「委員は恋に飢えている!」第21会



第21会「この気持ちは…(夏休み⑤)」


私は小さい時から頭がいい、天才だと周りからはやし立てられて育った。
どういうわけか頭がいい人は発表もできると勘違いされがちな気がしている。

普段の授業でも先生に当てられ、何か行事で挨拶をしないといけない時も頭がいいから、真面目だからという理由だけで私が任されることがほとんどだった。

私はあまり明るい性格でもないし、目立つことも好きではなかったのでこういうのは嫌いだった。
それでも任されたからにはと準備を念入りにして、練習もたくさんして。
いざ本番だとなると足が震えて言葉が出ない。

何回も繰り返していくうちに誰も私に任せることはなくなった。
私は正直ありがたかった。人前に立って話さなくてもいいのだから。
ただ自分の好きな勉強をしているだけで良くなったから。
こうして私が人前で発表をすることはなくなった。

高校生になり、美化委員に所属してからもこの生活は変わらなかった。
好きな動物たち、植物たちを育てながら学校の、そして自分の勉強を進める。

根は真面目だったのでテストで手を抜くなんてことはできず、毎回二位をとっていた。
周りの人に頼まれ、断り切れず私が美化委員の副委員長になったとき、たまたま学校に来ていた大学の教授に話しかけられ、私の個人的に取り組んでいる研究に興味を持たれ学会の発表に来てほしいと言われた。

私は行きたくなかったけど、どうしてもとお願いされ、勉くんにも頼まれて断り切れず参加することになった。
その時、藍ちゃんが一緒に着いてきてくれると言ってくれた時はとても嬉しかったな。

その学会での研究発表は大成功(ほとんど藍ちゃんがしてくれたんだけどね…)。
その後も参加するように頼まれ、この形式でよければということで何度も参加することになった。

結局ずっと藍ちゃんに頼りきりで、自分で何とかしようとしてこなかった。
その結果がこの状況を招いたんだ。
人前で話すことから逃げ続けて、どうにかしようとすらしてこなかった私。
こんな私が大勢の前に立つことなんてできるわけがない。
月くんが手伝ってくれると言ってくれたけど、やっぱり私には無理だ。

「それでも俺は、世理先輩のこと信じてます…!」

どうしてこんな私なんかを信じてくれるの?
逃げることしかできない、自分の欠点をどうにかしようともしない私なのに。

ステージには月くんが一人で立っている。
私がいま準備に手間取っていて、もう少し待っていてくれと教授たちや大人たちに説明して、何とかその場をつないでくれている。

何やってるんだ、私は。
いつも藍ちゃんに任せっきりで、藍ちゃんがいないとなったら月くんに…。
後輩たちに迷惑ばかりかけて。

その時、私の中でなにかが切れた。
恥ずかしい。自分があまりにも情けない。
そう思った時、そこにあったハサミを手に持っていた。
こうすれば、私が話していることよりもこっちに注目がいくはず。

それならもしかしたらできるかも…。
壇上には月くんもいてくれる。
こんな私を信じてくれた月くん、こんな私のためにいつも手を尽くしてくれた藍ちゃんの思いも無駄にしない。



「藍ちゃん!!」
「結川先輩!」
学会が終了し、俺たちは急いで別荘に向かった。
土門に連絡したところ、別荘で休んでいるということだったのでどこにもよらず直行した。

「月、世理先輩」
そこには土門だけがいた。
「藍ちゃんは…!」
「今、トイレに行きました。すぐ戻ってくると思います。さっきまで寝てて、結構回復もしてると…」
土門が説明してくれている間に、結川先輩は戻ってきた。

「月、世理先輩。もう戻ってk…って、ええ!?」
結川先輩は大きい声をあげた。

「藍ちゃん!体調は大丈夫なの?」
「あ、ええと、さっきまで寝てたのでだいぶ良くなりました。多分熱もほとんど下がってると思います。って、そんなことより世理先輩!どうしたんですかそれ!?」

結川先輩はとても驚いていた。それもそうだろう。
世理先輩の顔がはっきり見えるのだ。
俺も壇上に世理先輩が上がってきたときかなり驚いた。
あんなに長く、顔を隠せるほどあった髪がなくなっていたのだ。

「これは、ええと、なんていうか…」
世理先輩のなかで何か変わるものがあったのかもしれない。

「世理先輩…」
結川先輩は世理先輩の名前を呼んで、そのまま続けた。

「めっっっっっちゃ可愛い!です!」
「ええ!?」
「もちろん今までの長い髪も似合ってて、時々見えるレアな顔っていう感じも良かったんですけど、今の短くなった髪、常に見える可愛い顔。最高ですっ!!」
結川先輩は早口で語っていた。

「そ、そんなことないよ///」
「月も土門も。そう思うよな?」
「そうですね。可愛らしいです」
「可愛いですね」
「はぅ!///」
世理先輩は顔を髪で隠そうとした。しかしいつも顔を隠すために使っていた髪はもうない。

「あ、あれ、髪が…」
そして世理先輩は顔を真っ赤にして照れながら手で顔を隠していた。
「世理先輩を見たら一気に体調が回復しました。もう大丈夫です。元気でました」
そう言って結川先輩は世理先輩をカメラで撮っていた。

「や、やめてよ///」
「すみません、世理先輩。もう少し撮らせてください!」
少しといったものの、結川先輩のスマホのシャッター音はしばらく鳴りやまなかった。



「学会の方はどうだったんですか?」
結川先輩が俺たちに聞いてきた。
俺と世理先輩は顔を見合わせてから同時に答えた。
「「大成功!」です!」

「そうですか。よかったです。世理先輩、それと月と土門も。ご迷惑をおかけしてすみませんでした」
結川先輩は俺たちに向かって頭を下げた。

「や、やめてよ藍ちゃん!」
「そうですよ。元はといえば俺たちが気を遣わせてしまったのがいけないですし…」
「結川先輩は何も悪くないです。俺が水を庇えなかったのが…」
土門は別の部分で悔やんでいた。

「でも…」
「藍ちゃん。今までほんとうにありがとう。私、藍ちゃんにずっと甘えてた。でも今回、藍ちゃんと離れちゃったことで自分でもなんとかしないといけないことに気づいたの。これからは少しずつ一人でもなんとかできるよう頑張るね!」

「そんな…。私はもう用済みですか…?」
「そんなことない!私はきっと一人で何とかするって言ってもなかなか前に進めないと思う。だから、藍ちゃん。これからも私のお手伝い、してくれる?もちろん私も頑張るけどさ」

その言葉を聞いて結川先輩はとてもうれしそうに笑って答えた。
「もちろんですっ!」



結局私たちはどこかに出かけるということもなく学会発表は終了した。
藍ちゃんが体調を崩しちゃったから仕方がない。
帰るときにはすっかり元気だったから、本当に疲れが溜まっちゃってたんだと思う。

「月くん」
帰りに月くんに声をかけた。
改めて感謝を伝えるのとこの気持ちを確かめるために。

「あの、ありがとうね。私を信じるって言ってくれて」
「いえ、きっと世理先輩なら壇上に来てくれるって思ったので」
「月くんの言葉で私、頑張れた」
「本当ですか?」
「もちろんっ。それに、今回の研究、実はずっと行き詰ってたの。でも月くんと勉強会をしたでしょ?そこで月くんに教えてるうちになんだかビビッと閃いちゃって論文まで完成させれたんだよ」
月くんはあのときかと気づいた顔をしていた。

「月くんといると、研究も閃いちゃうし少しだけど一人でも人前に立つこともできたし…。なんだかいろんなものを貰っちゃってる気がする」
この気持ちももしかしたら月くんから貰うものになるかもしれない。
「なんか、そう言ってもらえてうれしいです。世理先輩の力になれたなら、良かったです」
そう笑顔で答えた月くんを見て私は確信した。

(ああ、私、月くんのこと…)
意識してしまうととても恥ずかしくなってしまう。

「世理先輩…?」
彼のことが「好き」だと気づいてしまうと名前を呼ばれるだけで顔が赤く、熱くなってしまう。

「なんか顔、赤くないですか?もしかして、結川先輩のうつっちゃったんですか!?」
そして「好き」だと気づいてしまうと彼の言動すべてが愛おしく見えてしまう。

「違うよ!これは…。月くんのせいっ」
「ええ!?どうして俺なんですか!」
「内緒!」

私は初めて、誰かを好きになる、恋をするという気持ちを知った。


後書き

二十一話です。最後まで読んでいただきありがとうございます。
世理先輩、髪切っちゃいました。あと好きになっちゃいました。
頑張ってほしいですね。
続きもぜひ読んでいただけたら嬉しいです。感想も大大大大歓迎です。
よろしくお願いします。


第一話〜はこちらから


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