「委員は恋に飢えている!」第26会



第26会「それぞれの夏休み1(夏休み⑩)」

○火恋の早朝ランニング


「はぁ、はぁ」
現在の時刻は朝六時二十分。
今日はたまたま早く目が覚めてしまい、せっかく早起きできたならということで早朝ランニングに取り組んでいた。

私は夏休み中、ほぼ毎日走っている。
いつもはもう少し遅めだったり午後から走ったりとバラバラだが、昨日天気予報で十時頃から気温が上がると言っていて、タイミングが良かった。
私は中学まで陸上部に所属していたので走るのは好きだし、体を動かして汗をかくのは気持ちがいい。

「ふうー」
いつものコースを走り終えた私は軽く周りを歩き始める。
走ってすぐに止まると心臓に負担がかかっちゃうからねっ!
周りの木々が風で揺れて音を立てている。

「んんー、気持ちいいなー」
朝で暑すぎない気温ではあるが、さっきまで走っていた私の体は熱くなっているので風が気持ちいい。
これからは今日みたいに早朝ランニングに切り替えようかと思うほどだ。
起きれるかわからないんだけど…。
そんな感じで歩いていると、ウォーキングをしているおばあさんに声をかけられた。

「お!お嬢さん、見ない顔だね。朝早くから運動かい?」
「おはようございます!そうですね、いつも走ってるんですけど今日はたまたま早く起きれたので早朝ランニングしようかなって」
「元気があっていいねぇ!私も負けてられないよ!」
そのおばあさんはいかにも走ります!というような恰好をしていた。

「おばさんはいつもこの時間に?」
「ええ。今は走る前のウォーミングアップ。これからちょうど走るわよ。いつもは私一人なんだけど。昔はもう少しいたんだよ…。よかったらお嬢ちゃんもどうだい?」
おばあさんは優しい声で私を誘ってくれた。
まるで自分の孫を見るような、とても優しい瞳だ。

「んー、そうですね。…それじゃあ少し走りますか?」
私はさっき走り終えたばっかりだが、余裕もあったしこの時間に来たからこその出会いもいいなと思ったので誘いに乗ることにした。
それにこのおばあさん、なんだか可愛い…。

「あら!ほんとう?私、いつも一人で走っていたからあなたが一緒に走ってくれるのすごく嬉しいわ!」
おばあさんは私の手を掴んで上下にぶんぶんと振った。ほんとに嬉しそうだ。

「私も。一緒に走ってくれる方がいてくれて嬉しいです」
私もおばあさんに笑顔でそう答えた。
そして私たちは一緒に走り始めた。


おばあさんは毎日走っているだけあって、普通に走っていた。
私はさっき走っていて少し疲れていたこともあり、おばあさんと並ぶのに割と必死だった。
二人で並んで、時々お話して。
そしてコースを一周して二人でゆっくり歩いた。

「私にもあなたと同じくらいの孫がいてね。その子は外になんて絶対出ないような子なんだけど。ずーっとスマホ?ゲーム機?をいじっているわ」
「そうなんですね。私にもそういう友達、いますよ。ずーっとゲームしてる子」
「あら、そう?最近はそういうのが流行っているのかしら?あの子、友達いるといいんだけど…」

「きっと大丈夫ですよ!私のその友達も、ちゃんと友達いますし。もし本当に友達がいないようでしたら、私が友達になります!」
「あらあら。本当に優しいのね、火恋ちゃんは。その時はお願いしようかしら」
そんな会話をして私たちは今日のランニングを終了した。

「今日は本当に楽しかったわ。また今度、一緒に走りましょうね」
「はい!もちろんです!また走りましょう!」
私はおばあさんに別れを告げ、家に帰った。

おばあさんと一緒に走ってお話しできて楽しかったなー。
この時間に走ったからこそ出会えた人。
たまにはいつもと違うことをしてみるのもいいな。

「よーし、今日は課題も、いつもより頑張っちゃおー!」
そう気合を入れた私だったけど、その日は結局疲れてほとんど手につかなかったっていうのは、見なかったことにしてほしいなっ!


○金美のぐーたらいふ


「あづいぃぃ」
私は部屋でぐったりしながらゲームをしていた。
さすがに暑すぎやしない?
今日何度?こんな日にお出かけする人はきっと頭がおかしい。

時々実家に帰るとおばあちゃんが運動しろ、動けってうるさいけど私は運動とは無縁の人生を送るんだぁ。
手に届くところにはお菓子とジュース。横になりながら好きなゲームをポチポチするこの生活からは抜け出すことはできない。
一生夏休みだったらいいのになぁ。

「金美、あんたまたダラダラして。夏休みだからって気抜いてんじゃない!」
「お姉ちゃん。やめてよぉ。私は今人生のピークを満喫してるんだよぉ」
「こんなのが人生のピークって…」
私のお姉ちゃん、金速金恵かねはやかなえは呆れた顔をしながら続けた。

「あんた、課題は進んでるの?」
「課題ぃ?もちろん進んでるよぉ」
「あらそう。ならいいんだけど…」
「三ページぃ」
「進んでないじゃない!」
お姉ちゃんは私に勢いよくツッコんだ。

「ちょっと、やめてよね。課題終わらなくて委員会に出れないとかっていうのは…」
「うん、そうならないように頑張るよぉ」
「はぁ…」
お姉ちゃんはため息をついている。

「そういうお姉ちゃんは、委員長とどうなのぉ?」
「な!そ、そんなことあなたには関係な!…くはないわね」
「むしろ大ありだよぉ」

月くんと一緒に『くっつき大作戦』を実行してから、少しは仲が良くなったはずだし、それ以降もちょくちょく私がいい感じに二人にしているから進展はしていると思うけど…。

あんまりお姉ちゃんの口からそのことについては言ってこないし、私もゲームがかかっているから手伝っているけど、正直それがなければどうでもいいとは思っているので自分からもあまり聞かない。
でも今は私の課題を話に出されたので軽い仕返し程度に聞いてみた。

「で、どうなのぉ?」
「…」
「…じ、実は…」
「うん」
「今度の夏祭り、一緒に行くことになった…」
お姉ちゃんは顔を赤くして小さい声で話した。

「えぇ!そうなのぉ?」
「う、うん」
「夏祭りって、隣町のぉ?」
「そうよ」
「よかったじゃん。どっちから誘ったのぉ?」
「そ、それは…。私から…」
「おぉ!いいねぇ。私たちの『くっつき大作戦』がきいてるねぇ」
「まあ、そうね…」

二人の仲はだいぶ進展しているようだ。
これは委員長とくっつく日も近いかなぁ。

「…」
「?どうしたのよ?」
「ねぇ、お姉ちゃん…。私とゲームしようよぉ」
「ええ?その前にあなたは課題を…」
「一緒にゲームしてくれたらぁ、その後でやるからぁ」
「…もう。一回だけね」
「ほんとにぃ!?じゃあ、今から準備するねぇ!」
「なんでそんなに嬉しそうなのよ」
「別にぃ」
私は準備を速攻で終わらせてお姉ちゃんを隣に呼んだ。

「それじゃあ、いくよぉ」
「ええ」
こうして私たちは一緒にゲームをした。
当然、ずっとゲームをしていた私の方が上手い。
お姉ちゃんは足を引っ張ってばかり、対戦は勝負にならなかった。
でも、お姉ちゃんと一緒にやるゲームはとても楽しかった。


「はい!もうおしまい!」
「えぇ、もっとやろうよぉ」
「だーめ。一回だけて言ったでしょ?それでも十回はやってるんだから…」
なんだかんだ私に付き合ってくれたお姉ちゃんはやっぱり優しい。

「…わかったぁ」
「なんでそんな悲しそうな顔するのよ。月くんとか他の友達とかと一緒にやればいいじゃない」
「そうだけどさぁ」
「もう。またやってあげるわよ」
「ほんとぉ?」
「課題やったらね」
「うぅ」
お姉ちゃんはそう言って部屋から出ていこうとした。

「あ、そうだぁ」
「なに?」
「委員長とのこと、月くんにも言っていい?」
「だめ!」
「でも、手伝ってもらったのに言わないのはだめじゃない?」
「そうなんだけど…。わかった、私の口から言うわ。ちゃんと委員長と関係ができてから」
「そっかぁ。でもちゃんと言ってね」
「ええ」
そう言って今度こそお姉ちゃんは部屋を出ていった。

「はぁ。委員長とくっつく日も近いのかぁ」
私はお姉ちゃんが構ってくれなくて寂しかった小さい時を思い出しながら、別のゲームのスイッチを入れた。
「違うでしょ!か!だ!い!」
「はぁい」

勢いよく扉を開けて戻ってきたお姉ちゃんに怒られてしまったので、私はゲームの電源を落としてしぶしぶ机に向かったのだった。


○生徒会長と経理委員長


生徒会長は激務だ。
当然卒業後の待遇もいいのだし、学校の運営を任されているのだから仕方ない。
夏休み中も学校に行くことは多々あるが、今日は休みだ。

今は待ち合わせのファストフード店であいつを待っている。
あいつとは経理委員長の数井冬馬かずいとうま
冬馬は現経理委員会委員長で唯一の男子でもあるため仲が良い。
もちろん他の委員長とも仲は良いが、やはり同性というのは気楽でいい。

「お待たせ、勉」
「ああ、待ったな」
「ちょっと。そういう時は、俺も今来たとこだっていうのがセオリーだろ?』
「二分遅刻だ」
「ごめんなさい!」
そう言いながら冬馬は席に着いた。

「それで、今日はどうしたんだ」
「いや、ちょっとな」
今日は冬馬から誘いがあった。相談したいことがあるから聞いてほしいということだった。

「俺、今度の夏祭りさ。金恵に、経理副委員長に二人で行かないかって誘われて…」
「そうか」
「それだけ!?」
「行くのか?」
「まだ返事してない。金恵から誘ってくれたんだけど、正直誘われるなんて思ってなかったからびっくりしちゃって」

「嫌なのか?」
「嫌じゃない。でも、夏祭りに誘うってことは…。俺に気があるよな?」
「うぬぼれるな」
「ええ!もしかして違う?」
「いや、違くはないだろうな。気があると思う」
「なんだよ。でもそうだよな、気がありそうだよな。俺、あんまりそう言う感じで見てこなかったからどうすればいいのかわからなくて…」
冬馬の相談は恋の相談だったようだ。

「勉ならどうする?」
「お前は彼女のことが嫌いなのか?」
「そんなわけない!」
「好きなのか?」
「好き…っていうか。そういうの考えたことなかったっていうか」

「…お前、受験の方はどうなってる?」
「ああ、受験は大丈夫だ。行きたいとこには推薦で行けそうだし、なめてるわけじゃないけど一般で受けても問題なさそうだ」
「そうか。進路に関しての心配はなさそうか。なら、行ってみればいいんじゃないか?」

「でも、この誘いを受けたら相手にそう思わせてしまいそうじゃないか?」
「俺は相手のことが好きじゃなかったら行ってはいけないなんてことはないと思うぞ。好きじゃなくても大切だとは思っているだろ?」
「それはもちろん」

「大事な相手からの誘いを断るのもなかなか難しいだろう。それに、二人で夏祭りに行くことで好きかどうかわかる、あるいは好きになるかもしれない。だから俺は行くべきだと思うけどな」
「そうか…」
俺は俺を頼ってくれた冬馬に自分の思っていることを伝えた。

「まあ、最終的に選ぶのはお前だが、俺はどっちの選択をしてもお前の選択を支持するよ」
「勉〜!」
冬馬は目を光らせながら俺に抱きつこうとしていた。
その時店員さんが俺たちの頼んだ飲み物と料理を運んできてくれた。

「タイミングの悪い…」
「俺的には助かったんだがな」
俺たちは運ばれてきた料理を食べ始めた。

「ありがとう、勉。相談乗ってくれて」
「気にするな。ここはお前のおごりだ」
「ええ!?聞いてないんだけど!?」
「ははっ、冗談だ」
やはりこいつ、冬馬といるのは面白い。

これからもこんな関係が続いていったらいいなと、そう思いながら俺たちは頼んだ料理を平らげた。


後書き

二十六話です。最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回はそれぞれの夏休みを書いてみました。1とあるので2もあります。
でも2までしかないです。
金美さんはお姉ちゃんが大好きですからね。一緒にゲームできてうれしかったんでしょうね。
入神会長と冬馬先輩は男同士の委員会のトップということで仲がいいです。
次は紡木さんと日早片さんの夏休みを書こうと思います。
続きもぜひ読んでいただけたら嬉しいです。感想も大大大大歓迎です。
よろしくお願いします。


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