「委員は恋に飢えている!」第9会



第9会「委員とテストとお仕事と」


 体育祭も終わり、今日から普通の生活に戻った。
土門のケガも大したことなかったようで、二、三日安静にしていたら治ったそうだ。
俺は今日からの三週間、美化委員に所属することになっている。

「なあ、土門。俺今日から美化委員なんだけどさ、なんか大変なことってあるか?」
「いや、そこまでじゃないと思うぞ。仕事としては校内清掃の見回り、設備や備品のチェック、動植物の世話だな。まあ俺たち一年生は動植物の世話がメインで、少しだけ見回りもするって感じだ」

「なるほどね。じゃあ一緒に行こうぜ」
「悪い。今日は当番じゃなくて、さらに部活なんだ」
「そっか、大変だな。頑張って」
そう言って土門と別れたあと、俺は美化委員室に向かった。

「失礼します」
美化委員室のドアを開けたが誰もいない。みんな見回りに行ってるのだろうか。
入れ違いになるかもと思ったが、ここにいても仕方がないので委員長を探しに行くことにした。
(たしか、動植物の世話だったな…)
土門から教えてもらったことを思い出して、飼育小屋に向かった。



 この学校では、なぜかウサギ、鶏、モルモット、ハリネズミを飼っているらしい。
植物は、名前はわからないがたくさんの種類の花が育てられている。
飼育小屋に着くと、二人が花に水をあげていた。

「あのー、美化委員の方ですよね?」
俺が尋ねると、二人ともこちらに振り向く。

「今日から三週間美化委員で仕事します。生徒会仮役員の月浦月です。よろしくお願いします」
「お前が月浦月か。どんくさそうな顔をしているな。くれぐれも世理先輩の足を引っ張ることが無いようにな」

そこに立っていた女性にかなり高圧的な態度で返事をされた。手にはぞうさんをかたどったじょうろを持っている。
「ら、藍ちゃん、そんなに威嚇したらだめだよ…」

そう言って藍さんという人をたしなめている女性は顔が隠れてしまうほど長い緑色の髪をしていた。
「せ、世理秋生せりあきなで、です。い、一応美化委員の委員長、で、です」
美化委員の委員長、世理先輩は自己紹介をしてくれた後、横の髪を顔の前に持ってきて、ただでさえ見えにくい顔を隠している。

「ら、藍ちゃんも自己紹介して」
世理先輩に言われ、藍さんという人はすぐさま自己紹介をしてくれた。
結川藍ゆいかわらん。二年。副委員長だ」
不服そうな顔でこちらを見ている。

(なんか、怖いな)
それが副委員長、結川先輩の第一印象だ。世理先輩は正反対で、ものすごく優しそうな雰囲気をしている。

「あ、あの、俺はこれから三週間、どんな仕事をするのでしょうか」
土門からなんとなくは聞いていたが、改めて確認をする。

「ふん、お前なんかにできる仕事は…」
「藍ちゃん!だめっ」
「申し訳ありません、世理先輩」
そう言って結川先輩は咳払いをし、説明をしてくれた。

「美化委員では基本的に校内清掃の見回り、設備や備品のチェック、動植物の世話だ。お前にはこの子たちの世話をしてもらう」
そう言って結川先輩は後ろにいる動物たちと植物たちを指さした。

「少しでも雑に扱ってみろ。私がお前をボコボコにして…」
「藍ちゃん、めっ」
「申し訳ありません、世理先輩」

結川先輩はさっきから世理先輩に謝っているが、どちらかというと俺に向けるべきではないだろうか。
そう思ったがこれは口に出さないでおいた。

「つ、月くん、だ、大丈夫、です。わ、私たちも、ま、毎日来てお世話しますので」
世理先輩はそう言ってフォローしてくれた。

「ありがとうございます。分からないこともたくさんあると思うので、よろしくお願いします」
俺が挨拶すると、世理先輩は優しく、結川先輩は不機嫌そうに返してくれた。



 次の日から美化委員での仕事が始まった。
土門も言っていたように、そこまで大変だとは感じない。むしろかわいい動物やきれいな植物を見ていて癒されている。

「お疲れ様です。世理先輩、結川先輩」
「つ、月くん、お、お疲れ様」
「ふん」
やはり結川先輩は高圧的だ。あまり好かれていないのだろう。

俺はそのまま動物たちの世話をしに行った。
「藍ちゃん、ちょっと動物たちの方見てきてくれる?」
(結川先輩、俺のこと好きじゃないだろうし嫌がるだろうな)
「わかりました」
結川先輩はすんなりこちら側に来て世話を始めた。

「あれ」
「なんだよ」
「いや、結川先輩、俺のこと嫌いだと思ったんですけど、すんなり来たので」

「お前のことは嫌いだよ。いろんな女子をとっかえひっかえ引き連れて。でも世理先輩からの指示だからな」
そう言って結川先輩は黙々と作業を続けた。
結川先輩は世理先輩のことをかなり慕っているようだった。

「だから!お前は!絶対世理先輩に近づけさせないからな!世理先輩は私が守るんだ」
「そんなこと言われても…」
もし世理先輩に話しかけられたり指示を出されたりしたら従うしかないのでどうしようもない。

「藍ちゃん、手伝って〜」
「はい、世理先輩、今行きます!」
結川先輩は目にも留まらぬ速さで世理先輩のもとへ行ってしまった。

(世理先輩のこと、大好きなんだな)
そう思いながら、その日は自分がやるべき作業を終わらせ、放課後となった。



「お、土門」
「月。そっちも今終わりか?」
「ああ。動物と花の世話、楽しいな」
「いいなぁ。俺は今週、清掃の見回りだぜ」
玄関で土門と会い、俺たちはそのまま一緒に帰ることにした。

「そういえば、あとちょっとで期末テストだな」
「嫌なこと思い出させないでくれよ。俺大丈夫かな」
「おいおい、生徒会長を目指してるんだろ?生徒会長はたしか成績も維持できないとだめって言ってたよな。今からそんなので大丈夫かー?」

「俺、生物とか物理とか、理科がだめなんだよ。苦手なんだよな」
「生物ね…。俺はどの科目ってよりも全体的にもうちょい詰めないとな」

学生生活で避けては通れないテスト。生徒会長になる条件として、一年生からのテストで毎回上位三割(45/150)にならなければならず、二年時からは特進クラスに進級しなければならないので一年時のテストからしっかり取り組まなければいけない。
俺は、受験時の順位では三割以内に入ることができていたが、今は委員会活動もあるので周りと差ができてしまっているかもしれない。

「とにかく、お互い頑張ろう」
「そうだな。まあ、もしお前が三割に入れなくて生徒会長になれないってなったら俺が代わりになってやるよ」
「なっ。ゴ、ゴホンッ。そんなことにはならないから安心しろよ」
「そうかよ。じゃあ、また明日な」
そう言って俺たちはそれぞれの帰路についた。

土門の言う通り、このテストでいきなり上位三割に入れなければ生徒会長という目標はいきなりついえてしまう。
そうならないためにも苦手科目を何とかしようと決心したが、苦手なものはどう勉強しようかもなかなかわからない。

俺は悩みながら家に帰った。



 数日後、俺は美化委員室に向かっていた。委員の仕事をする前に少し寄ろうと思っただけで特に理由はなかった。
「失礼します」
美化委員室に入ると、そこには見たことのある顔の人がいた。

「冬馬先輩!?お疲れ様です」
「お、月。順調にいろんな委員会回れてるか?」
「はい!今のところ問題なくサインももらえています」
「それは良かった」

冬馬先輩は経理委員の委員長で、現委員長の中で唯一の男なので俺はかなり話しやすく感じていた。
「どうして冬馬先輩がここに?」
「どうしてって、そりゃ委員会の仕事をするためだよ」

「だって、冬馬先輩、経理委員じゃないですか」
「美化委員は校内の環境を整えるのが仕事だろ?だから備品や設備のチェックもしてる。月も覚えてると思うけど、経理委員は備品の購入とかの仕事もしてただろ?書類系は金恵に任せて、俺はこうして美化委員といろいろ共有してデータをとってるってわけ。部活にも顔を出して部費の話とかしてるぞ」
冬馬先輩の後ろには世理先輩もいた。陰に隠れていてわからなかった。

「世理先輩、お疲れ様です」
「お、お疲れ様」
どうやら冬馬先輩がいつもいなかったのは仕事をさぼっていたわけではなかったようだ。

こうして一つ解けた謎にすっきりしていると、冬馬先輩が声をかけてきた。
「そういえば、もうすぐ期末テストだよな?おい月、お前大丈夫か〜?」
「そうなんですよ。実は…」
俺は苦手科目である理科の勉強に困っていることを話した。

「なんだ、お前理科が苦手なのか。それならここにいる秋生に教えてもらえよ」
「えぇ!?」
世理先輩はびっくりした様子で冬馬先輩の方を見ている。
「秋生はな、すごいぞ。頭がめちゃくちゃ良くて理科が半端なくできるんだ。特に生物に関してはこの学校で右に出るものはいないな。勉、生徒会長でさえ理科は秋生に負ける」

「そ、そんなこと、ない、よぉ」
そう褒められて世理先輩は髪を顔の前に持ってきて隠している。
どうやら世理先輩は恥ずかしい時や照れている時にこの動きをするのが癖みたいだ。

「ま、どうするかは二人次第だけどさ。とりあえず、頑張れよ」
そう言って冬馬先輩は俺の胸に軽く手の甲を二回ほど当て、美化委員室を出ていった。

「世理先輩、さっきの話、本当なんですか!?」
「う、んー。冬馬くんも大げさに言ってるけど、たしかに理科、生物は得意だよ」
「あの、世理先輩。もし迷惑でなければなんですけど、俺に理科、教えてくれませんか?」
俺は世理先輩に頼み込んだ。もし教えてもらえれば、理科でも点数が取れるはずだ。

「あ、あの、ええと…」
「すみません。先輩も自分の勉強がありますよね…」
「い、いや、そういうわけじゃないの!ただ、私でいいのかなって…」
「先輩がいいんです」
「ひぇあ!!」
世理先輩は変な声を出して顔を髪で隠してしまった。

「世理先輩…?」
「うん、私でよければ、月くんの力になるよ」
「!ありがとうございます!」
これで理科の心配もいらなくなった。

「じゃあ、早速今日、仕事が終わったらお願いしてもいいですか!」
「う、うん」
こうして俺は、今日からしばらく世理先輩とテスト勉強をすることになった。


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