「委員は恋に飢えている!」第36会



第36会「最皇祭!②」


五組の喫茶店を後にして時間を確認すると、時計の針は三時半を指していた。
最皇祭一日目が終了するまで残り一時間半。
次はどこに行こうかと思った時、四組の教室から見覚えのある人が顔を抑えながら出てきた。

「世理先輩」
「つつつつつ、月くん!?」
「占い、どうでした?」
「ふぇ!?う、占いね、占い…。占いは…」
「?」
「占いはーーー!!!」
世理先輩はそう叫びながら走っていなくなってしまった。

どうしたんだろうか…。
四組の前を見てみると、空いている様子だったので俺は紡木さんの占いを受けてみることにした。
中に入るとさらに個室があり、そこで占いが行われているようだ。
前には二組ほど並んでいたので、その後ろに並んだ。

「かなり当たるって噂だよ」
「ほんとに?何でも占ってくれるのかな?」
「部活の先輩がね、初めてこの教室に来てはじめましての相手なのに得意科目とか苦手科目、性格とか好きなタイプなんかも当てられてびっくりしたって言ってた!」
「ええー!?じゃあ、私の恋愛についてとかも占ってくれるのかな?」
前に並んでいる人たちからこの占いの評判が聞こえてきた。
どうやらかなり当たるらしい。

「お、記録係さんではないですかー」
「ええと…、衣装係さん?」
「そうでーす。来てくれたんですね」
「まあ…」
「紡木ちゃんに会いに?」
「そういうわけじゃ…」
「違うんですか?」
「…占いをしに来たんですが…」
「そうですかー」
なんだかつかみにくい人だ。

「紡木ちゃんの占い。かなり好評なんですよー。嫌がっていた割に、いざやるぞ!ってなったら意外とノリノリでやってくれてー。それでいて当たるもんだから、今は落ち着いてますけどお客さんが絶えなくてですねー。ほんとにさっき、ひと段落したって感じなんですー」
「そうなんですね。大人気の占い、楽しみです」
俺がそう答えると、その人は鼻息を鳴らしながら俺に質問した。

「ふんすっ!やっぱり恋愛相談ですかー?」
「いや、そういうわけじゃ…」
「するべきです!この占い、当たるので」
「はぁ…」
「特に、紡木ちゃんとの相性を見てもらいましょう」
「なんで!?てか本人に本人との相性を!?」

「私、準備期間に初めて紡木ちゃんとしっかり話したんですけど、結構話が合うんです。私も少女漫画とかラブコメとか読むので。これからもっと仲良くしていくつもりですけど」
「そうなんですね…」
「だから恋愛相談してください」
「一体何の関係が…」

「…つまり、私は紡木ちゃんには自分の気持ちに正直に、そして幸せになってほしいんです」
「…たしかに幸せになってほしいのはわかりますけど、どうして俺と紡木さんの相性が関係するんですか?」
俺がそう答えると、その人は目を丸くして俺を見つめた。

「…ほぉ。こんな人がこの世にいるなんて…。あなたは案外ラブコメの主人公気質なのではないですか?」
「え、何でですか」
「…まあいいです。とりあえず、それを聞いてみてください。もしかしたら占いだからという理由で紡木ちゃんも正直に話してくれるかもしれません」

そんな会話をしていると、俺の前にいた人たちが個室から出てきた。
「さあ、次はあなたです。どうぞ入ってください」
俺は案内されるまま個室に入っていった。
「ぜひ、聞いてくださいね」
「わかりましたよ…」
そして俺は紡木さんと向かい合うようにして用意された椅子に座った。



「…ふふふ。ようこそ四組の占いの館へ。あなたの悩み、聞きたい、気になること、何でも占って差し上げましょう」
(ほ、本格的だ…!)
「さあ、何を聞きたいですか?」
紡木さんはそう言いながら手を目の前の水晶玉の前で回していた。
ローブで見えていないのか、あるいは入り込みすぎているのか…。
周りが騒がしくて暗いのも相まって、俺だということに気づいていないようだ。

「そ、それじゃあ最初は勉強についてとか…」
「いいでしょう」
そう言うと紡木さんは手を回して水晶玉を擦り始めた。

「見える、見えますよ…。あなたの得意科目は国語、苦手科目は理科ですね?」
「せ、正解です…」
ほんとうに当てられてしまった。

「あなたは苦手な理科をある人から教えてもらって得意になりつつある…。このままいけば苦手科目はなくなると言っていいでしょう」
「ほんとうですか!」
「でもこのままで大丈夫だとからといって調子に乗るのもだめですよ?理科のように、わからないものが出てきたら誰かに聞いて解決していきましょう。これがあなたの成績を今よりさらに上げる近道です…」

これが本当なのかは置いておいて、紡木さんの言う通りこれから気を引き締めて勉強していこう。
「それでは、あと一つ…」
どうやら占ってくれるのは二つまでようだ。

その時、入る前に案内してくれた彼女との会話を思い出した。
(紡木さんとの相性、か…。どうやって聞けばいいんだ…?)
今紡木さんに自分との相性を聞いたら紡木さんに気づかれるかもしれない。

「もう一つは何にしますか?」
「ええと…」
「私が聞いてもいいですかー?」
「え?」

俺がどう聞こうか悩んでいると、後ろからさっきの彼女が出てきて質問した。
「し、しまちゃん!?」
「記録係さんも、いいですかー?」
「俺はいいけど…」
「つ、月くん!?」

ここで紡木さんは俺に気づいたようだ。そして衣装係で案内人だった彼女は「しま」というらしい。
「あはは…。どーも…」
「それじゃあ、私から質問ねー」

しまさんは一度メガネをクイッとあげ、紡木さんの方を向いた。
「占い師さんと相性がいい人って誰なんですかー?もちろん恋愛面ですー」
「え?わ、私ですか?」
「そうでーす」
「なんでですか!?」
「だめですかー」

紡木さんは早口でしまさんにツッコんだ。
しまさんもすぐに引き下がる。
「それじゃあ、私の友達のはなしでもいいですかー?」
「それなら…」
「私の友達の話なんですけどー、気になっている人がいるらしくてー」
「はいはい」
「その人と相手さんの相性とかを占ってほしいんですよー」
「わかりました」

もしかしてこれは…。
「では、その友達の特徴と相手の人の特徴を教えてください」
「友達は黒髪ショートでメガネをかけてー」
「はいはい」
「真面目な感じで引っ込み思案なところもあってー」
「ふむふむ」
「本とか漫画を読むのが好きな子ー」
「…それって私…じゃないですか?」
「全然違うよー」
そう言ってしまさんは首を振った。

「そうですか…。では相手の方の特徴を…」
「相手はこの方です」
しまさんは俺の方に指をさしている。
「月くんなんですか!?」
「そうですー」
「あ、あはは…」
俺は愛想笑いをするしかなかった。

「…」
「占い師さんー?」
「…ほんとに、月くんなんですか?」
「そうですってー」
「…わかりました。ではしまちゃんのお友達さんと月くんの相性を占います…」
「よろしくー」
そう言うと紡木さんはさっきと同じように水晶玉の前で手を回し始めた。

「…見えました」
「おおー、結果はー?」
「結果は…」
「結果はー?」
「…」
俺まで緊張してきてつばを飲み込む。

「…です」
「えー?」
「…いいです」
「んー?」
「いいです!!!!」
「何がー?」
「相性が!いいです!その二人は!」

紡木さんが勢いよく答えたので、反動でローブが落ちた。
紡木さんの顔は真っ赤だ。
「そうなんだー。相性、いいんだってさー」
しまさんは俺の方を向いてそう言った。

「そ、そうなんだ…」
どういえばいいのか分からず、それしか出てこない。。
「ってあれー?どうして占い師さんが赤くなってるんですかー?」
「それは…。ず、ずっとローブ被ってて暑かったんです!」
「ふーん、なるほどー。では、私は友達に結果を伝えてきますねー」
そう言ってしまさんは個室から出ていった。

「紡木さん、これ…」
「あ、ありがとうござ…。ありがとう」
俺は紡木さんが落としたローブを拾って渡した。
「占い、一つ目の方、ぴったり当てられてびっくりしたよ」
「こ、これはこの水晶玉がすごいらしくて…。」
「この水晶玉が…。しかも精度も完璧…」
「きっと月くんにもできるよ」
「今度貸してよ…」
「喜んで」

紡木さんとやり取りをしている間、紡木さんはずっと下を向いているままだった。
「それじゃあ、また…」
「はい…」
「あ、そうだ」
「?」
「記録のための写真、いいかな?」
「あ、うん。どうぞ…」
俺は紡木さんが占っている様子を写真に撮らせてもらった。

「ありがとう。それじゃあ今度こそ…」
「あの!」
「一緒に一枚、どう…ですか…」
「なんていうか、ほら!占っている相手もいたほうがいいかと…」
「ああ、たしかに!」

こうして俺はしまさんを呼んで紡木さんとの写真を撮ってもらい、四組を後にしたのだった。



当たると噂の一年四組の占い。私は今その教室の前にいる。
まあ、科学でもない、所詮バーナム効果の占いだけど。
一応、時間があるから占ってもらおうかな…。

「悩み、聞きたいこと、何でも聞いてください。占って差し上げましょう…」
「わ、私の恋愛について占ってください!」
「わかりました。それではあなたと相手の特徴を…」

そう答えた占い師さんに私は自分のことと相手の、月浦月くんの特徴を伝えた。
「…なるほど。見えました」
「あなたと相手の相性は…。すごくいいですね」
「!」

私と月くんの相性がいい…。ということはもしかしてもしかすると…。
「ありがとうございます!」
「いえいえ…。それでは二つ目のことを…」
「じゃ、じゃあ、その恋愛なんですけど、何かアドバイスとかって…」
「アドバイスですか…」

私が占い師さんにアドバイスを求めると、占い師さんはたくさんのことを教えてくれた。
相手を振り向かせるには自分を女性として見てもらうこと、タイミングと駆け引きが大事だということ、グイグイ攻めることが大切だということ…。
そしてそれを実践する方法まで…。
「では、あなたの恋愛がうまく実ることを願っています…」
「ありがとうございます!」

私は占い師さんにお礼を言って教室を後にした。
占い師さんからの答えを思い出し浮かれている私。その時、私の名を呼ぶ声がした。
相手はさっき占ってもらった私の好きな人。さっきの言葉を思い出す。
(あなたと相手の相性はいいです…)

好きな人と相性がいい。その相手が目の前に。
そしてさっき教えてもらったアドバイス…。
女性として見てもらうにはあんなことやこんなことを…。しかもグイグイ行きながら…。
いきなりの遭遇とさっきのアドバイスに恥ずかしくなってしまった私は、急いでその場から逃げ出した…。



お客さんを占っていたらいきなりしまちゃんが入ってきた。
どうしてしまちゃんが…。っていうか、お客さんって月くんだったの!?
そういえば来てくれるって言っていたような…。

それにしてもしまちゃんの変な質問…。
友達の話って言ってたけど、これって私のことじゃない…?
別に月くんのことが好きってわけじゃない…けど…。

一応占ってみようかな…。一応ね、一応。
この占い、本当に当たるんだよね…。水晶玉がすごいらしくて…。
さっきまでと同じように水晶玉の前で手を回して…。

私は水晶玉に見えた言葉を心の中で読む。
(相性は…とてもいい…)
私と月くんは…。

私は水晶玉に出てきた言葉を二人にそのまま伝える。
しまちゃんは出て行って月くんと二人きりになった。
月くんが記録のために写真を撮って教室から出ていこうとする。
気づいたら私は月くんを呼び止めていた。

(どうしよう!何か、理由を…!)
二人の写真の方が良いのではという苦し紛れの言い訳を思いついて伝える。
ああ、きっと私はもう…。

月くんが出ていった後、一人で占ってみた。
「私はいつから彼のこと…」
きっとあの日、彼が助けてくれたあの時から惹かれてはいたんだ。多分好きになったのはもう少し後の…。

水晶玉に出てきた答えを見る。
(やっぱり…)
夏休み、みんなで言った夏祭りのあの時。
彼と一緒に迷子の子を助けて、一緒に花火を見たあの日から私は彼を好きになっていた…。


後書き

三十六話です。最後まで読んでいただきありがとうございます。
これで一応一日目は終わりという感じにしようと思います。次からは二日目に入ります。
二日目にも何かが起こるか…?それとも平和に終わるのか…?
ちなみに今回出てきた「しまちゃん」は四組での紡木さんの友達で、まあモブキャラではあります。
でも個人的に好きです。今後出てくるかはわかりません。
あと、今回で月を好きだと気づいた人が増えましたね。
続きもぜひ読んでいただけたら嬉しいです。感想も大大大大歓迎です。
よろしくお願いします。


第一話〜はこちらから


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