「委員は恋に飢えている!」第5会

第5会「お家デート?」


「お、おじゃまします…」
「はぁい、入って入ってぇ」
流れで金美さんの家に来てしまった。

「二階に上がってすぐ左が私の部屋だからぁ、先に行っててぇ」
そう言って金美さんはリビングに行ってしまった。
(そんなこと言われても、いきなり女子の部屋なんて…)
そう思ったが、玄関で立ち往生しても仕方がないのでとりあえず部屋に行くことにした。

「失礼しま〜す」
ゆっくりドアを開けて部屋に入る。
そこには俺の想像していたものと真逆の世界が広がっていた。
「ゲームばっかりだ…」

女子の部屋ということで俺はぬいぐるみや可愛いものがあるものだと思い込んでいたが、金美さんの部屋は違う。
ゲーム好きだとはいうものの、ここまでとは思わなかった。
「おまたせぇ、これ、飲み物とお菓子だよぉ」
金美さんはそう言って飲み物とお菓子を置くと部屋着に着替え始めた。

(俺がいるのに…)
何とか気を紛らわそうと金美さんに話しかける。
「ゲームたくさんあるね。全部金美さんの?」
「そうだよぉ。昔のから最新のまで。頑張って集めたんだぁ」
金美さんはとても楽しそうに話してくれた。

「じゃあ、ゲームやろっかぁ」
部屋着に着替え終わった金美さんは、そう言ってゲームのスイッチを入れた。


「また負けた…」
しばらく二人でゲームをしていたが、俺は金美さんに一度も勝てなかった。
初心者ではあるが、金美さんから教えてもらいそれなりにできるようになったので一回でも勝てるかなと思ったが無理だった。

「でも月くん、すごいセンスあるよぉ。初心者なのにこんなにできるなんてぇ」
金美さんはこちらを見てフォローしてくれた。
今気づいたのだが、距離がものすごく近い。金美さんはラフな格好で、首元が広い服を着ているのでかがむと胸が見えそうだ。

さっきまではゲームに集中していたので忘れていたが、今は女子の部屋に女子と二人きりだ。
(この状況、だいぶまずくないか?女子と二人で、しかも家で遊ぶってお家デートみたいなものなんじゃ…)
そう考え始めたら意識せずにはいられなくなり、緊張が止まらなかった。

「どうしたのぉ?疲れたぁ?」
金美さんは不思議そうにして顔をこちらに近づけてくる。
(ち、近い!誰か、何とかしてくれ!)

その時、家のドアが開く音がした。
足音はこの部屋まで近づいてくる。
そして勢いよくドアが開けられた。

「金美!あんたは本当になんてことしてくれたのよ!」
金恵先輩が帰ってきたのだ。金恵先輩は俺のことを無視して金美さんに近づき、頬を引っ張った。
「あんたのせいで!私は!どれだけ恥を!」

金美さんの頬がものすごく伸びている。
「い、いふぁいよぉ、おねえひゃん」
金美さんの頬がちぎれそうなので俺は止めに入った。

「まあまあ、金恵先輩、落ち着いてください」
「え?なんで月くんがいるの?」
やっぱり気づいてなかったらしい。俺は事情を説明した。

「そうだったのね」
俺は金恵先輩と冬馬先輩の方も気になったので聞いてみた。
「金恵先輩の方はどうだったんですか?」
「ええ!?特にどうということはないわよ…」
「まただんまりしてたのぉ?」
「そういうわけじゃないけど…」
「じゃあ、話はできたんですね!」
そう聞いてみると金恵先輩は顔を赤くしてうつむきながら首を縦に振った。

「「やった!」」
俺と金美さんは二人でハイタッチをする。
「どんな話をしたのぉ?」
金恵先輩は顔を赤くしてゆっくり、時々恥じらいながらもずっと笑顔で話してくれた。



「じゃあ、そろそろ帰りますね」
だいぶじかんもたったので俺は帰る支度をする。
「そっかぁ。じゃあ近くまで送るよぉ」
そう言って金美さんは俺を送ってくれた。

「今日はありがとうねぇ」
「いや、あれは金美さんの作戦で俺は全然…」
「それもだけどぉ、一緒にゲームしてくれてぇ」
「俺も初めてやってみたけど、すごい楽しかった!金美さんの言う通りハマっちゃうね!」
「…」

金美さんは少し考えた後、ゆっくり口を開いた。
「私さぁ、お姉ちゃんが大好きなんだぁ。昔からなんでもできてすごくて。でもお姉ちゃんは習い事とかで全然一緒に遊んでくれなくてさぁ。その寂しさを紛らわすためにゲームも始めたんだよねぇ」
話してくれた金美さんは少し照れくさそうにしてた。

「でもこういうのって口にしづらいからさぁ。一緒にゲームしようっても言いにくくてさぁ。だから今日月くんと一緒にゲームができて本当に楽しかったぁ」
金美さんは満面の笑みをこちらに向けてそう話してくれた。
「そっか…」
「じゃあ!また一緒にゲームしよう!今度は金恵先輩も誘ってさ!次は負けないよ!」

俺がそう答えると金美さんも笑顔で頷いてくれた。
こうして俺たちの「くっつき大作戦」は大成功に終わった。


 次の日の放課後。今日は委員会の日なので、経理委員室に向かった。
ドアを開けると、金美さんと金恵先輩がすでに仕事を始めていた。

「お疲れ様です」
「お疲れぇ。」
「お疲れ様」
挨拶を交わし、仕事に取り掛かる。

(金恵先輩も冬馬先輩と話せるようになったし、後は仕事を頑張るだけだな)

「お疲れ様!」
「委員長、お疲れ様でぇす」
「お疲れ様です」
「…」

俺と金美さんは挨拶を返すが、金恵先輩は黙っている。
(あれ?)
そのまま仕事を続け、しばらくすると冬馬先輩が経理委員室からいなくなった。

「金恵先輩?」
「お姉ちゃん?」
金恵先輩はプルプル震えて口を開いた。

「どうしよう!冷静に考えて、メイド服着て二人でお話なんて意味わかんないじゃない!?昨日のことを思い出したらまた恥ずかしくなっちゃって、話せなくて。挨拶もできなくなっちゃった…」

金恵先輩は涙目になりながら金美さんの肩をつかんで揺らしている。
俺と金美さんは顔を見合わせて肩を落とした。
金恵先輩の「くっつき大作戦」が成功するのはまだまだ先になりそうだ。




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