないし」
「私もゲームしないとぉ」
「私も…」
「みんなごめん…。じゃあ来週の日曜日にね!楽しみ!それじゃあね!」

「お疲れー」
「ばいばぁい」
「さ、さようなら!」
「お疲れ様ー」
「えっと、さようなら」
みんなほぼ同時に解散して通話からいなくなった。俺と日早片さんを除いて…。

「あれ、これはどうやって…」
「右下のボタンで切れるよ」
「!?」
もうみんないなくなったと思っていたのか、日早片さんは驚いた様子だった。

「今日のメッセージ見て、入力するのが苦手なんだと思ったけどこっちも苦手だったんだ」
「苦手じゃない」
「じゃあ『にちようびはあいとい、るます』ってなに?」
「…」
日早片さんは少し黙り込んでから口を開いた。

「し、仕方ないでしょ。今まで使ったことなかったんだから…」
日早片さんは顔を少し赤くしていた。
「そ、それよりもどうしてあなたは残っているのよ」
「誰かさんが通話から抜けられなくて困っちゃうんじゃないかと思って」
「誰かさんって誰よ」
「さあ?」
日早片さんは顔をさらに赤くした。

「…はぁ。もういい」
俺はテストで完膚なきまでに叩きのめされた相手が慌てているのを見て、少しだけ嬉しくなってしまった。
「多分これからいっぱい使うと思うから、メッセージの入力には慣れておいた方が良いと思うよ」
「余計なお世話!」
日早片さんはそう言って俺をにらんできた。

「…ありがとう」
俺が返事をする前に通話からいなくなった。
(毎回お礼だけはしっかりしてくれるんだよな…)
体育祭、テスト&一学期お疲れ様会のことを思い出しながら俺も通話から退出した。



予定を立ててから時間が進むのはとても早く、あっという間に夏祭り当日となった。
「俺が一番か…」
待ち合わせ時間の十分前に駅前に到着したが、まだ誰も来ていなかった。

(まあ、みんなすぐ来るだろう…)
俺の次に来たのは紡木さんだった。
「つ、月くん!お久しぶりです!」
「紡木さん、久しぶり」

紡木さんは白いワンピースを着ていた。
夏といえばというような王道ではある気がするが、とても似合っている。
しばらく二人で話していると土門が来た。
紡木さんもかなり普通に土門と話せているし、もう男の人と話せないというのは克服できたのだろう。

「ご、ごめーん!お待たせ!!」
そう言って走ってきたのは火恋さん、と引っ張られている金美さんだった。
「金美ちゃんがなかなかゲームやめてくれなくて」
「ちょうどボス戦になっちゃったんだよぉ。でもしっかり倒してきたからぁ」
金美さんは親指を立てていた。

「大丈夫だよ。まだ時間過ぎてないし」
火恋さんはTシャツに長めのスカート、金美さんはオーバーサイズのTシャツに短めのデニムを着ていた。
俺はみんなの私服姿を見たことが無いのでとても新鮮だったのととても似合っていたのですこし緊張してしまった。
「あとは日早片さんだけだな」
「場所とかも大丈夫だと思うんだけど…」
ちょうど待ち合わせ時間になったタイミングで日早片さんがやってきた。

「ま、待たせてごめんなさい。ええと、時間がかかっちゃって…」
そこには浴衣姿の日早片さんがいた。とても綺麗だ。
周りにいた知らない人たちもこちらを見て何か話している。

「あ、あれ?みんな浴衣で来るのだと思ってて…」
「ひ、日奈ちゃん…」
「すっっっっっっっごい可愛い!!!似合ってる!」
火恋さんは少し溜めてから思ったことを叫んでいた。

「あ、ありがとう…」
「きれいだねぇ」
「ほんとに似合ってます!お綺麗です!」
「めちゃめち似合ってるな」
金美さんや紡木さん、土門も日早片さんに似合っていると声をかけていた。

「月は…。おや?月さん、見とれてますかな?」
「な!ち、違う!浴衣の人を見るのが久しぶりでびっくりしてただけだ!」
俺は何とかごまかしたが、正直図星だった。
薄い青の浴衣を着た日早片さんはとても美しくて思わず見とれてしまっていた。

「私、着替えてくる」
「ええ!なんでだよ」
「私だけ浴衣なの、恥ずかしい」
「そ、そんなことないよ!」
火恋さんがフォローしたが、日早片さんは駅に向かおうとしている。

「これからどんどん人が増えるし、今家に帰ってもすぐには戻ってこれないぞ」
「…」
日早片さんは俺の言ったことに納得したのか戻ってきた。

いつもの日早片さんならこんなことはしないだろうが、初めてみんなで予定を立てて遊ぶと言っていたので合わせたいのかもしれない。
その時火恋さんが突然思いついたように話し始めた。

「私も浴衣、着てみたい!」
日早片さんを気遣ってなのか、本当に着たくなったのかはわからない。
この言葉に土門が反応した。
「近くに浴衣レンタルがあるらしいぞ」

「え!じゃあさ、みんなで着てみない?いやだったらそこで脱いでもいいからさ!写真撮りたい!」
火恋さんの提案で、俺たちは浴衣レンタルをすることになった。

俺はお金の関係となんだか恥ずかしさもあって、その場だけにした。
土門も俺と同じでその場で着てみるだけにしていた。
動きにくいのが嫌だそうだ。
火恋さんたちはそのまま浴衣姿で夏祭りを回るらしい。

浴衣姿の彼女たちはとても綺麗で、俺なんかが一緒にいてもいいのかわからなくなってしまうほどだ。
みんなで浴衣の写真を撮った後、その写真を見てみんなでワイワイしていた。

俺たちも見せてもらい、すぐに火恋さんに返した。
遠目でみんなを見ていた時、日早片さんがすこし笑顔で話しているのに気づいた。
(日早片さんのああいう笑顔、初めて見たな…)
そう思った時、日早片さんと目が合った。

「…なに」
「いや、そうやって笑うんだなーって思ってさ」
「わ、悪い?」
「そんなことない。そっちの方が可愛いしいつも笑っていればいいのに」
俺は自分で何と言ったのか意識していなかった。
本心がぽろっと出てしまったのだ。

「…」
日早片さんが顔を赤くしているのでようやく自分がとんでもないことを言っているのに気づいた。
日早片さんは俺の脇腹をどついた後、火恋さんたちの方へ戻っていった。


後書き

二十二話です。最後まで読んでいただきありがとうございます。
夏祭りですね。私は覚えている限り一回しか行ったことないです。
次から何話か夏祭りの話が続きます。ぜひ読んでいただけたら嬉しいです。
感想も大大大大歓迎です。よろしくお願いします。


第一話〜はこちらから


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